菊:平安時代から愛されてきた秋の花
Guideto Japan
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日本を象徴する花
「日本を代表する花は何ですか?」
そう聞かれたら、多くの日本人は桜と答えるだろう。しかし日本を象徴する花と言えば、菊である。皇室では事実上の家紋として、菊を図案化した「十六八重表菊(じゅうろくやえおもてぎく)」を使用してきた。国花や国章は法律で定められていないものの、パスポートの紋章や硬貨の図柄、在外公館の玄関などに日本のシンボルとして菊が用いられている。
原産は中国で、日本へは奈良時代に薬用植物として渡来した。平安時代に編さんされた『古今和歌集』には菊に関する歌が数多く収められているから、薬用だけでなく、観賞用としても宮中で人気だったようだ。さらに後鳥羽天皇(1180~1239)が、菊を自分の紋章としたことから皇室と菊が結びつくようになったと考えられている。
菊の種類は、日本だけでも350種以上、世界では2万種あるとも言われている。日本で独自に発展した品種は和菊と呼ばれ洋菊と区別されてきた。なかでも江戸時代、全国各地で改良された和菊は「古典菊」と呼ばれ、今でもその個性的な色や形を楽しむことができる。和菊は、花径(花弁の直径)によって「大菊」「中菊」「小菊」に分類される。花径が18センチメートル以上の「大菊」には、厚物(あつもの)や管物(くだもの)、一文字といった品種がある。9〜18センチメートルの「中菊」は弔事に、それ以下の「小菊」は盆栽や花壇、鉢植えなどに用いられる。
伝統美を競い合う「菊まつり」
湯島天満宮(東京都文京区)で毎年11月に開催される「菊まつり」では、「文京愛菊会」のメンバー約60名が丹精込めて育てた自慢の菊を鑑賞することができる。出品された多くが大菊で、地元の小中学生が育てたものも含め、32種約2000本が冬を前にして力強く咲き誇っていた。例年菊まつりの時期には10万人ほどが訪れるという。
「菊は、手間をかければかけるだけ美しく咲いてくれる花です」と「文京愛菊会」会長の杉本慶次さんは言う。「種や苗だけでなく、挿し芽(茎の一部を切り取って植え直して増やすこと)で増やすこともありますが、今年美しく咲いたものを挿し芽に使ったからといって、来年も美しく咲くわけではありません。品種は引き継がれますが、きれいに咲くかどうかは世話次第です。自分の気持ちが入らない状態で育てた時は、菊もきれいに咲いてくれません。まるで自分の心を映し出す鏡のような花ですね」
「菊まつり」では品評会も行われる。会場に並ぶ菊はどれもが美しく見えるが、評価の基準はどこにあるのだろうか。
「まず容姿を見ます。雄大で、花弁がバラバラとせず、きちっと組まれているかどうか。品評会には原種保存の目的もあるので、定められた形に近いほど評価が高くなります。また、虫がついていたり、病気になっていたり、下の葉っぱが落ちていたりすると減点対象ですね」と、杉本さん。
品評会では、同じ種類の菊でも仕立て方によってさまざまに分類される。大菊の場合、1本の茎から3本の枝を伸ばした「3本仕立て」が基本だ。3つの花は高低差をつけるほど美しいとされ、一番奥の花を「天」、手前左を「地」、手前右を「人」と呼び、天・地・人の順に高さがつくように、光の当たり方などを調整して丁寧に育てる。さらに3つの花を同じ大きさに育て、菊まつりに合わせて同時に咲かせるのだから驚くべき技術だ。
また、小菊を崖から垂れ下がるように仕立てた「懸崖(けんがい)」や、一株の大菊から多数の花を咲かせる「千輪咲き」といった仕立て方も華やかで目を奪われる。テーマを決めて作られる「盆庭(ぼんてい)」や、全国の菊まつりでおなじみの菊人形の姿も見逃せない。会場を訪れると、これまで「菊」と呼んでいたものが実に種類豊富で、さまざまな表情を見せてくれる花であることに気づくはずだ。
【施設概要】
湯島天満宮
- 所在地: 東京都文京区湯島3-30-1
- 電話:03-3836-0753
- アクセス:JR山手線・京浜東北線「御徒町駅」より徒歩8分、東京メトロ千代田線「湯島駅」3番出口より徒歩2分、東京メトロ銀座線「上野広小路駅」より徒歩5分、東京メトロ丸の内線「本郷三丁目駅」より徒歩10分、都営地下鉄大江戸線「上野御徒町駅」より徒歩5分
- 「湯島天満宮」公式サイト
取材・文=阿部 愛美
撮影=三輪 憲亮
バナー写真=たくさんの花弁が重なり合って咲く「厚物」という品種