
「空白恐怖症」「ばえる(映える)」が大賞:国語辞典の編者らが選んだ2018年の新語
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三省堂「今年の新語2018」語釈と選評
1位 ばえる(映える)
ば・える[(映える)](自下一)
〔俗〕〔写真などが〈SNSで/SNSに投稿したくなるほど〉〕きれいで目立つ。はえる。「―カフェ」〔二〇一〇年代半ばからのことば〕「SNS映(バ)えする」という表現の「ばえ」を動詞化したもの〕
(『三省堂国語辞典』編者・飯間浩明氏の語釈)
ば・える【映える】(自下一)
〔SNSの「インスタ映(バ)えする」の「映え」を動詞化したもの〕写真や映像などが、ひきとわ引き立って良く(おしゃれに)見える。〔おもにSNSで写真を投稿し合う人たちの間で用いられる語。単に目を引く映像や、映像に限らず目の前の光景を表する際にも口頭で感動詞的に用いられる〕「さすが、一晩ねばって撮った一枚だけあって―ねえ/―後ろ姿がたまらない」
(『新明解国語辞典』編集部の語釈)
ば・える(動ア下一)
〔「はえる(映)」の濁音化。「インスタ映えする」の意〕景色・場面・人物・料理等が、思わず人に見せたくなるほど印象的に見える。「京都の街路に―・えているファッション」
(『大辞林』編集部の語釈)
ば・える【映える】〈自動下一〉
見ると、驚いたり感じ入ったりしてしまいそうな、まわりから浮き立つよい雰囲気をかもし出している。「彼氏にするなら―ほうがいい・映えない写真(=ほかのものと変わらない つまらない写真)」[日本語の歴史では、濁音から始まる訓読みの単語は、「ざま」「だま」「ばれる」のように、よくないニュアンスを持つことが多いが、「ばえる」は、「インスタ映え」のような言い方から「ばえ」を切り出してさらに動詞化したものなので、よいニュアンスで用いられる]
(『三省堂現代新国語辞典』編者・小野正弘氏の語釈)
【選評から】
「インスタ映えする」「SNS映えする」の「ばえ」が独立し、名詞「ばえ」や形容動詞「ばえな○○」、とりわけ、動詞「ばえる」が浸透してきた。意味も変化している。SNSに投稿しなくても、景色や小物、スイーツなど、見映えがいいものを「ばえる」と表現する。ただし、撮影・投稿したいほど、という語感がある。みんなで共有したいほどの美しさを表すという、SNS社会ならではの感覚を象徴する新語であり、大賞にふさわしいと評価された。
この「ばえる」は、漢字では「映える」と書いて「はえる」と区別がつかないので、例を集めにくい面がある。私たちは目下、仮名書きの「ばえる」としては2017年以降の例を、音声としては2018年の例を採集している。普及したのは2017~18年頃と見ておく。
2位 モヤる
もや・る[モヤる](自五)
〔俗〕もやもやする。特に、不満や不愉快(フユカイ)、反発を、ばくぜんと感じる。「見ると―投稿(トウコウ)はブロックする」〔二〇一〇年代に広まった ことば〕
(『三省堂国語辞典』編者・飯間浩明氏の語釈)
【選評から】
「もやもやする」「もやっとする」の省略形。『三省堂 現代新国語辞典』(現新国)の第5版(旧版)で「もやもや」を引くと、靄(もや)がかかった様子の意味のほか、〈すっきりしないようす。「胸の中が―する」〉という意味が記されている。これが以前からの用法だ。「もやもや」は、うまく整理できない、複雑な心理を表す。
一方、最近の例を見ると、「もやもやする」「モヤる」は、すっきりしないだけではなく、もっと明確な負の感情にも使われている。2018年刊行の『現新国』第6版(最新版)には、「もやもや」に〈釈然としない・納得できない〉という意味が加わった。「もやもやする」「モヤる」は、不満や反感、怒りなども含めた、負の感情を婉曲に表現することばとして使われる。
SNSの世界では、激しい罵り合いが横行する一方で、自分の負の感情を直接的に表現せず、トラブルを回避しようとする傾向も見られる。トラブル回避のための婉曲表現である「もやもやする」「もやっとする」、さらには同義語「モニョる」などを代表する形で、「モヤる」が2位にランクインとなった。
3位 わかりみ
わかりみ〖分かりみ〗〈名〉
