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「天ぷらは料理の最高峰」 近藤文夫(銀座「てんぷら 近藤」主人)
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天ぷらは寿司と同じく、元々は屋台で作られていた庶民向けのファストフードだった。それを世界に冠たる料理に進化させたのは、料理人たちが「もっともっとおいしく」と願い、果てない味の追求を続けたからだ。
東京・銀座に店を構える「てんぷら 近藤」。その味は、主人である近藤文夫の探究心が生み出した、天ぷらの真骨頂だ。氏は、かつて勤めていたホテルの名を「天ぷらを食べるならここ」と全国に知らしめた。独立してからも「天ぷらと言えば『近藤』」と食通に愛され続けている。
「シャッ」と軽やかにネタが揚がっていくところを目の前にしながら、熱々の天ぷらを食べる幸せ。「食べ物のおいしさは世界共通だよね」と、近藤文夫は目を細めて笑う。彼が生涯をかけて追求する「天ぷら」とはどんなものか、目指すところを聞いてみた。
究極の技が“軽い”味わいを生み出す
——「近藤」の天ぷらの特徴は何でしょう?
「うちの天ぷらは非常に軽いんですね。油っこくない。ですから、油が苦手な高齢の方からも『近藤の天ぷらなら食べられる』とおっしゃっていただいています。油を避ける傾向のある女性の方もたくさん店にいらっしゃいますよ。先日、テレビ番組で実験したのですが、うちの天ぷらは家庭で作る天ぷらと比較すると、カロリーが半分なんです。それは小麦粉で作る天ぷらの衣が油を吸い過ぎないから。そこがプロの技なんですね(笑)。
みなさんは、天ぷらをただの“揚げ物”と思っていらっしゃるようだけれど、僕は天ぷらを揚げ物というだけではなく“蒸し物”でもあると思っているんです。油で揚げた後も、衣に包まれた素材が余熱で蒸されて、素材そのものの味がうまく引き出される、そういう料理なんですよ。ですから余熱時間も計算した上で揚げないと、天ぷらはおいしくできません」
——確かに、火の入り具合が絶妙ですね。魚介類も、外側は火が通っているのに、中が半生でやわらかい。よく味を知っているはずの野菜も「こんな風味を醸し出す野菜だったのか」と教えられる思いです。
細切りにしたにんじんを一気に揚げる天ぷらも近藤のオリジナルだ。
「うちは野菜の天ぷらが多いけれど、元々、天ぷらの世界で、野菜は邪道だったんですよ。添え物のように、さつまいもやしいたけの天ぷらがある程度。江戸時代に発展した天ぷらは、江戸前の海で獲れた魚を揚げる料理で、野菜を揚げたりしなかった。でも僕にはそれがずっと疑問でした。日本には、おいしい野菜がこんなにたくさんあるんだから、それをもっと天ぷらにしてみたかったんです。
さつまいもにしても、薄い輪切りを揚げていたけれど、僕は嫌いでね、おいしいと思えなかった。でもさつまいもって焼きいもにするとおいしいじゃない? だから焼きいもに勝る味を天ぷらで出そうと考えました。そうして出来たのが、今のさつまいもの天ぷらです。10センチは優に超す切り株状のさつまいもを油の中で30分くらいかけてじっくり揚げることで、水分も甘味もしっかり天ぷらに封じこむことができるから、ぼそぼそしてないでしょ? 最初は評論家に『これは亜流だ』って非難されたけれど、お客さまは皆さん気に入ってくださった。本当のおいしさっていうのは伝わるんだと思いました。
さつまいもの天ぷらを揚げる。ホクホクとした食感は「てんぷら 近藤」ならでは。
お客さまにとって大事なのはおいしいか、まずいかであって、こうあるべきとかそんなことじゃない。料理って、とってもシンプルでわかりやすいものなんですよね」
——評価しない声があってもブレることはなかったんですね。
野菜は必ず現地で試食してから契約。どんな天ぷらにするのか、そのイメージは試食時にふくらんでいる。
「自分のやっていることが、他人のマネじゃなく、なぜそうするのかという本当の意味をわかっていれば、信念は貫けるはずです。僕は天ぷらを追求したかったし、天ぷらの本当の味を知ってほしいと思っていましたから。
それに料理はお客さまが評価してくださるもの。評論家じゃなくってね。だからミシュランで星をいただきましたが、今後さらに上の星をとるために店を変化させることはありません。一番大切なのは、お客さまに本当のおいしさを知っていただくことです。
契約している野菜農家の方にも『本当のもの、最高のものを作って』とお願いしています。例えば、かぼちゃだったら、1本のつるにできる実の数を減らして欲しい、5つなら3つにしてくださいって。数が少なくなればその分、ひとつの実に行く養分の量が増えるので、味がぐっとおいしくなりますからね」