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海外の日本食レストラン、大幅増の8万9000店に

文化

農林水産省がこのほど発表した調査によると、海外の日本食レストランは2015年7月時点で8万9000店に上り、06年の2万4000店、13年の5万5000店から大幅に増えた。ただ、「奇妙な味」の日本食レストランも目立ち、質の向上も急務だ。

ユネスコ無形文化遺産指定が後押し

増加の背景には、寿司やそばなどに代表される、日本食の健康食としてのイメージが広まっていることや、国連教育科学文化機関(ユネスコ)が2013年に「和食」を 無形文化遺産に選定し、世界的な認知度が高まったことが挙げられよう。

2013年との比較で最も伸びが大きかったのはオセアニアで約160%増(15年7月時点で約1850店)、次いで中東の約140%増(同600店)。最も多かったのはアジアの約4万5300店(そのうち中国は約2万3100店)、2番目は米国の約2万5100店だった。

調査方法としては世界各地の在外公館が現地の電話帳やレストランのサイトで「日本食」として掲載されている店をカウントしたが、「日本食」の定義が必ずしも明確でなく、「日本食もどき」の店も含まれている可能性があるという。

日本食、中華、イタリアンが3強

世界で数多ある料理の中で和食はどれだけ人気があるのだろうか。日本貿易振興機構〈ジェトロ〉の「日本食品に対する海外消費者意識アンケート調査」(2014年)によると、モスクワ、ホーチミンシティー、ジャカルタ、バンコク、サンパウロ、ドバイの都市別のアンケート調査で、サンパウロとドバイを除く4都市で「好きな外国料理」の1位として「日本料理」が選ばれた。調査対象としては各都市で10代~50代の市民それぞれ500人の合計3000人。日本の機関の調査なので結果を割り引いてみる必要があるかもしれない。

4都市ではバンコク66.6%、ジャカルタ50.4%、ホーチミンシティー37.8%、モスクワ35.4%でとりわけバンコクとジャカルタでは日本料理の人気が突出している。アジア、米国、欧州では日本料理が中華料理やイタリア料理と互角か優位に立っているようだ。

1位寿司・刺身、2位天ぷら、3位焼き鳥

ジャンル別の人気度はどうだろうか。ジェトロが2013年12月に上記6都市で10代〜50代の3000人を対象に行った調査によると、寿司・刺身を挙げた人が35.3%と最も多く、天ぷら(9.6%)、焼き鳥(8.7%)と続いた。寿司がトップの座を占めたのは、ヘルシーなイメージとしての日本食の代表と受け止められたことが背景にあるようだ。庶民の味、ラーメン(8.6%)、カレーライス(5.1%)も根強い人気がある。

海外での日本料理の人気度ランキング

日本料理の種類 選んだ回答者の割合 日本料理の種類 選んだ回答者の割合
寿司・刺身 35.3 すき焼き 4.6
天ぷら  9.6 うどん 4.5
焼き鳥 8.7 たこ焼き 3.7
ラーメン 8.6 そば 3.5
しゃぶしゃぶ 5.6 豚カツ 3.3
カレーライス  5.1 牛どん 3.0

ジェトロ2013年12月調査。モスクワ、ホーチミンシティー、ジャカルタ、バンコク、サンパウロ、ドバイの6都市で10代〜50代それぞれ500人、合計3000 人を対象。

ジェトロが上記6都市で2013年に実施した日本料理のイメージについての調査によると、「おいしい」を挙げた人が26.6%で最も多く、「健康的」の21.3%を上回った。3位以下は「高価格」(18.1%)、「おしゃれ」(9.1%)、「安全」(7.4%)、「高級感」(7.2%)。

「だし」の問題

海外の日本食レストランで日本人以外の料理人は全体の9割を占めるという。中には、「客単価が高い」「客の入りが良い」などの理由で中華料理屋や韓国料理屋からの「転身組」も目立つ。これら転身組の調理人は必ずしも日本料理を理解していないようだ。

日本食の調理でとりわけ重視されるのは材料の新鮮さのほかに「だし」が効いているかどうかという点だ。海外の日本食レストランで供される料理の味に違和感を覚えるのは「だし」が効いていないケースが多いようだ。奇妙な味のうどん、そば、みそ汁に失望する日本人駐在員、旅行者は後を絶たない。しかし、海外には「だし」の文化はない。加えて、かつお節や昆布、干ししいたけなどは海外では容易に入手できないというジレンマもある。

「アクションプラン」

こうした中で、農水省は日本食についての知識・技能の普及を図るため、国が定める指針に従って、民間団体などが海外の日本食レストランのシェフらに研修を行い、衛生・技能面で一定の水準にある者に資格を付与する制度を創設する方針だ。

農水省はまた、海外進出する外食事業者も支援する。このために「テストキッチン」などを通じた事業可能性の検証、情報の収集・発信、商圏マップの作成、外食産業投資ミッションの派遣などを実施する。海外の各都市で日本食・食文化の普及について助言を行う「日本食文化親善大使」の制度も創設する。また、ジェトロなどの協力を得て、日本食材を積極的に取り扱おうとする日本食レストランを日本食文化サポーターとして民間団体が推奨する態勢を創設する。サポーター店舗に対しては、日本食材の情報提供や従業員向けの研修活動などを積極的に行う方針だ。

これらは農水省が推進している平成27年度日本食・食文化の発信計画「日本食魅力発信アクションプラン10」の施策の一部だ。ほかには、①首相らによるトップセールスをはじめとする「クールジャパン」関係府省と連携した取り組み、②外務省、在外公館、国際協力機構〈JICA〉、海外レストランとの連携、③様々な日本文化紹介への取り組みと連携した「複合文化パッケージ」による海外発信、④日本特産食品認定ロゴの検討、⑤和食継承のための国内への魅力発信、⑥「インバウンド・ツーリズム」の活性化につながる料理人の育成、を挙げている。

海外における日本食ブームと農水省の施策が相乗効果を起こせば、海外の日本食レストランは今後も増え続けそうだ。農水省は2020年までに日本の農林水産物・食品の輸出額を1兆円規模へ拡大することを目指しているが、日本食レストランの海外での普及はこの目標を実現するための重要な柱の一つだ。

文:村上 直久(編集部)

バナー写真=パリの中心街に軒を連ねる日本食レストラン(時事)

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