蓮舫「二重国籍」問題に見る在日台湾人のジレンマ

政治・外交

二重国籍化を招きやすい日本の行政対応

中華民国は「二重国籍」を容認しているが、日本はそれを容認していない(22歳でどちらかの国籍を選択したかを宣言する)、というのが一般的な理解であろう。ただ、日本において外国国籍の離脱・喪失について、「国籍法」では強制されておらず努力義務にとどまっている。

例えば、日本国籍の女性がイラン国籍の男性と結婚したとしよう。そのときイランは、その女性に対して自動的にイラン国籍を付与するのである。こうした事例に対して日本の法務省がどれほどまで厳格に「二重国籍の解消」に努め、剥奪を徹底しているのだろうか。日本国籍と外国国籍の両方を持つ者について、日本国籍が剥奪されたケースはないと言われている。

では、日本国籍と中華民国国籍を両方所持していた場合はどうだろうか。そもそも、1972年に日本は中華民国と国交を断絶し、中華人民共和国を認めたため、現在に至るまで日本は「中華民国」を国家として承認していない。

個人的な話になるが、台湾人の父を持つ筆者は、日本の役所に提出された自分の「出生届」のコピーを見たことがある。その「出生届」に必要事項を記入したのは父だ。届け書には「生まれた子の父と母」の本籍(外国人の場合は国籍)を記載する欄があり、父は「台湾」と記入していた。ところが、十数年経ち書類を開示して見たところ、父が書いた「台湾」の二文字は、日本の役所によって赤で消され、「中国」に書き換えられていたのである。そうであるなら日本において筆者は、法的には「中国人」の父と日本人の母の間に生まれたことになる。この話からも分かるように、これはもはや当人の知らないところで起こっていることなのである。

蓮舫氏は日本国籍を選択したことを宣言するに当たり、中華民国の「国籍喪失許可証」を添付した外国国籍喪失届を日本の行政機関に提出した。しかし、日本の法務省はこれを「不受理」としたのである。台湾人にとって受け入れがたい話かも知れないが、それは日本が中華人民共和国を承認し、中華民国を国家として承認していないという立場からの判断である。そのため、蓮舫氏は日本国籍の選択を「宣言した」以上にできることはないのだ。

では、日本国籍所持者が「国家」として承認していない中華民国の国籍を取得しようとした場合にはどのようなことが起こるのだろうか。一般的に日本国籍所持者が外国国籍を取得するには、日本側に「国籍喪失届」を提出する必要がある。ただし、日本国籍所持者が中華民国国籍を取得する際は、国家承認の問題も絡んでいるため、日本側は「国籍喪失」をさせてくれず、「国籍喪失届」に代わる「国籍喪失不受理証明書」を発行する。一方、中華民国政府は日本の「国籍喪失不受理証明書」を根拠として、「国籍喪失」が受理されなかった日本国籍所持者に対して、中華民国国籍を付与するのである。つまり、日本国籍所持者は日本国籍を放棄することなく中華民国国籍を所持することが可能となる。もし、日本が「二重国籍」を厳格に取り締まりたければ、こうした齟齬(そご)をなくすように日本の行政機関が取り組まなければならないだろう。

そして、蓮舫氏個人の「二重『国』籍」をとがめるよりも、どうして「二重国籍」で批判が巻き起こるのか、どうして「二重国籍」状態になったのか、当事者たる蓮舫氏の説明と対応は的確であったのか、と言う点でこの問題を捉え直す必要があるだろう。

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