英国人がみた東京:雨の中のシルエット
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東京の風景はどこを切り取っても絵になる。英国出身で東京在住の画家、スチュアート・エアーは、好きなところにイーゼルを置き、次から次へと絵画のように現れる光景を描く。この記事では、雨降る東京にたたずむ人々に焦点を当てたグワッシュ・ペインティグ3点を紹介する。
西麻布のウエーター
日が沈む頃、真っ白なシェフコートに身を包んだ人々が、都会のまん中に現われる。ある店のコックやウエーターたちは、開店間際最後の仕入れに奔走し、別の店では、食事を終えたばかりの常連客を歩道で見送る。まっさらなシェフコートのように、一点の曇りもない彼らのもてなしの所作は、顧客をひととき特権階級気分へいざなう。客の姿が見えなくなるまで、もしくは無事にタクシーに乗りこむまで、スタッフがレストランの外で見送るのはいつものこと。客が人混みにのまれ、日常に戻る直前まで見届けるのが彼らの流儀だ。
東京・西麻布はそのような光景が見られる場所だ。ウエーターは、南北に広く曲がりくねった外苑(がいえん)西通りでタクシーをつかまえようとしている。高級スポーツカーがごう音を立てて走り過ぎ、独特のなまめかしい雰囲気をただよわせる比較的交通量が少ない情景は、モナコグランプリを思い起こさせる。特にたそがれ時はおもむきがある。この夜はどしゃぶりだったので、まるでウエーターが魚を捕まえようとしているように見えた。
飯田橋の小学生
日本では、小学生が一人で1時間かけて学校へ通うのは、珍しい光景ではない。新宿のように混雑している駅でさえ、ランドセルを背負った子供が、さながらスパゲティのように絡まっている電車やバスのネットワークの中で、しっかりと道を尋ねているのを目にする。海外から訪れる人が目を丸くする場面だ。私は、5~7歳ぐらいの子供が、一人でロンドン市街を歩いている姿を想像することができない。
東京は、子供たちにとって住みやすい街だ。彼らが道に迷ったり、危険な目に遭ったりしたらすぐに駆け込める指定場所が数多くあるし、駅名は全て平仮名で書かれている。何より、明るい色のランドセルと黄色い帽子がよく目立つから、困っている様子はすぐに分かる。
2番目の絵は、飯田橋の交番に立ち寄った女の子。傘を折りたたむやいなや交番に飛び込み、おまわりさんと話を始めた。恐らく道を聞いていたのだろう。スマートフォンを持っていなくて、学校帰りに寄らなくてはならない場所を探し出せなかったのかもしれない。
神楽坂のタクシードライバー
和菓子店にひとたび足を踏み入れると、買う前に棚に並べられた和菓子の美しさに見とれてしてしまうだろう。通常、和菓子は手作りで、繊細な色づかいによって季節を表現している。他のスイーツにありがちなガツガツ食べるという感じではなく、何回かに分けて少しずつ味わう。和菓子を食べる時は、時間がゆっくり流れていくように感じられる。
日本人の多くは和菓子を知り合いや同僚、家族への贈り物にするのが好きだ。贈答の習慣は人間関係を円滑にするし、数多く並ぶ和菓子の中からお気に入りの品を選ぶのは楽しいものだ。
最後の絵では、停車しているタクシーとその横にたたずむドライバーに雨が強く降り注いでいる。タクシーから降りた年配の男性客は、神楽坂の目抜き通り沿いの和菓子店に入っていった。10分もいただろうか。昔からの友人もしくは家族に、どれを買おうかとあれこれ思いを巡らしていたのだろう。私は梅雨時にこの場面を目にした。彼は恐らくこの季節の花、アジサイをモチーフにした和菓子を買ったのではないかと想像しながら。
原文英語
イラスト・文=スチュアート・エアー