「いざ、日本の祭りへ」(1) 三社祭と浅草ガイド

氏子、宮頭、宮出し……9つのキーワードで見る三社祭2012

社会 文化

三社祭を9つのキーワードで見ると、祭りの楽しみ方が違ってくる。浅草に生まれ育った氏子の心境、浅草に魅了されて移り住んだ人の想い、神輿を復活させ継承する技、本社神輿を陰で支える人の想いなど。そこに見えるのはただ一つ「祭りをいいものにしたい」。三社祭はそんな一人ひとりが物語の「主人公」なのだ。

神輿:身を清めるような思いで作る

宮本卯之助商店代表取締役会長・宮本卯之助(みやもと・うのすけ)さん。

100基以上の神輿が躍動することで知られる三社祭。その神輿の多くは宮本卯之助商店が手掛けている。創業は1861年。神輿のほかにも、太鼓、能楽雅楽器などの製造、復元修理などを行っている。

神輿(みこし)は、神様の御霊を乗せてお運びする乗り物。神様は普段神社に祀(まつ)られているため、神輿も神社を模した荘厳な作りとなっている。

三社祭の神輿は色鮮やかな極彩色(ごくさいしき)に仕上がっているのが特徴だが、それは「三社様」を祀る浅草神社社殿が日光東照宮(栃木県日光市)の建築様式を踏襲しているからだ。第二次世界大戦で本社神輿は焼失してしまったが、昭和25年(1950年)に一之宮と二之宮が、昭和28年(1953年)に三之宮が宮本卯之助商店の手によって復元された。

昭和25年に一之宮と二之宮が宮本卯之助商店によって復元された。(写真提供=宮本卯之助商店)

「戦後の焼け野原からの復興には、“祭り”が精神的な支えになりました。みんなの心をひとつにして、元気を出していこうじゃないか、という思いがあったからでしょう。復元は五代目の時でしたが、神輿は焼失していますし、写真も残っていなかったこともあり、日光東照宮まで調査をしに行ったようです」とは代表取締役会長であり七代目の宮本卯之助さん。

1基の神輿を作るのに、細かく分けると20ほどの工程があるという。神輿作りには、そのひとつひとつを丹念に仕上げていく職人の存在が欠かせない。

「木地作り、漆塗り、飾り金具の装着、屋根の裏側に金箔を施すなど、それぞれの工程に専門の職人がつき作業をします。三社祭の神輿の場合には、さらに極彩色を各部分に施していきます。そして最終的に各工程で仕上げたものを一つにまとめるのです」

また、激しく揺さぶられる神輿はきらびやかであると同時に頑丈でなくてはならないため、日本の伝統的な建築技術である木組みの製法がとられている。構造部分には釘は一切使われておらず、特に桝組(ますぐみ)は屋根の重量を分散して堂に伝えるクッションの役割を果たしている。

「神輿を大きく揺らすことを“揉(も)む”と言いますが、これは神霊を人びとに振りまくことによって、町の安寧や平和を願うために行います。三社祭の宮出しでは、3000人以上もの担ぎ手が激しく揉むため、頑丈な作りでなくてはなりません。神輿は檜(ひのき)や欅(けやき)を主として作られることが多いですが、本社神輿の親棒(担ぎ棒)は特に硬い樫(かし)の木を用いています」

宮入りの時、1日中各町を渡御した神輿が無事に戻ってきたのを見ると、安堵の気持ちでいっぱいになるという。

「神事に使っていただくものですし、神輿は氏子の方々にとって“誇り”ですので、身を清めるような気持ちで作っております。あらゆる世代が祭りに参加し、協力することで、つながりのある社会ができる。それは、災害時などにもきっと役に立つはずです。私どもが作った神輿を通じて、町の皆さんが心をひとつにし、絆を深める一助になれば、大変幸せに思います」

土師中知・檜前浜成、竹成を表す「三網紋(みつあみもん)」。

屋根の下の桝組(ますぐみ)には釘は一切使われていない。

宮本卯之助商店本社には、昭和30年(1955年)頃に製作された神輿が展示されている。屋根には鳳凰が堂々と君臨する。

三社型の神輿は蕨手(わらびて)が屋根の四隅の下からせりあがっているのが特徴。

駒形の担ぎ棒。

宮本卯之助商店の神輿納品(駒形町会にて)。

駒形町会の棟梁・菊池さんによる担ぎ棒の縄縛り作業。

無事に納品を終え、全員で記念撮影。翌日からの町会渡御の準備は万端だ。

宮本卯之助商店本社(住所/〒111-0032 東京都台東区浅草6-1-15 TEL/03-3873-4155 定休日/土日祝) 西浅草店(住所/〒111-0035 東京都台東区西浅草2-1-1 TEL/03-3844-2141 定休日/年中無休) http://www.miyamoto-unosuke.co.jp/

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