大学入試改革:その必要性と狙い

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日本の大学入試制度と高校教育のあり方が、大きく変わろうとしている。少子化による入学者選抜の変容に加え、グローバル化対応が不十分との危機感が背景にある。

高校、大学教育を一体的に改革

2014年12月、文部科学相の諮問機関である中央教育審議会(以下「中教審」)は、「新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について」答申した。翌2015年1月、文部科学省は答申を踏まえ、「高大接続改革実行プラン」を策定し、答申を具体化するための検討を進めている。

今回の改革は、その題名が示す通り、高校教育、大学教育及びそれらを接続する大学入学者選抜の一体的な改革を進めようとするものである。

国が新たに2種類のテスト導入

国レベルで2種類のテストを導入する。1つは、「高等学校基礎学力テスト(仮称)」である。高校生が自らの高校教育における基礎的な学習の達成度を把握し、それを通じて生徒の学習意欲の喚起、学習の改善を図ることを目的とする。大学入学者選抜において、高校段階における学習成果を把握するための参考資料として活用することも可能。高校2年及び3年で実施し、必履修科目の「知識・技能」の確実な習得を重視し評価する。

もう一つは、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」である。入学希望者が、これからの大学教育を受けるために必要な能力をどの程度身に付けているかの評価を目的とする。「知識・技能を活用して、自ら課題を発見し、その解決に向けて探求し、成果などを表現するために必要な思考力・判断力・表現力などの能力」を中心に評価する。現行の教科・科目の枠を越えた「思考力・判断力・表現力」を評価するため、「合教科・科目型」「総合型」の問題を「教科型」に加えて出題する。年複数回実施する。

いずれのテストも、CBT(Computer-Based Testing)方式及び段階別成績表示を導入する。英語等については民間の資格・検定試験も活用する。

各大学の個別入試も大きく変わる

各大学が個別に行う入学者選抜(以下「個別選抜」という)においては、入学志願者が高校教育で身に付けた「生きる力」、およびその中の3要素の一つである「確かな学力」をいかに大学教育で発展・向上させ学生を社会へ送り出していくか、そのためには大学の入り口段階でどのような力が求められるか、これを多面的・総合的に評価する。

「生きる力」は、「豊かな人間性」、「健康・体力」、「確かな学力」で構成され、「豊かな人間性」とは、国及び社会の責任ある形成者として必要な教養と行動規範を身に付けることをいう。「確かな学力」とは、①主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)、②知識・技能を活用して、自ら課題を発見しその課題に向けて探求し、成果等を表現するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力、③「知識・技能」で構成される。

これらの「生きる力」「確かな学力」の本質を踏まえ、「確かな学力」を総合的に評価するという観点に立ち、個別選抜では、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の成績に加え、小論文、面接、集団討論、プレゼンテーション、調査書、資格試験等の成績、各種大会での活動等の記録、その他受験者のこれまでの努力を証明する資料などを活用する。学力については、思考力・判断力・表現力を評価するため、自分の考えに基づき論を立てて記述する形式が推奨されている。

「高等学校基礎学力テスト(仮称)」は2019年度から、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」は2020年度から、個別選抜の改革は可能なものから随時実施する。今回の答申をまとめた中教審会長安西祐一郎氏は、「これまでの入試改革とは全く次元の異なる改革になる」と述べている。

「教わる」から「身に付ける」高校教育へ

高大接続改革を実現するためには、高校教育及び大学教育を「生きる力」「確かな学力」を育成するにふさわしい教育内容、学習・指導方法、評価方法、教育環境へと大きく転換させなければならない。接続段階での評価のあり方が変われば、それをてこの一つとして、高等学校教育及び大学教育のあり方も大きく転換すると考えられている。

高校教育については、国の教育課程の基準である学習指導要領の見直しによって改革を進める。これまでの学習指導要領は、「何を教えるか」を中心に各教科の目標及び内容等を示しているが、「どのような力を身に付けるか」を基本にし、そうした力を確実に育むために学習方法や学習環境についても明確にする方向で抜本的に見直す。

また、学習者が主体性を持って多様な人々と協力して問題を発見し解を見出していく能動的学修(以下「アクティブ・ラーニング」という)の飛躍的充実を図る。

大学教育については、アドミッション・ポリシー(入学者受入の方針)、ディプロマ・ポリシー(学位授与の方針)、カリキュラム・ポリシー(教育課程の編成・実施の方針)の一体的な策定を各大学に義務付けることとし、必要な法令改正を行う。また、個々の授業科目等を超えた大学教育全体としてのカリキュラム・マネジメントを確立し、教育課程の体系化・構造化を行う。大学教育においても、知識注入型の授業からアクティブ・ラーニングへと質的に転換する。

少子化で大学進学が容易に

今回の改革がなぜ必要なのか。改革の発端は学生の学力不足にある。

少子化が進展し、大学進学該当年齢の18歳人口は1992年の205万人から2014年の118万人まで半減している。この間、大学進学率は1992年の38.9%から2014年の56.7%へと増加している。その結果、大学進学が一般的に容易になり、かつてのような受験勉強がそれほど必要でなくなった。また「AO入試、推薦入試の多くが単なる入学者確保の手段と化している」といわれるようになった。

グローバル化の時代に通用する力を

このような入学者選抜の変容により、高校については「高校教育として生徒に共通に身に付けるべき学力が確保されていない」、大学については「学生にどれだけの付加価値を付けて社会に送り出せているか」という厳しい批判が生じている。

一方、日本の未来について、中教審答申は厳しい見通しを示している。生産年齢人口の急減とグローバル化である。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、生産年齢人口は2015年から15年間で900万以上減り、7000万人台を切ると予想されている。また、グローバル化した厳しい時代に生きる子どもたちには、これからの時代に通用する力をしっかりと身に付けてあげなければならない。このような強い危機感からこの改革が生まれている。「待ったなし」の改革なのである。

官邸主導の「理想主義」的改革

今回の改革には、官邸主導及び政治主導の改革という面と、強い理想主義という2つの新しい特色がある。

近年の教育改革は、権力の中枢である首相官邸や自由民主党執行部が、文部科学省や自由民主党文教族、教育エスタブリッシュメントを批判するという対立軸を通じて形成されてきた。

しかしながら、今回の中教審答申は、首相の下に設置された「教育再生実行会議」が2013年10月に公表した第4次提言「高等学校教育と大学教育との接続・大学入学者選抜の在り方について」を受け、中教審が専門的な検討を進めたものである。安倍晋三首相と下村博文文部科学相は緊密に連携しており、従来のような対立軸はない。なぜなら、二人は06年10月に設置された教育再生会議においても、首相と会議担当官房副長官という関係にあったからである。

加えて近年、行政の政治主導が進み、下村氏は強い指導性を発揮している。官邸及び担当閣僚の強い指導性の下で改革は進んでおり、これまでの政策形成過程のように、現場や関係者との複雑な利害関係の調整の結果が政策に反映されるということは少ない。そして、政策立案者の理想主義が強く前面に表れている。

しかしながら、教育は市民社会の力学の中で生きている。いかに理想主義的な改革であろうとも、市民社会の力学の中で異なる方向に動きだす恐れはある。

バナー写真:大学入試センター試験会場に向かう受験生たち=2015年1月17日、東京都文京区の東京大学本郷キャンパス(時事)

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