変貌を続ける街、渋谷:再開発で2020年前後に大きく進化
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スクランブル交差点を見下ろす、駅直上の超高層タワービル
日本を訪れる外国人には奇異に映ると同時に、驚嘆もする光景。若者文化の発信地として知られる渋谷、その駅前スクランブル交差点である。信号が青になると、1度に1000とも2000ともいわれる圧倒的な数の人々が、よどみなく行き交う。その様子を撮影するため、周辺にはカメラやスマートフォンを構える観光客の姿が1日中絶えない。
いまや国際的な観光スポットとなっているこの交差点を、まったく別の視点から眺められる建物が計画されていることをご存知だろうか。そればかりでなく、駅周辺では現在「100年に1度」といわれる大掛かりな再開発が進行している。多くの工事は東京五輪・パラリンピックが開催される2020年までに終了する予定で、渋谷の街は今後目まぐるしく変化していく。
東京の主要ターミナルの1つである渋谷駅には4つの鉄道会社の9路線が集まり、それぞれが駅舎の増改築を続けてきた。そのため地上も地下も入り組んだ構成となり、常に動く生命体のようである。最近では東急東横線が東京メトロ副都心線との相互乗り入れのため、2013年にホームが地上2階から地下5階へ移動した。
その東横線の地下化をきっかけに、駅周辺の再開発事業を中心となって推進しているのは、渋谷を本拠地とする東急グループである。「エンタテインメントシティSHIBUYA」を掲げて、駅東側に劇場やオフィスが入る「渋谷ヒカリエ」を2012年にオープン。他に7つのプロジェクトを実施している。
冒頭に挙げたスクランブル交差点を見下ろすタワービルは、「渋谷駅街区」の東棟。地上46階・地下7階建て、高さ230mと、渋谷ヒカリエより約50m高い。2019年度に完成予定で、現在すでに駅と一体で工事に入っている。2027年度までには2期工事となる中央棟と西棟も完成予定で、全体のデザインアーキテクトには日建設計、隈研吾建築都市設計事務所、SANAA事務所と、有名どころが名を連ねる。
東棟の最上部には、屋外と屋内に展望施設が設置される。超高層ビルの屋上を全面的に活用したものでは、日本最大級の規模となるという。スクランブル交差点を眼下に、北は代々木公園越しに新宿のビル群、東は六本木や都心方面、西は富士山への眺望が広がる。このビルの完成によって、渋谷の観光地化がいっそう加速するだろう。
鉄道、バスの乗り換えも便利に
2020年前後には、東西の駅前広場も整備されていく。スクランブル交差点と並ぶ渋谷の象徴といえば、「ハチ公」の銅像。その像がある駅西側の「ハチ公広場」は約1.5倍に拡充される予定で、タクシー乗降場が地下に集約されるという。
同じ西側の「東急プラザ渋谷」跡地を含む「道玄坂1丁目駅前地区」に建設されるビルには、1階に空港リムジンバスが乗り入れるバスターミナルができる。バス発着所がこれまでより駅に近くなり、鉄道との乗り換えの利便性も向上する。併せて、手荷物預かりや集配、外貨両替、観光案内などの施設が整備され、渋谷で手薄だった観光支援サービスが一気に拡充する予定だ。
複数の鉄道会社が乗り入れる駅も、利便性や安全性向上のために変更が加えられる。現在、JR埼京線のホームは山手線から南に離れた位置にあるが、これを北側に約350メートル移設。山手線と横に並ぶ形にする。
東京メトロ銀座線のホームは19年度までに、JR線をまたぐ現在の場所から東口側に約130メートル移す。地下鉄でありながら、黄色い電車が明治通りの上を横切り、駅ビルに出入りする光景が見られなくなるのは惜しいが、すでに過密である現在の状況を考えるとやむを得ないだろう。
その代わり、新たに地下に設けられる東口広場は、JR線、東京メトロ銀座線、京王井の頭線の高い階層にあるホームと、東急東横線・田園都市線、東京メトロ半蔵門線・副都心線の地下にあるホームを結ぶ重要なスポットとなる。
東口では複数の箇所に「アーバンコア」と呼ばれるエレベーターやエスカレーターの垂直動線が設けられることで、駅周辺全体に立体的な回遊性が生まれる。また、地下に流れる渋谷川の整備も同時に行われ、雨水の貯留槽も設けられる。谷の地形となっている渋谷で、ゲリラ豪雨などの際に浸水するのを防止するためだ。
