心躍る文房具の世界

「おもしろ消しゴム」で世界に遊び心を伝える

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三田村 蕗子 【Profile】

ランドセルや文具、乗り物、食べ物、動物ならハムスターから恐竜まで、あらゆる形の「おもしろ消しゴム」を生み出すイワコー(埼玉県八潮市)。遊び心満載の50円の消しゴムは海外でも人気を呼んでいる。

「メイド・イン・近所」の完成品

人気が復活した後もコンスタントに売れ続けているのは、楽しい消しゴムを安価で提供するための努力を惜しまない企業姿勢のたまものだろう。50円という今時信じられないほどの低価格は、サンプルや金型の製作を除き、企画から生産、組み立て、検品、袋詰め、梱包(こんぽう)に至るまでの工程を全て内製化することで実現している。

工場には成型された色とりどりのパーツがあちこちに。左はバナナ、右は恐竜

「まず、私の方で『これだけのパーツで構成されたこんな大きさの消しゴムを作りたい』と職人にサンプル製作を依頼します。依頼をもとにサンプル職人が匠(たくみ)の技でサンプルを製作しますが、何度も試作を重ねますね。サンプルができたら次は金型製作。外部の会社に金型製作を依頼して、完成までにだいたい3カ月から4カ月かかるでしょうか。ここが消しゴム生産の心臓部ともいえますね」

完成した金型を用い、SBSエラストマー樹脂を材料に生産された消しゴムの各パーツは、イワコーの近所の家庭250軒に届けられる。内職を請け負っている主婦にパーツを届け、完成品に組み立ててもらうためだ。

「ご近所の方に限定しているのは、パーツを遠くに運ぶと途中で消しゴムが擦れてしまうため。おもしろ消しゴムは『メイド・イン・近所』なんです。これだけ安いと競合も現れません。まねしようとしてもできないでしょう(笑)。でも50円で売るのは大変ですよ。材料費が当初よりも70パーセント近く上がっていますから。ただ、お子さんたちに気軽に買ってもらえるこの価格はなんとか守りたいですね」

人気が高いアイテムを岩沢さんに聞いてみた。

「やっぱり回転ずしかな。最初は普通の寿司しか作っていなかったんですが、孫に『どうしてお皿の上に乗っているお寿司はないの?』と聞かれて、『もう寿司といえば回転ずしの時代だな』と思って作りました。観光地でもよく売れますね」

「回るお寿司」が好きな子どもたちのために作った回転ずしのシリーズ。パッケージ価格は350円(価格はイワコーのカタログから)

海外でも広がる人気

時には家族の意見も取り入れながら開発している「おもしろ消しゴム」のラインアップを見ると、アニメなどの “キャラクターもの” がないことに気付く。この理由は明快だ。「キャラクターものには人気のはやり廃りがあるでしょ。うちは、5年後、10年後にも売れるモノだけを作っています」

“何でもあり” に見えて、筋の通った開発方針。そんな「おもしろ消しゴム」は、販促品としても好評だ。パトカーや消防車の消しゴムは、警察署や消防署のキャンペーンに活用されたり、歯医者が子どもの患者に配るために歯ブラシや虫歯を模した消しゴムを利用したりするケースも多いという。

海外でもファンは増加中だ。子どもが食べてしまうという懸念から欧州などでは食べ物を模した消しゴムは販売できないが、恐竜や動物はユニバーサルな人気がある。

「最初は、2011年にドイツの『ニュルンベルク国際玩具見本市』に出展しました。でも、その後に出た文具フェアの方が反響がいいですね。海外の展示会で知り合った人たちを通してネットワークを開拓し、現在は一国一代理店制度で、英国やスペイン、イタリア、ドバイ、バーレーン、ポルトガル、ポーランド、韓国、中国、台湾などに代理店があります」と話すのは、代表取締役の岩沢努さん。

精巧な作りと得も言われぬかわいらしさを兼ね備えた安価な文具「おもしろ消しゴム」。次はどんなミニチュアが誕生するのか楽しみにしているファンは多い。

2017年1月文房具と事務用品の「ペーパーワールド ドイツ・フランクフルト国際見本市」に出展した際の光景(提供:イワコー)

撮影=長坂 芳樹

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フリーライター。福岡生まれ。津田塾大学学芸学部卒業。流通を皮切りにビジネスの幅広いテーマを手掛け、現在、ビジネス誌や経済誌、流通専門誌で活動中。2014年11月下旬から経済成長著しいバンコクに拠点を移し、東南アジアの取材活動にも力を入れている。移住の経緯やバンコク情報は、ホームページで発信中。著書に『夢と欲望のコスメ戦争』(新潮選書、2005年)、『「ポッキー」はなぜフランス人に愛されるのか? 』(日本実業出版社, 2015年)など。

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