シンポジウムリポート

シンポジウム「3.11後の報道や危機管理のあり方を探る」報告(パート2)

社会

10月22日に開催されたnippon.comオープニング記念シンポジウム「3.11後の報道や危機管理のあり方を探る」では、日本と海外のメディア・危機管理関係者が、東日本大震災の報道と危機管理についてパネルディスカッションを行った。

シンポジウム「3.11後の報道や危機管理のあり方を探る」では、ビル・エモット氏による基調講演の後、第1部では3.11後のメディアによる報道についてのパネルディスカッション、第2部では政府や企業などの危機管理についてのパネルディスカッションを行った。

「メディアは3.11後の日本をどう伝えたか?」~第1部討論

近藤大博氏(『中央公論』元編集長)

第1部のパネルディスカッションでは、『中央公論』元編集長の近藤大博氏をモデレーターに、ビル・エモット氏のほか、毎日新聞論説委員(科学担当)の青野由利氏、gooニュース編集者で翻訳者の加藤祐子氏、南ドイツ新聞東京支局長のクリストフ・ナイハード氏が、「メディアは3.11後の日本をどう伝えたか?」をテーマに討論した。

日本メディアは情報を隠したか?~青野氏

青野由利氏(毎日新聞論説委員[科学担当])

青野氏は、原発事故後、毎日新聞が社説でどのような主張をしたかを説明した上で、日本の大手メディアに対する批判に関してコメントした。メディアによる 「情報隠し」という批判については、自分が知る限りではメディアは情報を隠していないが、福島第一原子力発電所の現場に入れず、情報が不足する中で、政府や東京電力の発表が二転三転して振り回されたと述べた。また、「大本営発表」との批判に対しては、政府や東電以外に外部の原子力専門家やNPOなどさまざまな対象にも取材したが、記事の「本記」と呼ばれる部分では政府や東電発表の情報を用いる傾向があったと分析。今後は、一次情報が得られない中で複数の情報から最も事実に近いものを本記でどのように書いていくかが課題だと強調した。

放射性物質の影響に関する報道については、「ただちに健康への影響がない」という政府発表を伝える際に、急性の放射線障害と低線量被ばくによる将来の発がんリスクの区別が正しく伝わっていたかどうか検証の必要があるのではないかと指摘する一方、低線量被ばくの健康影響のように専門家の間で見解が大きく分かれる問題を報道する難しさについても語った。

外国メディアの報道にすがりついた日本人~加藤氏

加藤祐子氏(gooニュース編集者、翻訳者)

gooニュースで英語メディアの日本報道に関するコラム『JAPANなニュース』を執筆する加藤氏は、日本人が3.11後に外国メディアの報道をすがりつくように求めた理由として、知人の官僚が「パニックを起こしたくない」と話した例を挙げて、不正確なことを言わず、積極的に予測をしない霞が関の官僚による情報の発表の仕方や、日本の大手メディアが報じない情報が外国の大手メディアで報道されたことが、太平洋戦争中の大本営発表の忌まわしき記憶を呼び起こしたからだと述べた。

他方で、3.11直後には、外国メディア報道にも問題があったと指摘した。有名テレビキャスターなど日本について知識の少ないジャーナリストが多く取材に関わったこともあり、不正確でセンセーショナルな報道があったほか、何の分野の専門家か明示されることなく原発事故に関して大学教授のコメントがテレビで流されるなどしたと述べた。このため、日本人に外国メディアだけを信じるような傾向が見られたことは残念だったと語った。ただ、時間の経過とともに日本に詳しいジャーナリストだけが残ったため、現在は被災地の状況を深く掘り下げた良質な報道が外国メディアで行われていると述べた。

外国メディアの報道は過剰だったか?~ナイハード氏

クリストフ・ナイハード氏(南ドイツ新聞東京支局長)

ナイハード氏は、外国メディアの報道が過剰だったのではないかとの批判に関して、テレビやタブロイド紙は恐怖をあおるような表現を用いる傾向があったが、ドイツの主要メディアはかなり事実に基づいていたと説明した。また、日本メディアよりも厳しいと思われた自らの報道の情報源のほとんどは日本国内にあり、報道が過剰だというのは筋違いではないかと思っていると述べた。

