安保法制インタビュー

集団的自衛権の限定行使容認、「憲法第9条」に違反せず

政治・外交

グローバル時代に「日本だけの平和」はありえないと公明党の北側副代表は強調する。安保法制による「集団的自衛権の限定行使」と「抑止力の向上」は、国の存立と国民を守るために必要で、憲法に違反すると思っていないと説明する。

北側 一雄 KITAGAWA Kazuo

1953年大阪府生まれ。公明党副代表。元国土交通大臣、観光立国担当大臣、大阪16区選出(当選8回)、衆議院議員(8期)。公明党政務調査会長、幹事長、大蔵政務次官、衆議院科学技術委員長、衆議院総務委員長等を歴任。弁護士、税理士。

参考人人選に公明党は関知せず

——安保法制審議ですか、与党が推薦した衆議院憲法調査会における参考人が「集団的自衛権行使容認は違憲」と発言しました。どのように受け止めていますか。

北側一雄 与党としてではない。自民党が推薦された方で、人選に公明党は関知していない。

——憲法違反という意見陳述は、法案審議に影響しませんか。

北側 先生方がどこまでご理解をされていたか分からないが、私としては本当に詰めた安保法制議論をさせていただいた。決して憲法9条に違反するとは思っていない。審議はまだこれからで、国民の皆さんの理解を得ることが大事。政府側には国民に分かりやすい説明をしっかりしてもらいたい。

分岐点となった「北側3原則」提案

——安保法制についての自民、公明両党の与党議論では、北側副代表が出された「北側3原則」が法制づくりの重要な分岐点になりましたね。

北側 最善の法整備ができたと思っている。しかし、自衛隊の海外派遣には原理原則がある。原理には当然、憲法9条があり、これに違反をしないこと。要するに、「武力の威嚇または武力の行使をしてはならない」という9条規定に違反しないのが大前提。その上で、「3つの原則」を申し上げた。

1番目は、「国際法上の正当性」。自衛隊は実力組織であり、海外派遣をする以上、「国際法上の正当性」が求められる。

2番目は、「国民の理解が得られる」こと。自衛隊員も国民の理解なしに派遣されても士気が上がらない。国民の理解をどう得るかといえば、それは国会の承認でしかない。

3番目は、「自衛隊員の安全確保」。自衛隊員の仕事、業務、リスクが増える。今でも治安の悪い所に行っていただいているが、当然のこととして安全確保をしていく必要がある。

この3つの原則を法律の中にしっかり盛り込むように与党協議で申し上げ、政府・自民党側も「その通りだ」ということになった。

公明党の外交・安保調査会、憲法調査会合同会議 ©時事

「安保の必要性」と「憲法の適合性」のバランスを重視

——公明党は「平和の党」といわれるが、2年近くの安保法制論議の過程で悩まれたことはないのですか。

北側 その質問はよくあるが、私たちが考えている平和は、何もしない平和では決してない。例えば1992年に、初めて自衛隊を海外派遣するため国連平和維持活動(PKO)協力法が成立した。この時、国会は衆・参「ねじれ」状態で、自民党は賛成、社会党、共産党は反対で、野党だったわが党の判断で決まる状況だった。そこで、「PKO5原則」を提案させていただき、賛成し、法案が成立した。正直申し上げると、去年や今年よりもあのときのほうが、議論が激しかった。

冷戦終結後、公明党はわが国の安全保障法制、それは有事法制、周辺事態法、国際協力の分野に関する各法制について深く関与してきた。今回のことが全然違う路線へ行ったとは思っていない。

安全保障問題は、“必要性”の問題。他方、いくら必要性があっても、日本には世界でもある意味珍しい「憲法9条」、平和主義の理念を体現した規定がある。当然、憲法9条との適合性を保ちながら、時々の安全保障上の必要性に応じて、できる範囲のことをしていく。こうしたことを92年からずっとやってきた。

戦後70年、日本は平和国家としての道を歩んできた。これからも憲法9条の持つ意味は大きいと思う。憲法の平和主義、専守防衛という理念と安全保障上の必要性、そういう観点から論議することになる。

——平和の党として、憲法に準拠して、やれることとやれないことを分けてやってきたということですか。

北側 いまの時代は、「日本だけの平和」なんてない。グローバル化し、世界中どこに行っても日本人がいる。国際社会が平和で安定していることが、わが国にとっての国益そのものだ。国際紛争を拡大しない、紛争を予防する、そして平和で安定していることが大事。日本はそのことから、非常に恩恵を受けている国であり、一定の役割を果たしていくことが大事だと思う。

