Japan Data

訪日外国人に向けた「インバウンド美容」の大きな可能性

経済・ビジネス 文化

訪日外国人観光客(インバウンド)が急増するなか、インバウンド市場開拓が注目されている。外国人観光客の関心が高い日本の美容サービスについて、いくつかのデータから、今後のインバウンド市場戦略を考える。

急増する外国人観光客と「インバウンド消費」

2020年東京オリンピックを見据えた観光戦略が重要性を増し、「インバウンド」(inbound=訪日外国人)消費の開拓が注目されている。外国人観光客の数は2014年1341万4000人、2015年上半期で過去最高の914万人となり、前年同期比46パーセント増を記録した(日本政府観光局調べ)。

昨今中国人観光客の「

爆買い

」が話題となっているが、2014年10月より訪日外国人旅行者に対し、免税の対象商品が化粧品などにも拡大、「インバウンド消費」は前年比約4割増の2兆278億円(2015年、観光庁調べ)だ。

「おもてなし」の一端を担う美容サービス

少子高齢化で国内市場の成熟・縮小に直面している既存産業にとって、インバウンド消費の開拓は新たな市場拡大のために取り組むべき重要課題だ。日本の美容産業も成熟産業のひとつだが、すでに訪日外国人からそのサービスは高い評価を受けており、今後の取り組み次第で、美容サービスは訪日観光の「おもてなし」の目玉となる可能性がある。

「リクルートライフスタイル ホットペッパービューティーアカデミー」では日本の美容業界に向けた消費意識調査など各種セミナー開催などの活動を行っている。2015年2月に訪日外国人旅行者数のアジアにおける上位4カ国・地域(台湾、韓国、中国、香港)で訪日観光経験のある女性を中心に調査し、「インバウンド美容」の可能性と課題を探った。

図3を見てわかるように、「名所旧跡観光」をおさえ、「美容サロンへ行きたい」という人が3割近くにのぼっている。人気の定着している「化粧品購入」に加え、美容サロンに対する期待値も高いのではと思われる。

実際、日本の美容サロン(ヘアサロン、ネイルサロン、エステティックサロンなど)を利用した外国人観光客に、店のサービスについてそれぞれ満足した点を聞いた調査では、「お店が清潔で衛生的である」「スタッフの施術が上手である」「自分でイメージした通りの仕上がりになる」などが上位を占めている。また、「安心して荷物を預けられる」などの感想が挙げられている。日本人利用者にとっては当たり前のことだが、外国人観光客にとっては、まさに「おもてなし」を具現化したサービス分野といえる。

すしネタやアニメキャラの「痛ネイル」が注目の的

ちなみに、ネイルサービスは日本ならではのデザインやきめ細かいケアが人気だ。アニメや「すし柄」といった変わりダネのデザインを施した「痛ネイル」が話題となっており、過去1年以内に日本を旅行したことのある、中国・台湾・香港・韓国・タイ・アメリカの男女600名対象の調査では、「すでにやったことがある」10% 、「ぜひやってみたい」22.3%、「やってみたい」26.5%となっている。

外国語での接客と情報発信の強化

一方、外国人旅行者が日本の美容サービス利用時に感じた不安では、「日本語が話せないから注文に不安」が多い。「サロンへの行き方・予約方法がわからない」なども挙げられ、今後より多くの外国人観光客を受け入れていくためには、接客、情報発信における外国語対応の強化が望まれる。

外国語対応を含むインバウンド戦略に積極的に取り組んでいる実例としては、全国に27店舗展開している美容サロンの「Forcise」が挙げられる。スタッフへの英会話レッスンはもちろん、外国人カットモデルを活用してカウンセリングから仕上げまですべて英語で行う練習を定期的に実施している。

また、英語のホームページ、情報誌、SNSを通じて情報発信を行う一方で、東京や大阪の観光局や旅行会社に働きかけてサロンでの施術を組み込んだパッケージツアーの「Kawaii Tour」に協力している。

「ハラル」対応など、異文化への配慮も必要

インバウンドにおいては、イスラム教国であるマレーシアからの訪日旅行者数が2014年は前年比40%以上の増加となっている。マレーシアには2013年7月以降ビザ免除が適用された。同じくイスラム教国のインドネシアも2014年12月以降ビザ免除となっており、同国からの訪日観光客の増加が予想される。

美容サービスにおいても、「ハラル」(=アラビア語で『イスラム教の教えで許されたもの』)の理解と対応強化を通じたインバウンド戦略が必要となってくるだろう。

図5 美容で憧れる国

タイ インドネシア
1 韓国 74% 日本 49%
2 日本 64% 韓国 41%
3 フランス 37% フランス 24%
マレーシア フィリピン
1 韓国 56% 韓国 53%
2 日本 48% アメリカ合衆国 47%
3 アメリカ合衆国 25% 日本 43%
シンガポール ヴェトナム
1 韓国 61% 韓国 78%
2 日本 55% フランス 37%
3 台湾 27% 日本 32%

調査対象:タイ(バンコク)、インドネシア(ジャカルタ)、マレーシア(クアラルンプール)、 フィリピン(マニラ)、シンガポール、ベトナム(ハノイ・ホーチミン)に住む20~49歳の女性。インターネット調査。
出典:ホットペッパービューティーアカデミー「ASEAN美容意識実態調査」(2013年8月)

東京都内には、最近注目されているムスリム(イスラム教徒)対応を行っている美容サロンもある。東京恵比寿に店を構えるヘアサロン「Solpisca」は2013年からムスリム対応を始めている。ムスリム女性は近親者以外の男性の前ではヒジャブ(頭に巻くスカーフ)で髪を隠さなくてはならない。施術者も女性に限られる。豚・アルコール由来のヘアケア剤の禁止など、配慮すべきことが多い。

美容業界のインバウンド市場開拓への取り組みは、まだまだ緒に就いたばかりだ。だが、外国人観光客の間で日本の美容サービスに関する期待度が高いことを考えると、大きな可能性を秘めていることは間違いない。

(リクルートライフスタイル ホットペッパービューティーアカデミーの調査および田中公子研究員の話を参考に編集部が構成)

タイトル写真=にぎりずしなどをかたどったフィギュアのネイルアート(時事)

中国 ASEAN 美容 東京五輪 インバウンド 爆買い