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救急車出動は限界状況:政府が有料化の検討着手へ?

社会

高齢化社会進展の結果か、救急車の出動件数がこの10年間で2割も増加。軽傷者の安易な利用を抑制しようと、「有料化」の検討も政府部内でとりざたされている。

救急車出動、598万件で過去最高を記録

日本の救急車が、出動件数の急増で“救急”状態に陥りつつある。総務省消防庁によると、年間の救急出動件数は2014年に598万件と過去最多を記録、10年前に比べ約2割も増えた。全国で1日当たりなんと1万6千回以上の出動回数になる。猛暑による「熱中症」搬送の増加もあるが、最大の要因は、「高齢傷病者」の増加であることは言うまでもない。救急車出動は限界に近付きつつある。

2014年版消防白書によると、救急車で運ばれた人のうち「重症」の割合は8.9%。で、初診医師が入院の必要なしと判断した「軽症」が49.9%と、ほぼ半数を占めた。「軽症」のなかには、虫歯の治療に救急車を呼んだり、「病院まで歩くのが苦痛」、「タクシー代わり」を理由に挙げるなどの極めて不適切なケースもあった。

曲折必至の“救急車有料化”議論

このため、救急車の有料化をめぐる議論が再び浮上してきた。議論自体は10年以上も前から行われてきたが、財務省が2015年5月11日に開かれた財政制度等審議会(財務相の諮問機関)で示した「地方財政」案の中で、「軽症の場合の有料化などを検討すべきではないか」と明記した。有料化検討の理由は、“救急車を本当に必要とする患者への対応を優先するため”としており、同省は年間2兆円に上る消防関連経費の削減につなげたいとしている。

財務省は提案の中で、海外の有料化の事例として、①米国(ニューヨーク)消防約5万円程度②ドイツ(ミュンヘン)基本料金約6万7千円、③シンガポール、非緊急の場合は有料(60~120シンガポールドル)などの例を挙げている。しかし、多くの国々が「公営は無料」としているのが実態だ。

有料化に反対する意見ももちろんある。反対論者は第1に、国民の間に「救急車は無料」というセーフティーネットとしての感覚が強く根付いていることを挙げる。さらに、有料化すると病気の人が救急車の利用を避け、かえって重症化させるケースもあり得ることを指摘する。「重症者を運べないというのなら、公費の負担を増やしてでも救急車の台数を増やすべき」との主張も根強い。

有料化を部分的に支持する意見としては、搬送前に軽症か重症かを判断するのは難しいので、診察後、軽症者の場合には料金請求する制度の導入や、一定の条件の下で民間の患者搬送車を緊急自動車認定すべきだとの声がある。今後の議論では、相当な紆余曲折がありそうだ。

出動要請増え、現場到着に遅れも

具体的な数字を、東京都をケースに見てみよう。2014年度の出動件数は75万7600件、前年度より1.1%増え、東京消防庁が救急業務を開始した1936年以来最高となった。1日あたり2075件、つまり41秒に1件の救急搬送が行われている勘定になる。

問題視されている「軽症」搬送だが、東京消防庁によると、初診医師が「軽症」と判断した搬送者割合は、2006年の60.3%をピークに減少しており、14年は51.9%だった。

東京都(2014年度)の場合、全搬送人員66万4249人の約3分の1にあたる22万8097人が75歳以上の高齢者。2003年には6分18秒だった救急車の現場到着までの平均時間は、救急需要の増大から14年は7分54秒となっている。

総務省消防庁によると、13年度における「119番通報」から病院到着までの全国平均時間は約39分で、10年前に比べ約10分遅くなっている。これも出動要請が多くなり、遠距離の消防署から救急車を向かわせるケースが増えたためだ。

日本最初の救急車は1931年

救急車の登場は19世紀初めのナポレオン戦争が最初で、フランス軍が傷病者をいち早く野戦病院へ搬送するために車両を使用した。「救急車」(ambulance)という呼び名は、米国の南北戦争の時に始まったと言われている。

日本では、1931年に日本赤十字社大阪支部(大阪市)が初めて救急車を配備。地方自治体の消防救急業務が義務化されたのは1963年の消防法改正から。

最近では、救急ヘリ(ドクターヘリ)や救急船が開発され、救急車も高度な救命処置ができる車両に改良されている。1991年には「救急救命士法」が施行され、救急救命士が病院への搬送中、プレホスピタルケア(病院前救護)と呼ばれる一定の処置を患者に行えるようになった。

文・原野 城治(ニッポンドットコム代表理事)

バナー写真:特殊救急車で救助訓練する東京消防庁の隊員と災害派遣医療チーム(DMAT)の医師ら=2015年3月6日、東京都中央区(時事)

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