和食を彩る

伝統と革新が生み出す茶器と酒器—玉川堂の鎚起銅器

文化

銅板を槌(つち)で打ち起こし、味わい深い茶器や酒器を作り出す鎚起銅器(ついきどうき)。200年以上の歴史を持つ玉川堂(ぎょくせんどう)は、新潟県燕市の金属加工産業のルーツともいえる。

人間国宝の誕生で見学者が急増

番頭の山田さんは製法だけでなく、「伝統工芸」が持つイメージも誤解されていると言う。
「工芸品は道具ですから、今の食卓で使われなければ意味がないと私たちは思っています。七代目になる現社長の玉川基行(もとゆき)は、常に『伝統工芸は革新の連続だ』と言っています」

もともと玉川堂は、主にやかんを作っていた『也寛(やかん)屋覚兵衛』から始まった。1873年のウィーンから万博への出品を始めたことで、二代目、三代目が彫金などの装飾をほどこし、美術品的な要素が加わった。

そして、近年の最も大きな革新は、玉川匠長の父親・玉川宣夫(のりお)さんが木目金(もくめがね)という手法を取り入れたこと。色彩の異なる銅、銀、赤銅などを20枚以上重ね合わせて融着させ、それを金槌で打ちながら鏨(たがね)で表面を削ることで、色彩豊かな木目のような金属面を生み出す技法だ。宣夫さんは2010年に、鎚起銅器職人として初めて人間国宝に認定された。

(左上)木目金の花瓶 (右上)木目金の湯沸 (下)木目銀を叩いて成形することによって金属の層が複雑に流れて、さらに味わい深い文様となる

その人間国宝認定を機に、工場の見学者数も急増し、5年前に初めてカウントすると年間700人にもなった。それが2016年には5500人まで増えて、その内の約400人は外国人だという。

「同じ頃に、燕三条ブランドが国内外に広く知られてきたのも影響したのだと思いますが、とても嬉しい変化です」(山田さん)

それでも玉川堂は現状に甘んじず、さらに革新を続けている。7年前に200年の歴史で初めて女性職人を雇ったが、今では6人まで増えた。彼女たちは女性目線で、家庭で使いやすい新製品を生み出しているという。そして今年4月には、訪日観光客向けの設備が充実していることで話題の大型複合ビル「GINZA SIX」に店舗をオープンした。

(左上)男性と変わらない仕事をこなす (右上、下)女性職人が考案した、かわいらしい一輪挿し

「今後、銀座から世界に向けて、鎚起銅器と燕三条ブランドをアピールしていきます。でも、我々の考え方では、銀座店はあくまでも鎚起銅器を知ってもらうためのきっかけの場です。そこで興味を持ってくれた人を、燕本店の工場に呼び込むことが最大の目的なのです。お客さんには、金槌の音を聞き、溶液の匂いを嗅ぎ、火の熱を感じてほしい。そして、我々が込めた思いを知ってから鎚起銅器を手に入れて、大切に使っていただきたいのです」(山田さん)

GINZA SIX4階にある「玉川堂銀座店」は、槌目のついた銅板を用いたきらびやかな空間

【店舗情報】

玉川堂燕本店

  • 新潟県燕市中央通2丁目2番21号
  • 営業時間:平日 午前8時30分〜午後5時30分
  • TEL 0256-62-2015  FAX 0256-64-5945

写真=コデラ ケイ
取材・文=ニッポンドットコム編集部

 

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