宇宙も旅した日本最先端のメッキ技術——三ツ矢
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奈良の東大寺の大仏(盧舎那仏=るしゃなぶつ=像)は、今は黒々とした姿だが、8世紀半ばの完成当時は、青銅の表面に金メッキが施され、まぶしいほどの金ピカだった。金と水銀の合金を表面に塗り、加熱して水銀を蒸発させ、金を固着させるメッキの技法が使われた。物の表面に金属の皮膜を付着させるメッキという技術は長い歴史がある。
現代では、きらきらと美しく見せる装飾のほか、電気抵抗や耐食性を高めるなどモノに特定の機能を与えるメッキが、製造業には不可欠の技術となっている。日本最先端のメッキの技術を持ち、製造業のあらゆるニーズに応えているのが三ツ矢(草間誠一郎社長)=東京都品川区=だ。
世界シェア40%以上
世界で出荷される車の40%以上に、三ツ矢がメッキ加工したエンジン用センサーが組み込まれている。エンジンの空気の取り入れを制御する重要なセンサーで、IC(集積回路)内の配線の接続にメッキが使われている。
このセンサーのメッキ加工は、「無電解ニッケルメッキ」が業界の常識だったが、化学薬品を大量に使うためコストが掛かる。メーカーの大幅なコストダウンの要望に応じて、三ツ矢は「電気ニッケルメッキ」を提案した。「電気ニッケルメッキ」はメッキ液の状態を一定に保ちやすく、長時間の大量のメッキが可能になる。メッキ液が壊れても再生できる。
自動車部品は、新しい技術に変更する際に安全性のテストを徹底的に繰り返す。採用までに1年を要したが、メッキ代は20分の1までダウン、不良率も従来の4%からほぼゼロへと劇的に低下し、メーカーをびっくりさせたという。
エンデバーやはやぶさでも
三ツ矢のメッキは宇宙でも活躍した。1992年に打ち上げられたスペースシャトル・エンデバーで、搭乗科学者の毛利衛氏が宇宙での合金の生成実験を行った「イメージ炉」で、中核となる金属反射鏡に、三ツ矢が開発した世界最先端の特殊金メッキ技術が使われた。
「イメージ炉」は、光を集めて物質を加熱して溶かす装置で、パラボラアンテナのようなおわん形の金属反射鏡が、いかに効率よく一点に光を集められるかがカギとなる。三ツ矢は、反射面を数千分の1ミリの誤差もなく均一にするメッキを実現。それまで87%とされていた光の集光反射効率を99.8%以上に引き上げ生成実験を成功に導いた。
反射効率の良し悪しを決めるのは、メッキに使われる金属の組成だ。最高の組成を見つけるため、懸命にデータを集めた。金属反射鏡は、地上試験用を含め20個近く製作したが、すべてが100%に近い集光反射効率を実現している。同社常務取締役の小沢茂男さん(67)が、この超精密な表面加工を成し遂げた。
2010年6月、地球への帰還を果たし、世界的な話題となった宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ」に積まれた部品の一部に三ツ矢のメッキが使われたそうだ。小沢さんは「われわれが加工した製品が積まれたことは知っていましたが、どこに使われたのかは分かりません」と話す。秘密保護のため、三ツ矢の技術がどこでどのように使われているか知らされない場合も多い。
開発力とスピードが命
小沢さんによると、開発力の強さが三ツ矢の誇り。「受けたら断るな」、「できないとは言わない」という先代社長の教えを守り、技術的な難題に必死に取り組む。草間さんは「すべてとは言わないが、要望の8割ぐらいにはお応えしていると思う」と語る。大手電機メーカー購買担当者が「困った時は、三ツ矢に持って行け」と語るほど、顧客から高く評価されている。
メーカーの求めに素早く応じるスピードも重視する。そのため、東京中心部の五反田に工場を持つ意味は大きい。周辺の宅地化が進んだため、一時は山形県米沢工場に統合する計画もあったが変えた。試作段階で顧客と頻繁なやり取りをスピーディーに行うには、交通の便の良さが欠かせないからだ。
午前中に同社を訪れ、夕方には仕上げるよう求める顧客もいる。草間さんは「近くの喫茶店で時間をつぶしている間にやってくれというお客さんもいた」と話す。同社米沢工場のほか、甲府(山梨県)、八王子(東京都)にも工場を持つが、創業の地、五反田を離れる考えはない。
撮影=久山 城正