日本アニメの潮流

細田守と新海誠—未来を担う2人のアニメ監督(パート2)

文化

『君の名は。』が驚異的な大ヒットを記録中の新海誠監督の軌跡をたどる。

新海誠の「ベスト盤」を志向した『君の名は。』

2016年の最新作『君の名は。』は、こうした10数年の遍歴をたどってきた新海監督の「ベスト盤」(東宝の川村元気プロデューサーの言葉)を前提にした企画だという。要素的には美麗な風景に託した思春期の純な心情、音楽とリズミカルな映像変化のマッチング、日本古来の伝統美とファンタジーの融合など、分析すればするほど求められた全ての要素を注入することを目指していると気付く。

ついに主人公の2人が出会うラストシーン (C)2016「君の名は。」製作委員会

また、「東宝系全国公開」というよりパブリックな場に対峙したこの作品では、エンターテインメントとしての属性をより強化しようという努力の形跡が散見される。コメディタッチで始め、それが時空を超え引き裂かれた2人の切なさに転じる作中の転調も見事だ。

スタッフ布陣にもTVアニメ『とらドラ!』『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』で知られる田中将賀(まさよし)のキャラクターデザイン、『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』の作画監督を経験した安藤雅司の作画を配し、「個人作家+深夜アニメ+ジブリ」という「日本の先端アニメ全部入り」となった点も強調しておきたい。それでいて「作家性」「持ち味」は決して損なわれていない点に、前人未踏レベルの驚きがある。

細田守との共通点

新海監督の作品歴の変遷は細田守監督とも似た点が多々あると、今回比較してみて改めて感じた。新海より6歳年上の細田監督が同様の「全部入りエンターテインメント」でメジャー志向した映画『サマーウォーズ』(09年) は、ちょうど7年前の作品なのだ。また「風景に思いを託す」という手法に関して言えば、画家を志向していた細田の作品も同様に美術表現に大きな重きを置いている。映画的なるものへの追求の姿勢、公共・大衆への視線についても共通性は多い。

細田監督は、日本を代表する思春期アニメ『時をかける少女』(06年)以後、「恋愛・結婚・子育て・師弟関係」のように個人の成長になぞらえ、テーマをステップアップさせて一作ごとにさまざまな可能性にチャレンジしている。これまで「個」にフォーカスしてきた新海監督も、もし最新作のヒット要因が「より広く開かれた時間と空間」を取り込んだことにあるのだとしたら、作家性を堅持したまま、さらに誰も見たことのない新境地に到達するはずである。

観客の目と心に強く訴えかけるアニメ映画を追求しているという点で、スタジオ育ちの細田監督、インディーズからメジャー化した新海監督に違いはなく、ともに大きな世界を見せてくれる作家として今後も活躍を続けるだろう。こうした作家たちの意欲と挑戦を核に、アニメーション全体への注目が高まることにも期待したい。

パート1はこちらから)

(2016年11月7日 記)

バナー写真:新海誠監督作品『君の名は。』 (C)2016「君の名は。」製作委員会

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