日本人にとっての「台湾の魅力」とは何か

文化

一青 妙 【Profile】

台南に残っている日本人が台湾に期待するもの

国華街は台南市の中心にある細い通りだ。通りの横には昔ながらの水天宮市場(近くの永楽市場を含む)がある。市場は住民の台所として朝早くから賑(にぎ)わい、国華街には買い物帰りの客が食べたり買ったりできる台南名物のおいしい小吃のお店が、100メートルほどのワンブロックに固まっている。人気店は常に大行列で、お昼前には売り切れて店じまいするところも少なくない。

一青妙氏提供

台南人はもちろん、台湾人ならほとんどの人が知っている台湾を代表する美食ストリートの一つだ。決してトレンディーとは言えないが、人のぬくもりが感じられ、飾らずに雑踏散策を楽しめる。市民生活に触れられ、人情味あふれる台湾人とも交流できる場所だ。

私は日本で『わたしの台南』(新潮社)を出版した。日本で初めて台南を包括的に紹介した書籍だった。この本を片手に、多くの日本人が台南市を観光に訪れるようになり、後に台南市親善大使にも任命していただいた。

本は、台南のおいしいお店や台南で出会った人たちについて書きつづったものだが、その中で台南の檳榔(ビンロウ、種子を嗜好[しこう]品として、かみたばこのように使用する物)店の店主・マルヤン(馬路楊)さんとの交流を紹介した。

出版後、この檳榔店は日本人観光客が必ず立ち寄る場所となり、マルヤンさんはたちまち人気者となった。今もほぼ毎日のように日本人が店舗を訪れ、日本語を話せないマルヤンさんと筆談を楽しみつつ、台南の街を案内してもらっている。

マルヤンさんと知り合った日本人は皆、「親切にしてもらってうれしかった」と言い、さらに自分たちの友人にマルヤンさんを紹介していく。2014年の出版から3年たったが、延べ3千人(!)近い日本人が1坪に満たない小さな道端の檳榔店を訪れたという。

檳榔店を日本人が訪れることにも、台湾の人々はもしかするとあまり快く思わないのかもしれない。しかし、台湾の現地の人との触れ合いを求めているのだ、そんな外国人が何を求めているのかを考えていけばこのような現象にも納得できると思う。

台南は、台北や高雄に比べて都市開発がやや遅れた分、日本統治時代の建造物や車が通れないほどの細い路地裏や廟(びょう)が多く残っていて、古き良き時代の台湾を感じることができる。ここ1、2年で、台南は日本人にとって大人気の都市となり注目を集めている。もちろん台湾の人たちの間でも台南観光はブームだ。

街のサイズ感もいい。歩いたり、自転車で回ったりすることができて、ゆっくりと人々の生活を垣間見ることができる。

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一青 妙HITOTO Tae経歴・執筆一覧を見る

女優・歯科医・作家。台湾人の父と、日本人の母との間に生まれる。幼少期を台湾で過ごし11歳から日本で生活。家族や台湾をテーマにエッセイを多数執筆し、著書に『ママ、ごはんまだ?』『私の箱子』『私の台南』『環島〜ぐるっと台湾一周の旅』などがある。台南市親善大使、石川県中能登町観光大使。『ママ、ごはんまだ?』を原作にした同名の日台合作映画が上映され、2019年3月、『私の箱子』を原作にした舞台が台湾で上演、本人も出演した。ブログ「妙的日記」やX(旧ツイッター)からも発信中。

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