建築家がつくる家

住宅探訪(2)北国の開放的な家

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マニュエル・タルディッツ 【Profile】

建築家が手掛けた住宅建築シリーズの第2弾は、極寒の地・旭川に立つ「リポジトリ」。夏と冬の気温差が最大で60度という過酷な気候から住人を守る役割を果たしながら、驚くほど明るく開放的な空間づくりに成功している。

リポジトリ(設計:五十嵐淳建築設計、2012年)北東から見た周辺と外観

ダイニングルーム(手前)とキッチン横のらせん階段(奥)

キッチン

洗面室。カーテンを開けた右側は寝室、左はダイニングと居間

寝室から見た洗面室と居間(奥)

寝室

南西側外観

家は北海道旭川市の外れの広大なむき出しの大地に立つ。冬は氷点下30度にも達する極寒の地でありながら、夏の間は猛暑に見舞われることも珍しくない。建築家に設計を依頼した住人が望んだのは、この土地の気候に合わせた家であること。そして、ハウスメーカーのカタログから選ぶのとは違う個性的な家であることだった。

白く塗装したアカマツ材の外壁に囲まれた吹き抜けの空間に、親子4人が暮らす。田畑が広がる周囲の風景ともよくなじんでいる。窓が小さいため、外部から閉ざされているように見えるが、白を基調とした室内は、実は光が差し込んでとても明るい。それぞれのスペースはゆるやかにつながっており、家族全員が共有する大きな一つの部屋という印象を与える。

「リポジトリ」(貯蔵庫)と名付けられたこの家の設計者である五十嵐淳は、玄関を建物の内と外の緩衝空間と考え、伝統的な「縁側」というコンセプトを現代的にアレンジし、開放と遮蔽(しゃへい)のどちらにも対応できるようにした。

住人は、しっかりと包み込む構造によって冬の間は寒気から守られ、それ以外の期間は季節を十分に感じながら暮らすことができる。天井からは明るい光が差し込み、春から秋にかけて窓を開け放てば、耕した土や刈り取った草のにおいが漂い、虫やカエルの声が聞こえてくる。

動画:リポジトリ


© Jérémie Souteyrat

撮影=ジェレミ・ステラ(2014年) © Jérémie Souteyrat
文=マニュエル・タルディッツ(原文フランス語)
バナー写真=リポジトリ(設計:五十嵐淳建築設計、2012年)南西側外観

これらの写真は、「家の列島」と題した展覧会の形でヨーロッパ各地と日本(2017年4月、東京・パナソニック汐留ミュージアム)を巡回し、フランスと日本で刊行された図録に所収されている(レザール・ノワール社、鹿島出版会)。

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    東京を拠点とする建築家。株式会社みかんぐみ一級建築士事務所の共同代表であり、明治大学の建築・都市デザイン国際プロフェッショナルコースの特任教授とICSカレッジオブアーツ教授を務める。数々の展覧会で作品を発表。受賞歴多数。展覧会:ARCHILAB 2006「都市に棲む:日本の若手建築家30人による都市環境から捉えた建築デザイン展」、UIA2011 東京大会(第24回世界建築会議)、「東京 2050//12の都市ヴィジョン展」等。著作:『家のきおく』、『Post-officeワークスペース改造計画』、『団地再生計画/みかんぐみのリノベーションカタログ』、『東京断想』。
    website:www.mikan.co.jp

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