スマホゲームのキーマンが語るGoogle・Appleに続く第3のプラットフォームとは?
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コンソールゲームの「落日」は日本だけの現象
——ゲームプラットフォームの世界で起きた地殻変動に関してどうお考えですか。かつてコンソールゲームで市場を制覇した任天堂、ソニーは「凋落」、今やモバイルゲームが主流になっています。
真田哲弥 確かに、任天堂を筆頭に日本のコンソールベンダーが不調です。ただしこれは日本だけの現象で、今、PlayStationはPS4が最速で世界累計販売台数2000万台を突破、欧米では絶好調でPS3をはるかにしのぐ売れ行きです。
ここ数年日本のコンソールの国内市場規模(ハードおよびソフト)は縮小を続け、今や4000億円台です。一方で、欧米ではコンソール市場は拡大しており、今や日本と欧米で大差がついてしまったというのが現状です。
ただ、アジアはまた別です。そもそも中国、韓国にはコンソールゲームがなかったし、パイラシー(海賊盤)の問題や、COCOM(対共産圏輸出統制委員会)規制に引っかかって、中国には輸出できない時代もあった。ゲームマシンそのものがなかったから、韓国、中国の文化圏ではPCゲームになり、PC房など、いわゆるネットカフェがはやった。みんながそこでゲームをやり、独自のオンラインゲーム文化が発達、中韓文化圏独特のゲーム文化を形成していった。
——日本でコンソールが不調、モバイルが主流になったのはなぜでしょう。
真田 欧米では、映画とテレビの関係に例えて、コンソールゲームとスマホゲームを比較する議論が多い。映画文化があって、その後にテレビが出現した時に、映画は廃れるという見方があった。ところが、映画はテレビとの差別化でどんどん大作主義になり、何十億もの製作費をかけるようになり、完全なすみ分けが実現した。それと同じだという論です。だから、今の欧米のゲームでTake-Two InteractiveやUbisoftなど、本当に映画と見まがうばかりの高精細グラフィックで、300億もの開発コストをかけたゲームもある。あの迫力を携帯の小さな画面で再現するのは無理。
一方で、今、日米のコンソールゲームの製作費を比較すると、ハリウッドと日本映画のそれと同様の開きがあります。
最近スマートフォンでも、売れ筋の3Dグラフィックの大作に2億、3億かけ、邦画より予算は高いという時代になってきている。『FF(ファイナル・ファンタジー)』のような超大作を除けば、コンソールゲームと変わらない製作費をかけている。
つまり、欧米ではFPS(一人称視点のシューティングゲーム)を含め、リアルなグラフィックの迫力あるゲーム路線を進んでいる。一方、日本では米国の映画とテレビの差別化に例えられるゲームのすみ分けが起こらなかったことが、ひょっとしてスマホにコンソールが食われている原因の1つかもしれません。
これは私の仮説ですが、日本のゲームが「ガラパゴス化」を歩み始めたのは、『ドラクエ(ドラゴンクエスト)』からだと思う。欧米が3Dの迫力主義に進む一方で、日本は2DのRPGに進んだ。スマホ上なら、友達と一緒に冒険ができる。共闘、対戦という、比較的日本で人気があったゲームシステムがスマホとの相性が良かったということではないか。
Google、Appleに並ぶ第3の覇者は
——モバイルの時代になっても、「iモード」サービスを始めとした通信会社、その後、ソーシャルネットワークのDeNA、グリーといった日本企業が国内においてはがっちりプラットフォームを握っていた。ところが今や、プラットフォームはGoogle、Appleの寡占状態です。この状況をどう思われますか。
真田 われわれゲームベンダーの立場からすると、競争が働く複数のプラットフォームが併存して、しっかりガバナンスを利かせている状態は、無政府状態よりは望ましい。ユーザーが混乱しないし、マーケティングの面でも、ここに並べれば売れるという安心感があります。インターネットの世界には、詐欺まがいの品質の低いサイトやコンテンツがある。その中をネットサーフィンしていいものを選び出すリテラシーがある人はいても、エントリーユーザーには難しい。セレクションに合格した「㊝印」の、どれを取ってもそれなりに優れたコンテンツを厳選して並べてくれたほうが分かりやすいわけです。
これが1社の独占になっていくと、けん制関係が利かず、ロイヤルティーその他の条件で言いなりにならざるを得ない。理想的には、3社あれば、どれも30%超のシェアとなり、三権鼎立でベンダーの立場からするとやりやすい状況になる。
