
実写映画版『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』の世界観—樋口真嗣監督に聞く
文化- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
「生身」の巨人と7人が操演する大型巨人
もちろん、特撮としては、CGのみで巨人を作ることもできた。だが、実際に諫山氏と会って話してから、特撮手法の方針が決まった。
「(諫山さんから実写化に関して)具体的に注文があった何点かのひとつは、巨人にコワイ芝居をさせないでください、モンスターみたいに吠えてやってくるとか、睨みつけたり、威嚇させたりしないでほしいということでした」と樋口監督。「何を考えているのかわからない不気味さを巨人に芝居としてつけてほしいと言われたとき、これは “素材”として選び抜かれた生身の人間でいこうと決めました」。
こうして、80名以上のオーディションが行われ、20人の「巨人」役が選ばれた。かなり早い段階からテストを繰り返し、メーキャップ、演技にも工夫を重ねた。そして、撮影した映像をデジタル加工し、プロポーションをゆがませる。
「ティム・バートン監督の『アリス・イン・ワンダーランド』の(赤の)女王が参考になった。異常に小さくて頭がでかい。あれの逆をやってみようかと。体の一部分を長くさせたり肥大化させたりして加工する。見たことのある“部品”のバランスが悪いだけで、とてつもなく不気味になる」
映画では、生身の人間が演じる巨人の他に、数人で操演する超大型巨人が登場する。中に人が入り、外にいる6人と、計7人で「演技」する。
CG+生身の人間演じる巨人とミニチュアによる特撮、超大型巨人を数人がかりで操演する方法の融合・ハイブリッド形式のVFXが今回の生々しく迫力のある映像を生み出した。
演出中の樋口監督。本作の特撮監督は尾上克郎監督が務めた。(写真:2015 映画「進撃の巨人」製作委員会 ©諫山創/講談社)
ミニチュアや操演を使った特撮は日本の特撮が得意としてきたところだが、樋口監督にとって、方法論よりも、諫山氏の原作の世界観、イメージをいかに表現できるかが大事だった。「このやり方が一番得意だし、これなら自信をもってOK出せる方法だった。もちろんそれだけではなく、300人以上のCGスタッフがデジタル加工することで完成する。そして、諫山さんの原作の世界観を表現するのにこの手法が合っていた」。
「軍艦島」の廃墟が実写版の世界観に大きく寄与
もう一つ、原作の世界観の実写化で重要だったのは、長崎県・端島(通称・軍艦島)でのロケだった。かつて『007/スカイフォール』でもロケ地の候補となった軍艦島だが、この時は結局写真を基にセットを組み上げたそうだ。この7月には産業革命遺産として世界文化遺産に登録された元炭鉱の廃墟でのロケは、予想以上の効果を挙げたという。
「先日、軍艦島で(映画の)完成報告会見が開かれて、1年ぶりに行ったら、去年と同じことはできないなと思ったくらい風化が進んでいる。去年撮影ができて良かったと思った。そういう場所だからこそ表現できる“重さ”がある」
「原作の持っているイメージをその一点では凌駕するくらいの意味合いのある風景が欲しかった。日本でやる意味を軍艦島に求めた」と樋口監督。9月公開予定の後篇で、軍艦島の風景が映画オリジナルの「進撃の巨人」の世界観設定と密接につながってくることが伝わるはずだと熱を込めて語る。
「進撃の巨人」実写化という大プロジェクトを終えた監督だが、すでに次の大仕事が控えている。『新世紀エヴァンゲリオン』を手掛けた“朋友”の庵野秀明氏とタッグを組み、新たな「ゴジラ」の制作を開始するのだ。庵野氏が総監督・脚本を担当し、樋口監督が監督を務める。2016年夏に公開予定のこの映画は、2004年の『ゴジラ FINAL WARS』以来12年ぶりの“本家”ゴジラ復活となる。
もともと1984年の『ゴジラ』でゴジラ役者(薩摩剣八郎 氏)のそばについて、ゴジラスーツを着せたり脱がせたりという着付けの担当としてゴジラ映画の現場を経験したという監督。いろいろ失敗をして「薩摩さんを殺しかけた」と笑うが、常にゴジラの立ち位置にいることで、撮影の進め方や監督の指示の出し方を学んだという。「好き」が高じて映画業界に入ったが「監督になりたいと思ったことはないし、まして自分でゴジラを撮るとは思ってもみなかった」と謙虚だが、『進撃の巨人』に続き、来夏も「新たな驚き」が期待できそうだ。
(2015年7月21日のインタビューに基づき構成。前編『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』は8月1日公開、後篇『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』は9月19日公開/ タイトル写真:©2015 映画「進撃の巨人」製作委員会 ©諫山創/講談社)