ジャパニーズ・ウイスキーの魅力とは
Guideto Japan
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世界最高峰のウイスキー
毎年、酒類のニュース・ウェブサイトTheDrinksReport.com(英語)が、ワールド・ウイスキー・アワードで優れたウイスキーを表彰している。2018年のワールド・ベスト・ブレンデッドモルトウイスキーとワールド・ベスト・シングルモルトウイスキーに、日本の『白州25年』と『竹鶴17年』が選ばれたのは、決して驚くようなことではない。ワールド・ベスト・ブレンデッドウィスキー・リミテッドリリースも、まだ若くて小規模な日本のウイスキーメーカー、ベンチャーウイスキーの『イチローズ モルト&グレーン リミテッド エディション』が受賞した。
2003年にサントリーのシングルモルトウイスキー『山崎12年』がインターナショナル・スピリッツ・チャレンジの金賞を受賞して以来、日本のウイスキー造りの勢いはとどまるところを知らない。数々のコンテストでは、ジャパニーズ・ウイスキー部門も設けられるようになり、日本の蒸留所が世界の舞台で重要な地位を占めるようになってきている。2017年には「日本がスコットランドのお株を奪い、ウイスキーの世界リーダーに」という見出しのAP通信記事が英『インディペンデント』紙に掲載された。
メーカーにとって予想外だったのは、プレミアム・ジャパニーズ・ウイスキーに対する世界的評価の高まりとともに国内でハイボールブームが起こったことだ。それによってウイスキーの需要と価格が急騰。羽田空港の免税店の一つは、サントリー『響』を毎日12本置いているが、開店後10分で完売してしまう。また『Nikkei Asian Review』によると、東京・銀座では『山崎』のボトルが1本5万円で売られている。投資対象として日本のウイスキーを購入するケースもあり、サントリーは今年5月、原酒不足のため『響17年』(映画『ロスト・イン・トランスレーション』で取り上げられた)と『白州12年』の販売を休止すると発表した。日本では年代物ウイスキーがますます希少になり、よほど運が良くない限り、酒店で年数表記の国産ウイスキーを見つけることはないだろう。
ジャパニーズ・ウイスキーの「日本らしさ」
日本のウイスキーに興味を持ち始めた人、または既に魅了されている人は、「いつになれば、再び手頃な価格で年代物のジャパニーズ・ウイスキーを楽しめるようになるのだろう?」「引っ張りだこの銘柄の代わりに楽しめるブレンド名は?」、そもそも「何をもってジャパニーズ・ウイスキーと言うのだろう?」などさまざまな疑問を持っているだろう。
ジャパニーズ・ウィスキーは特に独自の蒸留プロセスを採用しているわけではない。大半のメーカーは輸入大麦を原料としているし、年代物国産ウイスキーのほぼ全てが北米産か欧州産の樽(たる)材を使用している。にもかかわらず、ジャパニーズ・ウイスキーには日本らしさが感じられる。
ブライアン・アッシュクラフト氏と川崎祐治氏が共同執筆した新著『Japanese Whisky: The Ultimate Guide to the World’s Most Desirable Spirit(英文)』には、ジャパニーズ・ウイスキーの歴史と伝統、日本独自のウイスキー造り、ウイスキーのおいしい選び方に関するアドバイスがふんだんに盛り込まれており、写真とともに日本で使われている大麦やカスク(樽)から、ウイスキーバー、人気銘柄の特徴、さらには2004年に肥土(あくと)伊知郎氏が設立したベンチャーウイスキーの埼玉県秩父蒸留所(秩父市)など、将来有望な蒸留所の数々も紹介されている。
「『ジャパニーズ』という言葉には、日本人が作ったものという以上の意味が込められています」と39歳のアッシュクラフト氏は言う。「明治時代(1868–1912)に『和魂洋才』という言葉がはやりました。日本人の魂を失わずに西洋の技術を取り入れるという意味です。つまり、表面的には海外と同じ手法で作られたものでも、文化や言葉、食べ物、気候の違いによって生まれた日本独自の趣が備わっている。これは、ジーンズ、カメラ、自動車、電車など全てのものに当てはまります。出来上がった製品から日本の文化が感じられるのです」
神道の影響もある。ジャパニーズ・ウイスキーの蒸留所には、小さな神社やしめ縄、鳥居があり、浄化や清めることを重視するなど、酒と神道との深いつながりが見て取れる。日本初の蒸留所が京都と大阪の中間にある山崎に作られたのも、同地が古くから名水の里として知られていたからで、そのことは日本最古の歌集『万葉集』にも記されている。