渋谷川の水辺には遊歩道も
利便性と安全性が増す一方、心配なのは「渋谷特有の混沌とした魅力が失われはしないだろうか」という点である。しかし計画を概観するところでは、駅前スクランブル交差点は残され、新たに予定されている各種施設でも画一的な開発は避けられているようだ。
例えば、「渋谷駅南街区」に2018年秋オープン予定の「渋谷ストリーム」。渋谷川が地上に出る位置にあるこのビルには水景施設が整備される。また、建物横の広場から約600メートル続く緑豊かな遊歩道によって、代官山方面へにぎわいと潤いのある水辺空間が生まれるという。
前回1964年の五輪が開催された高度成長期、東京は首都高速道路の建設や暗渠(あんきょ)化などで、都市を流れる河川に背を向けてしまった歴史がある。いまいちど、居心地のよい豊かな水景がこの渋谷の地から東京全体に広まることを期待したい。
多様なクリエーティブ・ワーカーを引き付ける街に変容
冒頭に挙げた「渋谷駅街区」の東棟では、貸床面積約7万3000平方メートルという大規模なオフィスが計画されている。現在再開発が進められる他の街区でも、オフィスが大量につくられ、総賃貸面積は約26万平方メートルにのぼる予定だ。これほどまでにオフィス新設に力が注がれるのには理由がある。
「ITバブル」といわれた1990年代末に、渋谷はシリコンバレーになぞらえて「ビットバレー」と呼ばれた。「渋谷」を英語に直訳した「Bitter Valley」と「bit」をかけた造語で、ベンチャー企業が自由闊達(かったつ)な雰囲気のあるこの地に続々と集まっていたためである。しかし2000年代の中盤に入ると、有名IT企業が渋谷から東京の他のエリアに本社を移していった。
主な原因の一つは、他エリアと比べて渋谷のオフィス床面積が狭く、とりわけ設備環境が整った大型オフィスビルの絶対数が不足していたことにある。スタートアップ企業が集まっても、社員数が増えて一定以上の規模が必要になると、転出せざるを得なかったのだ。今回の再開発事業でのオフィス大増床は、渋谷が抱えていた根本的な問題を解消する狙いがある。
しかも、それらのオフィスは「渋谷らしさ」を感じさせる。先述の渋谷ストリームでは、14~35階のオフィスは多様なニーズに応えるフレキシブルな大空間にし、5階のオフィスロビーでは緩やかなアーチ状のルーフが架けられる。これは、東横線旧地上ホームに架かっていた、通称「かまぼこ屋根」をモチーフにしたもの。4階のコワーキングスペースとスモールオフィスで構成される「インキュベーションオフィス」は、吹き抜けを通して緩やかにつながる。出会いや発想を生む変化に富んだ空間で、クリエーティブ・ワーカーを引き付ける狙いだ。
渋谷では東急グループが中心となるプロジェクトの他にも、ファッションやアート、演劇を通じて若者文化をけん引してきた「パルコ」の建て替えが2019年の完成に向けて進行中。5月17日に着工した地上19階建てのビルは、商業施設と劇場に加えて、クリエーターや起業家を育成・支援する施設を備える予定だ。
また、多様なライフスタイルを取り込みながらクリエーティブな場を提供するのが、4月28日にオープンした「渋谷キャスト」である。商業施設や賃貸オフィスだけでなく、1・2階にはクリエーター専用のシェアオフィスとして実績のある「co-lab(コーラボ)」、上層の13~16階にはコレクティブハウスやサービスアパートメントが入る。さまざまな背景の人々が集って価値観が混ざり合うことを目指すフロア構成、「裏原宿」のカルチャーを生んだ通称「キャットストリート」の起点に位置し、渋谷と原宿の結節点である宮下町という立地特性から、ここを拠点として新たな事業が起こることも期待される。
渋谷キャストを皮切りに、渋谷駅周辺はギアがかかったように変化していくだろう。観光施設整備、利便性向上、オフィスや住居の拡充などの相乗効果により、渋谷独自のポテンシャルがさらに引き出されるに違いない。より多くの人を引き付けながらも、個性的な街であり続けてほしいものだ。
文=加藤 純(ライター)
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