小池都知事、にらむ首相の座:国政進出へ態勢づくり
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「自民壊滅」のシナリオ
2月下旬、報道機関に小池氏側の調査に基づくとされる、都議選で各党が獲得する議席予想が出回った。「ファースト59、公明23、自民23、民進6、共産15、日本維新の会0」などの内容で、ファーストが圧勝するとの見立てだった。
都議会の定数は127で、過半数は64。2月20日現在の各会派所属議員数を見ると、「都議会自民党」57が最多で、「都議会公明党」22、民進党系の「東京改革議員団」18、「共産党東京都議団」17、「都民ファーストの会東京都議団」5と続いている。議席予想は、ファーストが一気に過半数近くまで議席を占める一方、自民党は現有の半数以下に落ち込むという衝撃的な内容だった。同じ時期に、公明党の調査とされる予測も出回ったが、議席配分は同様の傾向を示していた。
「ファーストも公明党も民進党も独自に調査をやっているが、みな同じような結果だ。自民党が激減するというのは各党の共通認識だ」。小池氏の周辺はこう語る。小池氏が勢いを維持しながら都議選に臨めば、ファーストが都議会第1党の座を占めるのはほぼ確実だというのだ。
関係者によると、自民党も都議選でいくつかの選挙区を抜き出し調査を実施している。定数1の1人区ではファーストに劣るものの、定数2以上の複数区では自民党と議席を分け合い、ファーストはそれほど伸びないと分析している。
これについて小池氏周辺は顔色を変えず、「楽観的だ」と一蹴する。「たとえば、定数3の3人区。うちの調査では、『ファースト、公明、共産』や『ファースト、共産、公明』といった予想が出ている。自民は3枠の中に入っていない。2人区でも、もしうちが2人立てれば、議席を独占する選挙区もある」という。
この関係者は「各党との調整がうまくはまれば、自民党は20議席を割る可能性もある」とも指摘する。自民党が19議席以下に落ち込めば壊滅的敗北だ。「1強」を誇る安倍晋三首相の下でここまで自民党が後退するかは未知数。だが、実際に小池氏は昨年の都知事選で、「自公連合」に勝利し、先の東京都千代田区長選でも自民党に圧勝した。小池氏周辺は「このままなら自民党の有力な地方組織が一つ吹き飛ぶことになる」と語る。
公明、生き残りシフト
小池氏が都議選で候補を擁立する動きについて、かつて橋下徹氏が率いた地域政党「大阪維新の会」と重ね合わせる向きもある。だが、周辺は「決定的に異なるのは、維新が既成政党を排除したのに対し、うちは既成政党と仲良くやっていることだ」と説明する。
確かに小池氏は都議会で、既成政党全てに対決姿勢を示しているわけではない。対立しているのは自民党だけだ。都議会レベルでは、「小池氏+その他の政党vs自民党」という図式が浮かび上がる。それがはっきりと表れた例が公明党だ。
同党は昨年12月、自民党とたもとを分かち、小池氏との連携にシフトした。この10日には、公明党がファーストと都議選で選挙協力を行うことが判明。政策協定を結び、相互推薦も行うという。自民党とは国政で連立を組む一方、都議選で敵対する「ねじれ」の構図となるが、都議選での生き残りのため、背に腹は代えられない。
小池氏側も定数2以上の複数区が選挙結果を左右すると見ており、各選挙区に一定の支持票を持つ公明党を自民党から引き剝がし、味方に付けて「共存」を図るのは得策と判断している。小池氏側は、自民党以外の他党候補ともできる限り協力を進める意向で、各党と水面下で調整を進める。「都議選後、場合によっては『小池与党』が定数127のうち、100以上を占めるかもしれない。要するに、自民党以外で100議席以上ということ」。小池氏側はこんな展開も予想する。
「打倒小池」
もっとも、周辺によると、小池氏は当初、自民党とそれほど事を構えようとしていなかったようだ。実際、小池氏は1月10日、首相官邸で首相と会談。複数の関係者によると、小池氏は「衆院選では自民党候補を応援する」と発言したという。この時点では自民党側も「小池氏は都連とはぶつかるが、党本部とはけんかしないというスタンス」と分析していた。
だが、政権側にしてみれば、そもそも2012年の自民党総裁選で、当初は安倍氏を支援する姿勢を示していた小池氏が、石破茂、石原伸晃両氏の「石・石」対決が軸になると騒がれるや、石破陣営に走ったことへの不信感が消えていない。政権内の空気は基本的に「小池憎し」。特に、首相の懐刀である菅義偉官房長官は「打倒小池」に燃えているとされる。そんな空気が小池氏側に伝わらないわけがない。「官邸や自民党本部と敵対するつもりはなかったのに、けん制をやめない。それならこちらにも考えがあるということだ」(周辺)。
解散は18年秋?
