グローバル食文化としてのラーメン

進化するラーメンと無形文化遺産としての「和食」

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世界が認める「和食」と世界で独自に進化し続ける「日本発」ラーメン。どちらが真に日本を代表する「顔」なのか?英ケンブリッジ大学の歴史学者によるラーメンから見た日本文化論。

最強のご当地グルメとして地方活性化に貢献

日本では最近、その土地の味を楽しもうという動き、いわゆる“ご当地グルメ”ブームが起こっている。食べ物を消費するという行為が一つの文化となり、美味の探求が国民的娯楽に発展した形だ。この一種のフードツーリズムは、今や新たなエンターテインメントになっている。

ご当地グルメが流行し始めた背景には主に2つの要因が挙げられる。地方の均質化、そして地方と大都市との経済格差の拡大だ。日本では人口減少が続いているが、東京、名古屋、大阪の三大都市で生活する人の割合は増え続けている。この流れは、平成の大合併で市町村の合併が進み、1999年に3232あった市町村数が2010年には1730まで減少したことによって、一層加速した。市町村の半減はすなわち、個性豊かな土地の味が半減したことをも意味する。

地方から都市への人口流出に歯止めをかけ、20年にわたって衰退し続けている地方経済を立て直すには、ご当地グルメの推進は有効な手立ての一つだった。またローカルブランディングの手法が広がり始めたことでB-1グランプリも開催されるようになった。B-1グランプリとは2006年に始まり、その後毎年開かれている町おこしイベントで、ウェブサイトにあるとおり、料理の内容や売り上げを競う大会ではない。食べ物を通じて地域を宣伝することが目的だ。

その点、すでに熱心なファンを持つラーメンは、最強のご当地グルメと言えるだろう。日本でラーメンが普及し始めた1920年代のように、各地のラーメン店は他店との差別化を図るために“土地の味”を積極的に取り入れている。農林水産省によれば、すでに高い評判を得ている料理を地域振興に活用すると非常に大きな経済効果が得られるのだという。

常に変化し続ける日本食の代表として

ちょうど明治時代初期の日本が中国や西洋の商人から多大な影響を受けたように、戦後、日本の食や文化にはさまざまな国の要素が取り入れられた。やがて日本食は世界で人気を博すことになるのだが、それに対する日本人の反応は複雑で、フランス人がフランス料理を誇りイギリス人がイギリス料理をこき下ろすといったような単純なものではなかった。例えば海外のラーメンブームについては、喜ぶと同時に落ち着かない気持ちにもなった人もいたようだ。また日本食が世界中で食べられることに危機感を持ち、要らぬお節介を焼こうとする動きもあった。

2006年、海外の “日本食とかけ離れた” 料理を提供する日本料理店を苦々しく思った日本政府が、 “正しい日本食”レストランを認証する制度を創設すると発表したのだ。店舗の評価にあたっては、海外の日本料理店で飲食をした客にウェブサイト経由でコメントを送ってもらい、データを集めることになっていた。しかし“正しい日本食”の定義があいまいなまま、計画はほどなくして頓挫する。

結局、以前から疑問視する声があったとおり、そもそも日本食が昔から変わらない伝統食であるという認識こそがおそらく誤りなのだ。実際、日本食の性格は大正時代に大きく変容している。中華料理の普及が料理や食生活に影響を及ぼし、それまでとは異なる食体系が形作られたのだ。

かつては物珍しがられ、グロテスクとさえ言われながら、今では世界中で食されている日本食。問題は和食とラーメンのどちらが―どちらも日本食には違いないだろうが―日本を代表する料理なのかということだ。これについては日本人も混乱しているようで、2007年に海外から帰国した日本人を対象に行われた調査によれば、帰国後に食べたいのはラーメンだと答えた人が最も多かったという。日本人にとっては、寿司やそば、和食などではなく、ラーメンこそが “ホッとする日本食” なのだ。

ラーメンは間違いなく日本の食を象徴する料理であり、海外でも日本の文化として認識されている。永遠に変わることのない博物館の展示物とは異なり、常に変化し続ける日本食の伝統。そんな日本食の進化がこれからも楽しみでならない。

(原文英語。タイトル写真=ニューヨーク・タイムズ/アフロ)

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