日本防衛で活動する米軍支援は「当然」

——18年ぶりに日米防衛協力のための指針(ガイドライン)も改定されましたが、国民の間に「米国の戦争に巻き込まれるのではないか」という漠然とした不安がありますね。

北側 今回の安保法制の中には、後方支援をする場面が2つある。1つは日本の平和と安全に重要な影響を与える事態。典型的な例は朝鮮半島での紛争で、わが国にも紛争の影響が及ぶかもしれない事態になったら、日米安保条約の下で米軍が自衛隊と連携しながら、わが国防衛のために警戒監視活動をより一層強化する。そのとき、活動している米軍などの支援活動をしないほうがおかしい。武力行使に至らないという大前提はあるが、一定の支援活動をするのは当然のこと。

もう一つの例は、国際的なテロが起きたとき、国連が決議し、加盟国に一定の役割を求めたときに、日本はどうするか。従来は特措法で対処していたが、恒久法でやるようにする。国際平和支援法という新法です。ただ、将来、起こる事態がどんな事態か分からない段階で法律をつくるので、厳しい要件を付けている。

「戦争巻き込まれ」批判は当たらない

——どんな要件ですか。

北側 1つは、国連決議が大前提。国連決議のもとに、加盟国に対して一定の措置を求めることが条件。2つ目は、公明党が強く主張した国会での“例外なき事前承認”。3つ目は「自衛隊の安全確保」。

自衛隊は、重要影響事態であれ、また国際平和支援法であれ、一定の国際法上の正当性をもった目的があり、かつ厳格な手続きに基づいて後方支援活動をする。また、武力行使との一体化はできない仕組みにしている。戦争に巻き込まれるという批判は、私は当たらないと思っている。

国会承認は“例外なき事前承認”

——安保法制のさまざま「事態」は、「地理的範囲を規定したものではない」としているが、安倍首相は国会答弁でインド洋やペルシャ湾の例を挙げている。分かりにくいですね。

北側 分かりにくいとは思っていないが、国民の方に分かりやすく説明しなければいけない。逆にいえば、“事態認定”をきっちりやるということ。しかも、どの事態もすべて国会承認が必要。例外的に事後に認められる場合も、「武力攻撃事態」のような緊急性がある場合だけ。

さらに、国会承認を前提としているので、政府は自衛隊派遣の「基本計画」(対処基本方針)を作らなければならない。その際、「朝鮮半島で、ある国がこのような動きをしている」など客観的な事実を書いた上で、事態認定する。この事態認定があって初めて、自衛隊派遣の提案ができる。

——国会の事前承認は緊急の場合、素早く結論を出せるのですか。

北側 国際平和支援法に限って言えば、“例外なき事前承認”。緊急だからといって事後にすることはない。ただ、時間だけかけても駄目なので、政府が閣議決定をして国会承認を求めたときは、「衆議院1週間、参議院1週間」の2週間ぐらいを努力義務としてお願いしている。

テロ対策では「邦人保護」措置盛り込む

邦人人質事件を報じるヨルダン地元紙、ヨルダン・アンマン ©時事

——国民の関心の1つは、テロ対策です。日本人の人質が殺害され、邦人保護が大きな課題になっています。

北側 今も邦人輸送はできる仕組みになっている。今回は「保護措置」を一定の要件の下で行える仕組みを盛り込んでいる。仮に日本で外国人が人質になったときに、人質の国の軍隊を日本政府が受け入れるかといえば、そんなことない。

政府側が挙げた例は、外国の飛行場でハイジャックがあり、そこに邦人がたくさん乗っていた場合。基本的には、その国の警察機関が対処するが、その上で、その国の同意があって日本の特殊機関が出ていくという場合。在ペルー日本大使公邸人質事件(1996年)のように日本大使館に邦人が逃げ込んだこともあった。しかし、実際、邦人が人質になっているところへ飛び込むことは想定していないと思う。

ターニングポイントとなった安保法制懇「報告書」後の首相会見

——昨年7月、集団的自衛権の限定行使の容認を閣議決定しました。改めて聞きますが、その議論過程で自民党との「別れ話」はなかったのですか。

北側 節目が何度かあった。安倍晋三首相は13年2月に私的諮問機関の「安保法制懇」を再開した。その後、安保法制懇の議論が続き、われわれはその都度その議論をキャッチし、大丈夫かなと思いながら見てきた。

安保法制懇の報告書の取りまとめが14年5月15日。この日が1つのターニングポイントだった。報告書を受けて、安倍首相がどのような発言をされるかが非常に大きかった。安保法制懇の委員の方には、「国連憲章が集団的自衛権と集団安全保障を認めているのだから、国際法上違法ではない」、「国際法上認められている権利が、日本の憲法で否定されているわけではない」という前提に立つ論の方が多かった。

