世界のゴジラを生んだ日本の特撮

『シン・ゴジラ』—庵野秀明が今の日本でゴジラ映画を作る意味

文化 Cinema

12年ぶりに日本が世界に送り出すゴジラの“斬新さ”はどこにあるのか。

特撮とフルCG

新たなゴジラを創り出すに当たり、庵野総監督、樋口監督には初代ゴジラ映画から始まった「特撮」の伝統を継承したいという思いもあった。特撮とは、スーツアクター、ミニチュアセットなどを活用した撮影だ。

『シン・ゴジラ』製作に当たり、当初、特撮とCGのハイブリッドを試みたが、最終的には国内シリーズ初のフルCGゴジラが誕生した。

庵野総監督は言う。「着ぐるみもいいが、今回は(作品の)世界観に合わせて、フルCGの方がいい、CGが持っている人間的ではない部分を生かそうと思った。人間的な意思、意図を削り取ったゴジラです」

庵野総監督が特にこだわったのは、ゴジラの「視線」だ。「目に感情は表さないが、視線にはこだわり、細かい修正を繰り返した」そうだ。「目だけは、下を向いて、人を見ている。今回のゴジラの唯一の“コミュニケーション”といえます」。

完成報告会見で。左から、庵野総監督、石原さとみ(役=米国大統領特使 カヨコ・アン・パタースン)、長谷川博己(内閣官房副長官 矢口蘭堂)、竹野内豊(内閣総理大臣補佐官 赤坂秀樹)

ステレオタイプの“ヒーロー”は登場しない

『シン・ゴジラ』のもう1つの「新しさ」は、「いわゆる普通の映画でヒーローになる人たちは出てこない映画」ということだ。それが「庵野総監督の方針だった」と山内プロデューサーは言う。

「普通なら市井の人々が立ち上がるのがエンタメの王道です。かたや科学者、先生、かたや雑誌記者、新聞記者などが活躍するのが一番多いパターンでしょう。ところが、この映画では官僚が活躍する。そこが新しい」

東日本大震災、福島第1原発事故の政府の対応は批判の的にもなったが、一方で、理路整然と判断を下し、行動に移した官僚たちもいたはずだ。

リアルさを追求する一方で、『シン・ゴジラ』はあくまでもエンタテインメント作品。山内プロデューサーは言う。「今の日本人が震災後のさまざまな不安にどう立ち向かっていくのか。そのテーマを、ゴジラなくして、2時間のエンタメとして面白く見せることは難しい。僕らの財産であるゴジラで日本を覆う不安を象徴的に表現することで、物語として面白く見せることができるのです」

今の日本を象徴する「当面」の解決

リアルに圧倒的な「破壊神」ゴジラに対峙する人間たちは、やがて「当面の解決」を導き出す。「普通は1作目のようにゴジラを倒したかのように見える、もしくはゴジラが海に帰っていくのが基本でした。保留付きの解決というのは初めて。当面の解決とどう向き合っていくのか、それが今の日本だからこそのエンディングなのです」と山内プロデューサー。

まずは日本の観客を意識して作ったという『シン・ゴジラ』だが、海外の注目度は極めて高い。7月時点で、100の国・地域での配給が決まっている。過去シリーズで最も多くの国と地域に配給されたのは『ゴジラ FINAL WARS』(67の国・地域)だった。

今の日本を切り取った『シン・ゴジラ』が、海外でどう受け止められるのか、注目したい。

取材・文=ニッポンドットコム編集部 バナー写真 (C)2016 TOHO CO.,LTD.

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