理解できること。共感できること。また、その度合い。「―が深い・―がすごい」[最近の若い世代の言い方。接尾辞「み」は、本来、「赤み」「面白み」「新鮮み」のように、一部の形容詞・形容動詞の語幹にのみ付くものであったが、「つらみ」「尊み」のように、従来は「つらさ」「尊さ」と、接尾辞「さ」しか付かない形容詞語幹へも広がった。「分かりみ」は、それが、さらに動詞の連用名詞形にまで広がったもの]
(『三省堂現代新国語辞典』編者・小野正弘氏の語釈)
【選評から】
選考過程で「ベストテンに選ぶのは今さら感がある」という意見もあった。この「今年の新語」のプレ企画に当たる「今年からの新語2014」で「~み」という接尾語を選んでいるからだ。当時は「~み」を〈形容詞の語尾「…い」を、名詞のように言い終えることば〉と説明し、「ねむみ(=ねむい)」「おやつを横取りされてつらみ(=つらい)」の例を添えた。
ところが、この「~み」は、以前よりも用法が拡大している。「眠い」「つらい」などの形容詞につくばかりではない。「わかる」など動詞にもついて、「わかりみが深い」の形で「非常によくわかる」の意味を表すようになった。4年前の「~み」の記述は、すでに現状に合わなくなっている。
「~み」はこのほか、「ラーメン食べたみが強い(=とても食べたい)」のように助動詞「たい」にも使うし、「髪型の武田鉄矢みがすごい(=武田鉄矢にすごく似ている)」のように名詞にも使う。こうした「~み」の用法拡大を確認しておく意味で、「わかりみ」が3位に選ばれた。
4位 尊い
とうと・い[尊い]タフトイ(形)
〔俗〕〔アイドル・キャラクターなどが〕とても美しくて、いとおしい(と思わせるようすだ)。「ヒデキ―!」〔二〇一〇年代半ばからの用法〕
(『三省堂国語辞典』編者・飯間浩明氏の語釈)
【選評から】
「『ラブライブ!』の千歌(ちか)ちゃん尊い……」というように、美しすぎて、いとおしいと思わせる様子を指す。用例は2014年頃から増えているが、2018年になって、この意味の「尊い」がタイトルになった書籍が複数現れた。たとえば、『推しが尊すぎてしんどいのに語彙力がなさすぎてしんどい』という「腐女子語」の辞典はそのひとつだ。こうしたことから、ランクインの好機と判断した。
日本の古典文学では、自分が大切に思う人のことを「あが仏(=私の仏様)」と呼ぶ。「尊いアイドル」も、「自分が仏様のように思うアイドル」と考えれば、昔の日本人の捉え方を受け継いでいるとも言ええう。
5位 VTuber
ブイ チューバー〖VTuber〗
〔バーチャル-ユーチューバーの略〕動画配信サイトのユーチューブで、生身の人間に代わって投稿コンテンツに出演するコンピューター-グラフィックスのキャラクター。
(『大辞林』編集部の語釈)
【選評から】
表記は、今のところはカタカナ書きよりもアルファベット書きのほうが多いようだ。これまで、ユーチューバーは画面に自分の顔を出して話していた。それが、CGに自分の代わりをさせるという方法で、「顔出しNG」の人にも情報発信ができるようになった。VTuberは今後、人々の情報発信の機会を格段に広げるだろう。ネットの検索数の推移を見ると、「VTuber」ということばは2018年に入って一気に広まったと考えられる。用例も、それ以前は比較的少数だ。「今年の新語」の資格は十分ということで、5位に入った。
6位 肉肉しい
にくにく し・い【肉肉しい】(形)
〔特に牛などの赤身の肉料理で〕量感に加えて質感までもが強く感じられ、見るからに、肉のうま味や食感などが好ましく感じられる様子だ。〔近年の言い方〕「ワインに合う―一皿を豪快に味わう/―ハンバーグ」
(『新明解国語辞典』編集部の語釈)
【選評から】
「憎憎しい」と同音になっている点で、面白いことばだ。「いかにも肉のおいしさが感じられる」というプラス評価のことばが、「憎憎しい目で眺める」のように嫌悪感を表すことばと同音とは……。「誤解が起こる元だ」と批判する向きもあるかもしれない。ただ、「肉肉しい」は、肉料理が食べたいとか、現在食べているとかいう状況でしか使われないので、意味の混乱はさほど心配しなくてもよさそうだ。むしろ、「憎らしいほどおいしそうな肉」という語感もあるので、今後とも人々に愛用されていくのではないだろうか。