ファーストが国政進出に動くとして、衆院解散の時期はいつごろになるのか。衆院議員の任期は18年12月。与党内では、解散は首相が同年9月に党総裁3選を果たせば、その秋ごろとの観測が広がっている。「安倍1強」の政治状況に変化がなく、「高い内閣支持率に支えられている間に、じっくりと悲願の憲法改正などの重要課題に取り組むのではないか」(公明党幹部)との見方からだ。
この場合、小池氏側も、次期衆院選に向け、候補者選定などの準備時間を一定程度確保することが可能になる。ファーストが国政選挙に候補を全国規模で擁立するとして、よく指摘されるのは資金面だが、小池氏周辺は「資金力のある人を立てれば問題ない」と説明する。候補者数に関しても「小池氏の政治塾『希望の塾』には約4000人の塾生がいる。弾はいつでも込められる」と自信を見せる。
ファーストが発足させる「国政研究会」は、この政治塾から参加者を選抜する方針。これまでに同塾が開講した「都議選対策講座」や「政策立案部会」の試験に合格した塾生は、優先的に参加できるという。
小池氏は「次の次」
与野党が注視する小池氏の国政復帰があるとしたら、いつごろになりそうか。
関係者の一人は「次期衆院選はないのではないか。まだ都政で結果を出していない」と指摘する。確かに、東京都の豊洲市場(江東区)の移転問題は決着の見通しがまるで立っていない。結果が問われるのはこれからで、結論が出ないうちに国政に転じれば、「投げ出し」批判が出るのは明らかだ。20年の東京五輪・パラリンピック成功に道筋を付ける責任もある。
そうすると、可能性がありそうなのは、18年に衆院選があった場合、衆院議員任期が満了する22年までに行われる「次の次」の衆院選だ。一方、首相が「3期目」の総裁任期に突入した場合、満了する21年の小池氏の年齢は69歳。自民党内では、「小池人気がそこまで続いているわけがない」(幹部)と指摘する声がある一方、小池氏が「ポスト安倍」を狙って党に戻ってくるとの観測も絶えない。
ここまで小池氏に関心が集まるのは、「安倍1強」の政治情勢の下、国政で「ポスト安倍」候補が見当たらないことが大きい。自民党内では石破氏に加え、岸田文雄外相、稲田朋美防衛相、野田聖子元郵政相らの名前が挙がるが、存在感は今ひとつ。中央政界では、強烈な個性を発揮し続ける小池氏に「首相を狙う存在」としての可能性を感じ取っているのが現状だ。
小池氏がどんな「次の一手」を打ってくるのか。全ては都議選の結果次第だが、「国政研究会」を立ち上げるなど、あらゆる可能性に備え、「フリーハンド」を保っておこうという狙いは透けて見える。
都議選、衆院選の同日選論
自民党内では強気と弱気が交錯している。
都連は3月上旬、党本部に都議選への支援を要請し、選挙準備を本格化させた。首相にも伝えているといい、全党を挙げての議席維持を目指す。
だが、都議会では小池氏の「東京大改革」に対する「抵抗勢力」に仕立て上げられ、逆風が続く。小池氏との摩擦を避ける「抱き付き作戦」で対立を薄め、「旋風」が弱まるのを期待するが、今のところ効果はない様子だ。
党内では、小池氏の影響を薄めようと、都議選と衆院選の「同日選」論を唱える向きもある。都連幹部は「当然、選択肢に入ってくる」とささやく。7月の衆院選なら小池氏も選挙準備が整わず、動きを封じ込められるとの計算ものぞく。小池氏に接近する公明党へのけん制の意味合いもありそうだが、同日選に関しては、都議選を国政選挙並みに重視する公明党がかねて反対の立場。同党の反発を招くのは避けられない。
自民党の二階俊博幹事長は10日の記者会見で、党籍を残したまま自らの勢力拡大を図る小池氏の動きについて、「目に余ることが続けば、党として毅然(きぜん)たる方向を打ち出さなければならない」と処分の可能性をほのめかした。
一方、都議選の国政への影響を食い止めるべきだとの声も漏れている。「党本部は、都議選からできるだけ早く手を引くべきだ。敗北の責任が都連だけでなく党本部にも及び、首相の威信に傷が付きかねない」。都連に所属するある衆院議員は最近、都連幹部にこう訴えた。しかし、反応は鈍かったという。
(2017年3月12日記)
バナー写真:東京都議会本会議場へ向かう小池百合子知事=2017年2月28日、東京都新宿区(時事)