大砂嵐十両昇進特別インタビュー「今までの努力が自信に変わった」
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エジプト首相も十両昇進を祝福
アフリカ大陸初、イスラム教徒としても初めての力士となった大砂嵐金太郎(本名・アブデルラフマン・シャーラン)が、2013年5月に開催された夏場所で幕下全勝優勝を決めた。文句なしの成績で十両昇進を決め、7月から始まる名古屋場所でいよいよ関取となる。8場所での関取昇進は、小錦、把瑠都と並ぶ外国出身力士最速記録だ。
真面目で明るくひたむきな大砂嵐の姿に、彼を応援するファンが急増。十両昇進決定後には、フェイスブックのフォロワーが2,000人以上も増加した。
彼の活躍は本国エジプトにも届いている。カンディール首相も第5回アフリカ開発会議(TICAD V、開催地:横浜)のため来日した際に大砂嵐と面会し、十両昇進を祝福した。大砂嵐は表敬訪問の直後、nippon.comの単独インタビューに応じてくれた。
運命の日に十両昇進の吉報が飛び込んだ
大砂嵐が所属する大嶽(おおたけ)部屋は、名横綱・大鵬が創設した相撲部屋だ。大鵬こと納谷幸喜氏は2013年1月に惜しまれつつ亡くなったが、その大鵬の誕生日である5月29日に、大砂嵐の十両昇進が決まった。大嶽親方は「大鵬親方の誕生日に関取が誕生するなんて、縁があるのかな」と心から喜びながらも、「本格的なスタートはこれからだよ」と将来へ向けて気持ちを引き締めた。
横綱へと進む予感めいたものすら感じられる今回の昇進だが、大砂嵐自身は決して浮ついてなどいない。
「大鵬親方は、毎日四股を500回、てっぽう(柱などを張り手で突く練習)を1000回もやったそうです。私にも、『四股、てっぽう、すり足といった基本練習をしっかりやれば、関取に早く上がれる。稽古が一番大切だ』と言ってくれました。自分はまだそこまでできないですが、大鵬親方の言葉はいつも自分の胸にあります。
もちろん優勝を目標にしていますが、一番一番すべての取り組みを全力で戦い、勝利する、それが私のやり方です。その積み重ねが、夏場所の全勝優勝につながったのだと思います。突っ張って、腰を下ろしてしっかりと相撲を取る。そんな自分らしいスタイルを貫いていきたい。そして、強い心も鍛えていきます」
周囲からの期待がプレッシャーに
人気に火がつきつつある大砂嵐。取材中も多くのファンから激励の声をかけられた。「国技館で見たけど、突っ張りに迫力があるよね。見ていて気持ちがいい」「とにかく真面目で応援したくなる」など、力士としてはもちろん、その人柄も評価され始めている。夏場所7日目には全日本相撲選手権覇者の遠藤(追手風部屋)から白星をあげるなど、実力も十分。だが、大砂嵐自身は周囲からの期待にプレッシャーを感じているようで、とまどいも見られる。
「ファンのみなさんがたくさん応援してくれています。みな、良い取り組みや優勝を期待している……。それに応えることができるのか、自分がちゃんとやれるのか心配で仕方がないんです。横綱になるという夢は持っていますが、もしその夢が叶えば自分はもっと有名になってしまう。有名人になると、事実無根の誹謗中傷がネットの世界で広められることもあるでしょう。だから自分の夢に100パーセントワクワクできないでいます。でも、とにかくファンのみんなを喜ばせたいし、その責任も感じています。たとえ、怪我をしても、ラマダンをしても、結果を残さなくてはと思っています」
夜食でラマダンを乗り切りたい
2013年のラマダンは、名古屋場所3日目の7月9日から。千秋楽まで13日間、断食との闘いとなる。ラマダン中は日の出から日没まで、食事を摂ることが許されない。
「昨年の名古屋場所では怪我で1日休場し、悔しい思いをしたので、今年は頑張りたい。ラマダンを場所後にずらすことも可能だけれど、やっぱりラマダンをしながら取り組みに臨みたい。他の力士が寝てから、自分で料理をしたり、マクドナルドなどの外食を利用しながら、なんとか栄養を補給します」
人種や国籍を越え、自分の力を信じて、日本の大相撲の世界に飛び込んだ大砂嵐が、夢に向かって頑張る人たちに向けてエールを贈った。
「自分の好きなことなら何でもいい。頑張れば、絶対に自分の夢を叶えることができます。何よりも自分に自信を持って、諦めないこと。限界を決めているのは自分自身です。最後の最後まで思い切って、自分の目標を追いかけてください。『自分は絶対にできる』そう信じることが始まりなんです。これまでにどれだけ頑張ってきたのか。それこそが自分自身を勇気づけてくれます」
大砂嵐も自分の努力を信じ、自信に変えることで一つひとつの目標をクリアしてきた。「諦めなければ、頑張り続ければ、超えられない壁はない」と話す大砂嵐の活躍は、アフリカの人たちだけでなく、夢を追いかけるすべての人に、勇気とガッツを与えている。