しかし、安倍首相は記者会見で、安保法制懇の報告書の内容すべてを採用したわけではなかった。要するに、国連憲章第51条で認められている、もっぱら他国防衛を目的とした自衛権行使も含む“フルサイズの集団的自衛権”、これが日本の憲法で認められるとは考えないと明確におっしゃった。ここで半分ぐらい、われわれはほっとした。もし、「安全保障基本法」をつくり、集団的自衛権は容認するという立場でいったら、連立そのものにかかわる話になったのではないかと思う。

——閣議決定まで大変でしたね。

北側 第2ラウンドは与党協議会が始まり、15年7月1日の集団的自衛権の限定行使容認の閣議決定まで。

憲法9条は、第1項で「戦争の放棄」、第2項で「戦力は保持しない」と書いてある。しかし、どの範囲で自衛権が行使できるのかは9条には書いてない。本来なら最高裁判所が判断すればいいが、残念ながら最高裁は(統治行為論で)高度な政治性を有することについては、明らかに違憲な場合を除いて、政治に判断を任せた。

一方、憲法13条には、「国民の生命、自由、幸福追求の権利は、国政で最大の尊重を要する」(※1)と書いてある。13条からすれば、9条は非武装や、国が危機的な状況のときにも何もしないということを規定しているわけはない。これが、最高裁判所の砂川判決(1959年)が言っていること。

ただ、砂川判決もどの範囲だったら自衛権が行使できるとは書いてない。どの範囲で認められるのかについては、政府と国会との間の長年のやりとりの中でつくられてきた。だから、9条解釈は、憲法学者がやっているわけでも、最高裁が言っているわけでもない。まさしく政府と国会とのやりとりの中で、積み上げられてきた。憲法の中には個別的自衛権とか、集団的自衛権とかは何も書いてない。政府解釈で言ってきた。

「抑止力の向上」が一番の狙い

北側 今までは、わが国への直接武力攻撃に対する攻撃排除は許されるとしてきた。しかし、軍事技術はこの20年で極めて高度化した。安全保障環境が全く変化している中で、わが国に武力攻撃があったときしか自衛の措置は取れないのかということが問題になった。

客観性を担保する必要があるが、われわれが言ったのは、「密接な他国」に対する武力攻撃があり、これによって国民の生命、自由、幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるときはどうするのか、ということ。
 
典型例は、まさしく日本防衛のために警戒監視活動をやっている米軍に対して第一撃が日本近海の公海上であったとき、「個別的自衛権か、集団的自衛権か」と論議しているわけにはいかない。国際法上は集団的自衛権と見られる可能性が高い。そういう場合も、きちんと対処できるようにしていく必要があるということで、新3要件の下で限定的な集団的自衛権の行使を容認するとした。

ただし、そもそも武力攻撃事態や存立危機事態のような有事を起こしてはならない。そのためにも、平時からグレーゾーン、近隣有事、そしてわが国有事まで「切れ目のない法制」をつくっておく。

そのことによって、自衛隊と米軍との間で、さまざまな想定を前提とした共同訓練、連携ができるようになる。ここにもっとも重要な意味がある。日頃から日米間で訓練をやっておけば、抑止力になる。抑止力は紛争を未然に防止する。「抑止力向上」が、今回の法制の一番の狙いだ。

優れた日本国憲法を評価し、「加憲」する

日本国憲法 ©時事通信フォト
提供元:国立公文書館提供

——憲法改正についての公明党のスタンスはどうなっているのですか。

北側 日本国憲法が制定されて68年が経過した。時代の変化がある中で、憲法に今の時代にふさわしい規定を盛り込んでいくことは当然だ。ただ、われわれの基本的な立場は、「押し付け憲法」だとか言うのではなくて、日本国憲法は優れた憲法であり、国民の間に定着し、戦後の日本の発展に一定の役割を果たしていることは間違いない、と評価しているということだ。

その上で、時代の変化に応じた憲法規定を修正し、新たな規定を盛り込むこと。公明党は「加憲」と言っているが、その基本的立場でしっかり論議していきたい。

安保法制実現なら、9条改正「当面必要ない」

——「憲法9条」の扱いはどうするのか。

北側 率直に申し上げると、今回の安保法制が国会で認められたら、憲法9条の改正の必要性は相当遠のくだろうと私は思っている。限定的な集団的自衛権行使を容認し、それが法制の中に盛り込まれているので、9条改正の必要性は当面はないのではないかと個人的に思う。

(2015年6月5日都内にてインタビュー)

(聞き手=一般財団法人ニッポンドットコム代表理事・原野 城治)

(※1) ^ 憲法13条「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」

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