——複数のプラットフォームを柔軟に乗り換えていくということですね。その3社目が登場する可能性については、どうお考えですか。
真田 水平統合のプラットフォームを打ち破るのは必ず垂直統合のプラットフォームです。垂直統合のプラットフォームを打ち破るのは、水平統合のプラットフォーム。水平と垂直の交代の歴史なんです。
具体的に言うと、“Wintel” の時代は、どのメーカーもWindows、それにIntelのCPU搭載というように、メーカーを横串に水平統合した世界でした。
それを打ち破ることができたのは垂直統合したApple。AppleのCPUにAppleの iOS、ハードウエアはAppleで、ソフトウエアの販売はApple Storeという、下から上まで全部を垂直統合したAppleの世界観です。
今度、垂直統合されたものを打ち破るには水平統合しかない。私が次に出現する可能性が高いと思っているのは、iOSだろうが、Androidだろうが、全部の上で動くHTML5マーケットです。水平統合であらゆるOSの上で動くHTML5マーケットが、この垂直統合を打ち破る。私は、そろそろHTML5ゲームが出現するのではと思っています。
——そのHTML5マーケットの中で、課金システムを提供してくれるところがプラットフォーマーになるということでしょうか。
真田 プラットフォームの二大機能というのは、要は課金と集客力です。それとコンテンツギャザリングですよね。この全てを兼ねそろえた企業はそんなに多くない。日本だとYahoo!か楽天、LINEぐらいしかない。その3社がHTML5マーケットを自社のユーザー向けに提供し始めると、事態は変わる可能性はありますね。米国なら、Facebook、Amazon、Pay Palといったところでしょうか。
中国製ゲームの特殊性
——アジアに目を向けますと、中国市場が注目されています。『ドラクエ』を作った堀井雄二氏、『スーパーマリオ』の宮本茂氏のような、スタークリエーターが中国から出現して、日本を始め、世界で活躍する可能性はありますか。
真田 ゲームのルールを塗り替えるようなエポックメーキングなゲームは、天才型のクリエーターからしか生まれません。ただし、私はゲーム開発には、子どもの頃の体験が影響すると思っています。子ども時代にはまったゲームは何だったのかが、自分がゲームを作るときに影響する。何を食べて育ったかによって、体質が変わるみたいな・・・。今のスマホゲームを見ると、欧米と中華圏、日本でそれぞれ「食べ物」が違うというのが、如実に表れています。
日本人の場合は、子どものころに『FF』とか『ドラクエ』で遊んだ人が多い。だから、日本ではRPGとアクションゲームを足して割ったようなゲームが売れて、量産されている。欧米で人気があるのは、スマホでもFPS、シューティングゲームですよ。あるいは、カジノにルーツがあるゲーム。やっぱり作り手が、昔自分でプレーしたゲームになる。
ところが、中国ではコンソールゲームで遊んだ経験がなく、オンラインゲームで育った人が、今作り手側になっている。いわゆる「洋ゲー」をやった経験もない。僕らからするとものすごく違和感があるゲームを作る。ですから、中国の市場に特化しているクリエーターが、日本で活躍することは難しいと思います。
一方で、中国市場は1カ国だけで欧米市場全体よりも大きくなると思っているので、戦略は必要。しかし、中国向けにはちょっとルールを変えないといけないので、KLabとしては企画段階から中国向けの要素を織り込んだ別アレンジのゲームで勝負しようと思っています。
「栄養バランスの良さ」が日本の強み
——日本のゲーム業界の人材についてどう思われますか?
真田 日本は比較的1人のスーパースターに依存する作り方が伝統的だった。でも、スマホゲームの開発には、うまくチームマネジメントをして、コントロールしながら1つの目標に動かしていくプロジェクトマネジメント能力が必要です。もちろん、ゲーム作りのバックボーンになる技術的知識も深くなければならない。
日本のゲームプロデューサーは、オンラインゲームも体験し、コンソールでRPGやアクションゲームで遊び、たまには洋ゲーでも遊んだ。「栄養バランス」がいいプロデューサーが多いというのは、日本のゲーム開発にとって有利だと思っています。
(2015年3月5日のインタビューに基づいて構成。インタビュアーは増澤貞昌ニッポンドットコム編集委員)