このことばは、2018年に突如として検索数が増えた。グーグルのCMで「肉肉しい料理食べたい」「そしたらさ、『肉肉しい料理の店』で検索してみる?」という会話とともに、このことばを検索する様子が映し出されたからだ。音の響きの面白さに加えて、多くの人が「肉肉しい」を検索した(つまり、このことばを使用した)ということで、「今年の新語」に入った。国語辞典の見出しならば、多くは「肉肉しい」となるはずだが、一般には「々」を使って「肉々しい」と書くのが自然だ。もっとも、グーグルのCMも「肉肉しい」だった。
7位 マイクロプラスチック
マイクロ プラスチック〖microplastic〗
大きさが五ミリメートル以下の微細なプラスチック。ペットボトル・レジ袋・ストロー等のプラスチック製品が海洋に流入し、波や紫外線等によって劣化し、砕けたもの。大量に存在することが知られるようになり、深刻な環境汚染の原因として近年問題になる。
(『大辞林』編集部の語釈)
【選評から】
近年、深刻な環境汚染源として問題になっている。プラスチックごみが海の中で微細な破片になり、有害物質を含んだまま沖合に流れて、生態系に悪影響を与えるといわれる。問題は短期間での解決は難しいと見込まれるため、今後の国語辞典に、このことばを載せないわけにはいかないだろう。
8位 寄せる
よ・せる[寄せる](他下一)
性格が近いものにする。似たものにする。「俳優が原作に寄せた演技をする」〔二〇一〇年代からの用法〕
(三省堂国語辞典』編者・飯間浩明氏による語釈)
【選評から】
ごく基本的な動詞だが、近年になって新しい用法が生まれている。例えば、「アニメの設定を現実に寄せた(=似せた)ものにする」「お母さんのレシピに寄せて(=レシピをまねて)ギョーザを作る」のように使う。
こうした用法については、私たちは2011年の例を採集しており、「今年の新語」でも第1回から毎回投稿がある。これまでランクインしなかったのは、すでに辞書に書いてある「近づける」という意味で解釈できると考えていたからだ。しかしながら、上記の例のように、やはり「近づける」とは別の意味と考えるべき例が多いため、今回、広い意味での「新語」と考えて、8位とした。
9位 スーパー台風
スーパー たいふう【スーパー台風・スーパー〈颱風】
〔←super typhoon=米国の合同台風警報センターによる最大強度階級の台風〕 最大風速が毎秒約六五メートル〔=一三〇ノット〕以上の極めて強い台風。日本の気象庁の最大強度階級である「猛烈な(最大風速毎秒五四メートル)台風」を超える。
(『新明解国語辞典』編集部の語釈)
【選評から】
2018年の台風の被害は特に甚大だった。関西空港が機能停止に陥った9月初めの21号、そして9月末から10月1日にかけて日本を縦断した24号と、超猛烈な台風が2回も襲来した。「スーパー台風」の用語を多くの人が知った年だった。外来語「スーパー」(超)は、「スーパーマン」「スーパーマーケット」など、優れたもの、便利なものに使われることが一般的だった。ところが、「スーパー台風」などの「スーパー」は、そうしたイメージからはかけ離れている。
10位 ブラックアウト
ブラックアウト 〈名〉[blackout]
(1)[夜間の]大規模な停電。また、そのことで混乱や不安が広がること。「大災害時の―」(2)報道規制、灯火管制、記憶障害など、一時的に働きが止まること。(3)[演劇などで]舞台が暗転すること。
(『三省堂現代新国語辞典』編者・小野正弘氏の語釈)
【選評から】
9月の北海道地震の後、道内全域に起きた停電のニュースで一般に知られた。インフラや住民生活に重大な影響が及び、深刻な語感を伴って使われた。「ブラックアウト」は、英語では停電の意味だが、日本語では、とりわけ大規模停電とその被害を指す。
選外
半端ないって
【選評から】
ワールドカップロシア大会での大迫勇也選手の活躍を称えた言葉だが、すでに三省堂の複数の国語辞典に載っている。ただし、「って」は、強い主張を表す終助詞の一用法として、選考会議で話題になった。
そだねー
【選評から】
ピョンチャン五輪でカーリング女子代表が使った北海道方言だが、「そうだね」と同様、単純な連語で、辞書の項目には立たない。