メディアが風評被害を引き起こしたとされる点についても、新潟県知事が大学教授グループに東京電力や政府の発表を検証するよう依頼したことを挙げて、被害を起こしたのは、情報の発表で多くのミスをした東電や政府ではないかと述べた。さらに、原発を批判する市民団体が日本の主流メディアに取材されることがなかったことに触れ、日本のメディアにも批判されるべき点があるのではないかと指摘し、3.11以前は日本のメディアが原子力安全神話の形成に加わっていたと述べた。

「3.11後の政府、企業、個人の危機管理」~第2部討論

アンドリュー・ホルバート氏(スタンフォード大学日本センター所長、明海大学特任教授)

第2部のパネルディスカッションでは、スタンフォード大学日本センター所長で明海大学特任教授のアンドリュー・ホルバート氏をモデレーターに、ビル・エモット氏、東京海上日動リスクコンサルティング執行役員の江里口隆司氏、ウォール・ストリート・ジャーナル東京支局副支局長で、企業広報コンサルタントの経験も持つウィリアム・スポサト氏、テンプル大学教授のジェフリー・キングストン氏、元外務副報道官で慶應義塾大学特別招聘教授の谷口智彦氏が、「3.11後の政府、企業、個人の危機管理」をテーマに討論した。

日本企業の危機管理の課題~江里口、スポサト両氏

江里口隆司氏(東京海上日動リスクコンサルティング執行役員)

江里口氏は、かつては「護送船団方式」で守られ、危機管理の必要性がなかった日本企業も、国際化や自由化、リスクの巨大化やグローバル化の中で危機管理体制が整えてきたが、東日本大震災では従来の想定を超える事態が進行し、危機管理体制の見直しを迫られていると述べた。巨大な津波が東北の街並みを破壊する映像が世界に生中継され、日本はとんでもない災害が起こる国だという記憶が世界の人々に焼付いたことは、日本企業に大きなインパクトを与えるだろうとして、超巨大災害に対してどのような危機管理しているかの説明責任を日本企業は海外のステークホルダーに対して果たさざるを得ないと述べた。

ウィリアム・スポサト氏(ウォール・ストリート・ジャーナル東京支局副支局長)

スポサト氏は、日本企業は従来、危機対応と危機についてのコミュニケーションを別物と考え、コミュニケーションを重要視せず、今回の原発事故でも危機対応とコミュニケーションを同時に行えなかったことが、ネガティブ情報が多く出た理由だと述べた。また、危機管理で鍵となるのは事前準備と事前計画であるとし、東京電力がリスクについてきちんと伝え、危機に対して事前に準備していれば、事態は大きく変わっていたのではないかと述べた。

菅前首相の危機管理は妥当だったか~キングストン、谷口両氏

ジェフリー・キングストン氏(テンプル大学教授)

キングストン氏は、日本政府の危機管理に関連して、菅直人前首相の個人的資質のために日本が効果的に災害に対応できなかったという批判について、阪神淡路大震災当時の村山首相の対応に比べれば、自衛隊の投入や国際的な支援の受け入れなど、3つの危機が展開する中で、素晴らしいとは言えないまでも合格点の対応だったと述べた。それでも菅前首相が辞任に追い込まれたのは、再生可能エネルギー推進や浜岡原発停止に反発した「原子力村」の反撃があったからだとし、原発事故の補償の納税者による負担が可能になったことなどを挙げて、東京電力はうまく危機を管理したと述べた。

谷口智彦氏(慶應義塾大学特別招聘教授、元外務副報道官)

谷口氏は、キングストン氏の議論に対して、菅前首相が原子力災害対策特別措置法の下で対策本部の本部長として非常時権限を持っているにもかかわらず、本部長という立場で国民に語りかけることをせず、さらに「念のため」の行為が水素爆発を発生させたとして、最悪の危機管理だったと述べた。また、日本には政策決定空間の中に、危機管理に必要な、考え難きを考える(to think the unthinkable)ことや自分が閉じ込められている箱の外に出て考える(to think out of the box)ことができる場がないことを指摘し、政府の中にそうした場を制度的に作ることが必要だと強調した。

「メディアは検証を」

シンポジウムには、国内外のメディア関係者、研究者、危機管理専門家、官僚など100名以上が来場した。来場者の1人、元NHK解説委員長で元外務報道官の高島肇久氏は、「3・11以降、日本のメディアと外国のメディアがどのような経験をし、何を学んできたかを知ることができた。日本のメディアは自分たちが何を間違えたかを検証する必要があるのではないかと感じた」と語った。

写真=長坂 芳樹

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