「ふるさとこそが最前線」山崎亮(コミュニティデザイナー)
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山崎亮は、人口数十人の集落から中小地方都市、日本最大級の商業施設まで、年間80もの「再生」プロジェクトに携わっている。山崎が目指す再生は、これまで試みられてきた減少人口の回復や経済的な活性化とは少し違う。彼が駆使するのは「コミュニティデザイン」と呼ばれる手法。人と人とのつながりを通して地域の課題を地域住民自身が解決する、その設計図を描き、サポートするのが仕事だ。
コミュニティデザイナー・山崎亮はなぜ地方にこだわるのか、山崎の考える再生とは何か。大阪を拠点に全国を駆け回る人気者に都内でインタビューした。
大都市が最前線の時代は終わった
——山崎さんは「ふるさとという最前線」という講座を開いていますが、なぜ「ふるさと」が「最前線」なのでしょうか。
「日本の人口は、長い間1000万人だったのが明治期に3000万人になり、第二次大戦直前には6000万人まで増えました。しかし、総人口の8割はずっと郡部(町村)に住んでいました。
ところが、戦後になり人口が増え続けて1億2700万人まで膨れ上がってくる中で、急激に郡部の人口比率が下がり、都市部8割、郡部2割に逆転したのです。行き過ぎた都市化によって30年以上前から郡部の人口減少が続き、高齢化も進んできたわけです。
人口増加時代には、人口が多い地域や人口が増加している地域、つまり大都市が最前線です。多くの人が狭い地域で快適に住むためにどのように開発するか、労働力をどう確保するか、どんな店でどんな料理を出せばもうかるのか、ということはすべて都会に知見がありました。
しかし、2008年をピークに日本の人口は減ってきています。少なくとも今後40年間は人口が減ることが確定しました。これまで人口が少ないところで起きてきた問題が、10年後、20年後にどんな町でも現れるということがはっきりしています。そうすると、大都市が最前線ではなく、これまで人口減少や高齢化を経験してきた地域が、最前線の課題を持っているわけです。
ただし、単に人口が減っているというだけではなく、人口が減っているけれどかつては美しかった地域、いまでも仕組みをうまく作りなおせば美しさを取り戻すことができる地域が最前線なんですね。僕はそういう地域を“ふるさと”というイメージに重ねています。この国が健康であるためには、この関係性をしっかり考えておかないといけないと思います」
過疎の集落でも幸せな理由
——でも、過疎化している地域で暮らすのは大変ですよね?
「人口減少の過程には、指標となるいくつかの出来事があります。例えば、小学校が統廃合されると3~5年でガソリンスタンドがなくなり、ガソリンスタンドがなくなると5年くらいで郵便局がなくなります。地域の人口は段階的に減少していきますが、郵便局がなくなると、一気に人口が減っていきます。
ところが、郵便局がなくなっても、住民が生き生きと暮らしている地域がある。その一方で悲観的にもうだめだと言っている地域がある。その違いがどこから来ているかというと、コミュニティのつながりを中心にしたソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の有無なんです。その地域で守られてきた独特のルールや習慣、お祭、伝統文化などを通じて培われてきた信頼やネットワークが、その地域全体を豊かに、生き生きとさせているんです。
そういう地域を見ていると、状況はかなり厳しくても幸せな生活の仕方があるような気がします。実は大都会に暮らしている若い人たちも、本当は人と人とのつながりや助け合い、信頼による安心感があれば、安定した、落ち着いた生活ができるんじゃないでしょうか」
——そこで役に立つのがコミュニティデザインという手法ですね。
「コミュニティデザインは、地域のコミュニティが抱えている問題を解決するために、人のつながりを活かし、コミュニティの中の人たち自身がどうすれば地域が元気になるかを考えられるよう、その実行をサポートしていく取り組みです。建物や公園といったハードを変えるのではなく、地域の人たちへのヒアリングやワークショップなどを通して、ソフト=コミュニティをマネジメントしていく。
例えば、ソーシャル・キャピタルにはよい部分がありますが、地域によってはそれがしがらみになってしまって、『あの家とは江戸時代から喧嘩しているんだ』みたいなことでうまくいかないケースもある。そこを僕たちのような“よそ者”が少し調整することで面白いことが起こったりするんです」
(studio-Lのウェブサイトより)
給料は安くても貯金はできるし、ネットも速い
——疲弊している地方に、地域を元気にする力が残っていますか?
