2015年の訪日外国人、2000万人の政府目標に肉薄
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国・地域別では中国が初のトップ
国土交通省・観光庁によると、2015年に日本を訪れた外国人旅行者は 1973万7000人(推計)で前年比47・1%増加し、3年連続で最高を更新した。この結果、同旅行者数は大阪万博が開かれた1970年以来45年ぶりに出国日本人数(前年比4%減の1621万2100人)を上回り、国際旅行収支はすでに昨年1~11月の段階で1兆円を上回る過去最高の黒字を記録している。
外国人旅行者の傾向としては「世界各国からバランスよく伸びた」(石井啓一国土交通相)ものの、アジア地域が1637万人と全体の82.9%を占めた。中でも東アジアが1420万人で71・9%に達する。国・地域別では、1位が中国の499万人、2位が韓国の400万人、3位が台湾の368万人、4位が香港の152万人、5位が米国の103万人。次いで、タイ、オーストラリア、シンガポール、マレーシア、フィリピン、英国と続く。
2015年の訪日外国人旅行者数及び割合(国・地域別)
国・地域 | 人数 | 割合(%) | |
---|---|---|---|
1 | 中国 | 499万人 | 25.3 |
2 | 韓国 | 400万人 | 20.3 |
3 | 台湾 | 368万人 | 18.6 |
4 | 香港 | 152万人 | 7.7 |
5 | 米国 | 103万人 | 5.2 |
6 | タイ | 80万人 | 4.0 |
7 | オーストラリア | 38万人 | 1.9 |
8 | シンガポール | 31万人 | 1.6 |
9 | マレーシア | 31万人 | 1.5 |
10 | フィリピン | 27万人 | 1.4 |
11 | 英国 | 26万人 | 1.3 |
12 | カナダ | 23万人 | 1.2 |
13 | フランス | 21万人 | 1.1 |
14 | ベトナム | 19万人 | 0.9 |
15 | ドイツ | 16万人 | 0.8 |
日本政府観光局(JNTO)資料を基に編集部が作成
2015年に訪日外国人が日本滞在中に使った旅行消費額は3兆4771億円、前年比71・5%増と旅行者数よりさらに大きな伸びを示した。これは「半導体などの電子部品(3・6兆円)、自動車部品(3・4兆円)の輸出額に匹敵する規模で、日本経済を下支えする存在」(日本経済新聞)となっている。
支出の内訳は、買い物代が1兆4539億円超と全体の41・8%程度を占め、宿泊費(約25・8%)、飲食費(18・5%)と続く。外国人観光客1人当たりの平均支出額は17万6168円と前年比16・5%増えた。
国・地域別では、中国人旅行者の消費額が1兆4174億円で全体の40・8%と他を圧倒し、次いで台湾が5207億円(全体の15・0%)、韓国が3008億円(8・7%)と、東アジアの近隣国・地域からの旅行者の消費額が多かった。
円安や対中関係の安定が追い風に
訪日外国人旅行者が増え続けている理由について観光庁は、①円安進行による訪日旅行の割安感②短期滞在査証(ビザ)発給要件の大幅緩和など日本側の政策対応③アジア地域の経済成長に伴う海外旅行需要の拡大——などを挙げている。
消費税免除(従来の家電製品や衣類から日用品や飲食料品などに拡大)に円安効果が加わったうえ、2015年は懸念された戦後70周年の安倍首相の談話など70周年関連イベントを無難に通過して日中首脳が会談するなど日中の関係改善が進んだため、買い物好きの中国人旅行者の急激な拡大を呼び込んだ。1人当たりの消費額が大きい中国人旅行者の派手な購買行動は社会現象としても注目され、その破壊力のある消費行動を表す「爆買い」が同年の流行語大賞を受賞した。
各国・地域の外国人訪問者数国際比較では、日本の順位は2014年時点で22位と前年(27位)よりさらに上昇した。観光庁によると、2015年の1974万人は15位前後に相当する。
政府は、政府目標(東京オリンピック・パラリンピック開催の2020年までに2000万人)の実質前倒し達成とみられる状況を受け昨年11月、 “観光立国”に向け「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」を発足。「2000万人は通過点」(同会議での安倍首相あいさつ)として数値目標の上乗せを含めた観光戦略の拡大について検討している。
「質の高い観光立国」が課題に
2020年を4年後に控えて早々にほぼ政府目標に到達したことで、「今後とも質の高い観光立国の推進を図るため官民一体となって取り組んでいきたい」(石井国交相)として、「質の向上」を指向する発言が相次いだ。ホテルや外国語対応要員の不足など「急拡大のひずみはすでに出始めている」(朝日新聞)と指摘され、東京、大阪などのインバウンド観光のゴールデンルートではホテルをはじめ訪日客の受け皿の不備が目立っている。
業界関係者からは「次に着目すべきは『お金』。やってきた外国人観光客がしっかりとお金を落とし、それがさまざまな産業に波及し、その国の成長に大きく寄与しているかが重要だ」として「単価の安い団体観光客の人数だけを競うのではなく、経済的な波及効果のより大きな超富裕層が訪日するように、日本の文化的な魅力を充実させるべきだ」との指摘も。人数の数値目標にとどまらない観光施策の充実が新たな課題として浮上している。
政府は2016年について、中国経済の減速などの不安材料を背景として「15年ほどの劇的な要素は必ずしも期待できない」(観光庁)とする一方、「絶対数が下がるとは言っていない」(田村明比古観光庁長官)と慎重な表現ながら2000万人台への上積みを当然視しており、「訪日客2000万人時代」(日本経済新聞)に入ったとみられている。国連の専門機関である世界観光機関(UNWTO)による16年の世界海外旅行者見通しは前年比4%増とされており、他の観光先進国に遅れて観光立国を目指す日本としては当然これを大幅に上回る水準を目指すこととなろう。
「中国にはまだまだ訪日旅行の候補者がいる」という楽観論の一方で、中華圏などへの偏りから「今後は欧米や東南アジアから、より多くの外国人を受け入れることが重要になる」(毎日新聞)との指摘も。また、為替市場で年末の1ドル=124円前後から一時同115円台(1月20日現在)まで急激に円高が進み円安から円高へのトレンド変化説も一部でささやかれる。急速に円高が進んだ場合、これまで円安を背景とした旅行者増や買い物額(現在円建てで公表)も試練にさらされる可能性があるが、「為替が円高に振れてもまた来てくれるリピーターを増やしてこその観光立国」であり、観光大国化の真価が問われる。
文・三木孝治郎(編集部)
タイトル写真:天皇誕生日を祝う皇居にも多くの外国人観光客の姿がみられた=2015年12月、東京都千代田区の皇居