
技術革新と女性の新しい生き方—吉田晴乃BTジャパン社長
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2017年2月経団連の女性訪米グループ代表を務めた吉田晴乃BTジャパン社長(17年2月27日、ワシントン/時事)
英国最大手通信会社BT(ブリティッシュテレコム)日本法人社長の吉田晴乃さんは、2015年9月、日本経済団体連合会(経団連)で初の女性役員に就任、女性活躍推進委員会委員長を務めている。17年2月末には企業の女性幹部から成る初の使節団を率いて訪米。トランプ政権で女性の起業家支援を担当するディナ・パウエル大統領補佐官や民間企業の女性幹部らと会談するなど、政府が成長戦略の柱に据えた女性活躍推進のスポークスウーマンとして、多忙を極める日々だ。
「最近取材やセミナーでは『4つのわらじを履いている』と自己紹介しています。BTジャパンの社長業、経団連役員、昨年9月に内閣府から任命された『規制改革推進会議』の委員、そして一人娘の母としての役割です。こちらの会議、あちらの会議と飛び回る毎日で、海外ミッションもあります。いつも夜は11時ごろ就寝、朝の4時にはテレビをつけてCNNを見ます。トランプ大統領に関するニュースが次々に飛び込んでくるので、面白くて仕方がない。寝てなんていられません」
就職、結婚、専業主婦のルートから外れて
「今、日本社会は大転換期にあります」と吉田さんは言う。政府はデジタル化の技術革新による生産性向上と人中心の社会の両立を目指す『Society 5.0』(本文末参照)の構築を推進することを閣議決定、経団連に代表される財界もそのための取り組みに前向きだ。技術革新(イノベーション)がもたらす新たな時代の女性の活躍、働き方改革とはいかなるものか。
「今、私は経団連女性初の役員となり “時代のアイコニック” な存在です。でも、“王道”からはずれ、無我夢中で “裏街道” を歩んできた結果が今の私です」と吉田さん。「私が大学を卒業した80年代後半はいわゆるバブル時代。男女雇用機会均等法が制定された85年は大学生でした。私自身は就職してしばらく働いたら、結婚して専業主婦になると思っていた。ところが、卒業と同時に、突然原因不明の難病に襲われました。毎日高熱にうなされ、目もほとんど見えなくなった。生死をさまよう日々からなんとか回復しましたが、新卒で日本企業に就職する機は失った。就職したのはモトローラの日本法人。好きな洋画で培った英語力が面接で役に立ちました。モトローラ入社がグローバルICT(情報通信技術)との出会いでした」
「もっとも、20代後半でカナダ人と結婚してカナダに移住した際も、単純に幸せなCanadian motherになって、子どもをたくさんつくりたい、と夢見ていました。ところが人生そう甘くはない」と吉田さんは豪快に笑う。「離婚してシングルマザーとして渡米、子育てしながら海外の通信会社を渡り歩き、必死で生きてきました。幸いだったのは営業の仕事が面白かったこと。デジタル産業に救われたと言えます。横並びの日本の会社にいたことはないし、入社式の経験も、送別会をしてもらったこともない。キャリアパスに関するコーチングを受けたこともありません。とにかく働いて娘を育て、生き抜かなければという強い欲求に突き動かされて、結果的にグローバルに仕事をしてきました。特別に優秀だったわけでもなく、ガラスの天井なんて悠長なことも言っていられなかった。悔いがあるとすれば、娘との時間を優先できなかったことですね。その葛藤はありました」
幸せな専業主婦を夢見ていたが、挫折を味わい、シングルマザーとして生き抜くために必死で生きてきた
技術革新が可能にするワークライフバランス
吉田さんは、今、日本が目指す働き方改革は、自分の子育て時代、「2、30年前には実現できなかった」ことだと言う。「技術革新によって、生産性を下げずに家庭と仕事を両立させる。長時間労働は現実的ではありません。ワークライフバランスに苦しんでいるのは、洋の東西、男性女性を問わないはず。デジタル化を通じて、24時間という定数は変えられなくても、変数の部分、つまり1日でできる活動を大幅に広げられる時代が到来しています」
「戦後の家庭内の技術革新によって、家事から解放された女性たちの社会進出が可能になりました。今度はオフィスの技術革新を進めなければ。いつでもどこでも、自分がパソコンをスイッチオンしたところが仕事場になる。どこにいても会議に参加できるシステムの導入が理想的です。BTは米国の音響会社ドルビー社と、高品質の音声会議サービスを共同開発しました。在宅時はもちろん、スマホのアプリをクリックすれば、移動中でも会議に参加できる。ワークライフバランスの実現、女性の活用にはこうした『テレワーキング』の導入が必須です」