「地方には潜在的な力があるとは思いますが、人材不足であることは否めません。特に若い人がどんどんいなくなってしまうので、新しい発想力がなくなっています。
その意味では、都会にいる人たちが地方に移り住む機運をもう一度つくることも必要だと思います。都市と郡部の人口比率が逆転したということは、本当は郡部で心豊かに穏やかに暮らせたはずなのに、職がないからと都市部に出てきた人たちの子孫が大勢いるのかもしれません。もう一度郡部の人口を8割に戻せとは言いませんが、もっと増えてもいいとは思います。大都市に住んでいて『なんか違う気がするな』という人は、思い切って地方に飛び出てしまうといいと思いますね。
その時に大事なのは、現代の地方は20世紀にイメージしていた地方とは違うということです。確かに地方に行くと給料は大都市よりも低くなります。でも、実際に生活してみると家賃も食費も生活費もかなり安く済むから、結果として都市で生活するよりも貯金ができる。インターネットの速度なんて、実際には都会より田舎の方が速い。田舎では、夜8時以降は誰も使っていないから自分専用回線のようなものなんです(笑)。
そういうことが、都市の住人には理解されていないんですね。21世紀の地域がどうなっていくかを頭に入れると、都市にいる優秀な若い人たちが地方に行ったらできることがもっとあるはずです」
ふるさとの知見は他の国でも役に立つ
——同じような課題は日本だけでなく、他の国でもありそうですね?
「この10年間は日本が世界で一番人口が減少する“先進国”で、日本に10年遅れて韓国が、16年遅れて中国が続きます。中国は一人っ子政策だから日本以上に急激に人口が減っていきます。“ふるさと”の知見は、間違いなく日本が世界の最先端です。だから、同じような課題をこれから経験する人たちに、僕たちが知っているナレッジやノウハウを提供することができるはずです。
ただ、それを産業化して他国からお金を引っ張ってこようとすると、状況は必ずしもよくならない。これまでの“ハードの時代”の日本はそういうことをかなりやって来ましたが、“ソフトの時代”には違う方法でやった方がいい。
コミュニティデザインは、僕たちが世界に対して貢献できることの一つだとは思います。でも僕が他の国に行って通訳を介してやるのではなく、現地で僕たちと同じような仕事をやりたい人にコミュニティデザインができるように教育することが大事だと思います。僕たちのナレッジを学んだ人たちが、それぞれの国の事情に応じた方法に変換しながらやっていくのが一番いいですし、コミュニティデザインはそういう形でしか出来ないと思います」
ほめられたいから続けている
——人口減少という困難な課題に、身を挺して立ち向かっている感じですね。
「そう言われることがありますが(笑)、正直に言うと、僕の根っこにあるのは『誰かのために何をしたい』という気持ちじゃなくて、それをやった結果、『あなたが来てくれてよかった、ありがとう』『あんたすごいなあ』と言われたいということ。ほめられたくてしょうがない自分がいるんです(笑)。
お金をもうけたり、新製品を発表して売上げを伸ばしたりしても、実はあんまりほめてもらえそうにない。でも、地域に入ってその地域がうまくいくことをやるとダイレクトに感謝されます。僕はこれがうれしくて、この仕事を続けている気がします。
上の世代は『ちゃんと仕事して、財を築いて、日本の産業に貢献しろ』みたいなことを言いますが、僕にはまったく魅力がない。ビルを建てて数千人の社員がいて、お金をたくさん持っても、死ぬときにどうかな。『ああ、もうかった人生だった』とは言えても、心からよかったと思える人生かというとそうではないような気がするんですね。最期には、『ああ、いい人生だった』と言いたいんです。
いまの若い人たちに、お金以外の報酬を得たいと思っている人が多いとすれば、その理由の一つはほめられたいからではないでしょうか。ほめられることがあまりなかった世代が、いま活躍しはじめているんだと思いますね」
——最後に、これからの目標を教えて下さい。
「コミュニティデザインは今後さらに必要になると思いますから、それが出来る人をもっと育てていきたいですね。特に今やらなければいけないのは東北の復興です。僕も東北からの仕事はできるだけ引き受けていますし、2014年4月には山形の東北芸術工科大学の中にコミュニティデザイン学科を開設する予定です。学生を鍛えて、東北の復興の現場をお手伝いしながら、実践を通じてコミュニティデザインを学んでもらう。そうやって育った人が自分のふるさとに戻り、ふるさとを元気にする仕事に就いてほしいと思っています」
取材・文=戸矢 晃一インタビュー撮影=コデラケイ