また日本のウイスキーの場合、造り方に厳しい規制が課されていないことも有利に働いた。例えばスコットランドでは、オーク樽で少なくとも3年間熟成させたものでなければスコッチウイスキーと呼ぶことはできない。一方、日本では、ウイスキー造りの伝統を尊重しつつも、自生のミズナラやサクラ、クリ、ヒマラヤスギの樽を使うなど、いろいろな条件を試してみることができる。日本の蒸留プロセスには他にも特徴がある。大手メーカーのサントリーやニッカウヰスキーは、全てを自社で生産する傾向にあり、蒸留所間で協力し合うことはない。またニッカの余市蒸留所(北海道余市町)は、世界で唯一、石炭のじか火でたく蒸留器を使っており、琥珀(こはく)色の液体に独特の味わいをもたらしている。
ジャパニーズ・ウイスキーには日本酒の伝統も影響している。ウイスキー蒸留所の多くは、元日本酒の蔵元が始めたもので、ベンチャーウイスキーの肥土氏も1625年から続く蔵元の21代目だ。ただし最も有名なのは、竹鶴政孝(1894-1979)だ。広島の有名な蔵元の息子で、ニッカを創設し、日本のウイスキーの父と呼ばれている
アッシュクラフト氏が、ニッカのチーフブレンダー、佐久間正氏に日本産ウイスキーのどこが特別なのかと尋ねている。「単に伝統を尊重するだけでなく、そこからさらに良いものを造り上げようとする熱意です。ニッカでは、スコッチウイスキーよりも優れたウイスキーを作らなければならないという使命感を皆が持っています。だからこそ、変化を加えることでおいしいウイスキーが生まれるのです。そこがジャパニーズ・ウイスキーたらしめている点でしょう」と佐久間氏は答えている。
おいしいジャパニーズ・ウイスキーの選び方
アッシュクラフト氏が、ジャパニーズ・ウイスキーに関する本を書こうと思ったきっかけの一つは、自身が大阪に住んでいるからだ。大阪は、鳥井信治郎氏(1879-1962)がサントリーを創設し、日本初の商用ウイスキー蒸留所として開設した山崎蒸留所がある場所だ。彼はウイスキーをコレクションとして集めない。彼にとってウイスキーは飲むものだからだ。リサーチの一環として日本中の蒸留所を訪れ、おいしいウイスキーを探し求めているうちに、年数表記が無くて、目が飛び出るような値段でないウイスキーでも楽しめることを知り、その極意を広めたいと思ったのだ。お勧めは、『響ジャパニーズ ハーモニー』『余市シングルモルト』『キリン富士山麓』『ホワイトオークあかしシングルモルト』、そして『イチローズ モルト モルト&グレーンワールドブレンデッドウイスキー』だ。
同書には、ウイスキー・ブロガーの川崎氏がこれまでに書きとどめた100種を超えるテイスティング・ノートも含まれている。彼は単に香りを評価するだけでなく、豊かな語彙(ごい)と独特の表現力で各銘柄の個性を描き出している。例えばニッカの『宮城峡12年シングルモルト』は「景色の良い日本の田舎道からトンネルに入ったときに感じるひんやり感」、希少な本坊(ほんぼう)酒造の『ザ・モルト オブ カゴシマ迷蝶(めいちょう)マルス ウイスキー』は「下ろしたての子牛皮の手袋」に例えている。
「『履き慣れたジーンズのようなウイスキーだ』と言ったら、ウイスキーを飲んだことがない人でも試してみようと思うでしょう?」と川崎氏は言う。彼がブログを始めたのは、より多くの人に魅力を知ってもらいたかったからだ。「お気に入りのウイスキーは?と聞かれて真っ先に挙げるのは『響』ですね。日本人にも海外の方にもお薦めです。とても繊細な味わいで、日当たりの良いティールームでオーケストラの演奏を堪能している気分になれます」
ジャパニーズ・ウイスキーの今後
供給量が限られてきているとはいえ、2人は日本のウイスキーの将来について楽観的だ。現在サントリーは、山梨県北杜市白州町にある白州蒸留所の貯蔵容量の拡大と滋賀県東近江市の近江エージングセラーの貯蔵庫増設を進めている。またベンチャーウイスキーや本坊酒造のような新規小規模メーカーも、ジャパニーズ・ウイスキーの供給不足解消に一翼を担うだろうと期待されている。
「もともと生産量が少なかった製品が、突然世界中の注目を集めたことが供給不足の原因です」とアッシュクラフト氏は説明する。「サントリーなどのメーカーは生産・貯蔵容量拡大への投資を増やしていますが、増産すれば問題が解決するわけではありません。十分な時間と木材が必要です。根比べのようですが、供給量が限られているという問題には良い側面もあります。各メーカーが、限られた在庫をうまく調合する能力を磨いているからです。例えば、年代表記の無い『余市シングルモルト』はどんどん味が良くなっています。各メーカーの能力を見極めるという点では、品不足も悪いことではないかもしれませんね」
(原文英語)
バナー写真:サントリー山崎蒸留所(大阪府島本町)に並べられたウイスキー カスク(樽)
撮影=上田 出日児