日本のウイスキー

世界が認めた「ジャパニーズ・ウイスキー」:蒸留所の舞台裏を訪ねて

文化 暮らし

ヨーロッパで生まれ、スコットランドで「世界の酒」に発展したウイスキー。90年前に製造が始まったジャパニーズ・ウイスキーは、いまや品質で本場と肩を並べ、愛好家の注目を集める存在になった。

「世界一のシングルモルト」をつくり出したニッカ

サントリーのライバル、ニッカも1980年代、「世界に冠たるウイスキーをつくろう」を合言葉に本格的な品質向上に取り組んだ。輸入洋酒の関税引き下げが進み、「今後は外国ウイスキーとの激しい競争にさらされる」との危機感が背景にあった。

1982年に入社し、新人時代を余市で勤務したチーフブレンダーの佐久間は「当時はすべての技術者が結集して、あらゆることを試した。原料や酵母、樽の見直しに始まり、製麦から蒸留にいたるまでの“造り”の部分もかなり変えた。全社で『世界一をとろう』とものづくりに取り組んでいた」と語る。

ニッカの佐久間正チーフブレンダー(左)

その努力は20年後に報われることになる。2008年の世界的なウイスキーコンテスト、ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)で『シングルモルト余市1987』がワールド・ベスト・シングルモルトを受賞。日本勢では初のシングルモルト「世界一」となった。

佐久間は「まさに我々が目指していたものを実現したわけだが、これは偶然ではなかったのだと思う。その後の数多くの受賞歴も、この時引き上げた技術がベースにある」と胸を張る。

ニッカの創業者、竹鶴政孝は1968年、自らの半生を語った新聞の連載(日本経済新聞『私の履歴書』)の中で、かつて現地で実習したスコットランド・グレンリベット蒸留所のモルトについて「今でも実にいいかおりで、伝統の強みがそこからにじみ出ている…。このかおりが実はなかなかでないのだ」と書いている。現在のジャパニーズ・ウイスキーの評価を考えると、隔世の感がある。

ジャパニーズ・ウイスキーとは? 対照的なサントリーとニッカ

近年では、サントリーではフラッグシップとなるブレンデッドウイスキー『響』とシングルモルトの『山崎』、ニッカではブレンデッドモルト(ピュアモルト)の『竹鶴』が“世界一”の常連。だが興味深いことに、両社にはウイスキーをめぐって明らかな見解の違いが見てとれる。それはスコッチとの距離の取り方だ。

ニッカの求めるウイスキーの理想は、あくまでも本場スコッチの延長線上にある。チーフブレンダーの佐久間は「われわれのウイスキーとスコッチは何の違いもない。ことさら日本のウイスキーと強調する意識はない」と断言する。

「“同じ言語”でつくっている酒だし、しいて挙げれば言葉のアクセントが違うくらいのもの。例えばスコッチとニッカのウイスキーが注がれた100個のグラスが並んでいるとしましょう。どれがジャパニーズか、たぶん分からないでしょう」

一方、サントリーは「スコッチとわれわれのウイスキーは、個性が異なる」と強調する。日本の洋酒シェアトップで業界リーダーの同社は、日本人の味覚に合った和食にも合うような製品づくりを追求してきた。

白州工場長の小野は「スコッチはスコットランドの風土から生まれた酒。私は、ジャパニーズウイスキーは日本の四季が育んだ酒だと考えている」と話す。

「スコッチと比べると、熟成感は温暖な気候の日本が優っており、これがジャパニーズの特徴といえる。これに加えて、日本人の味覚で鍛えられた“なめらかさとバランス”が、今になって世界から評価をいただいているのではと思う」

タイトル写真:ニッカウヰスキー余市蒸留所で貯蔵中の樽からモルト原酒を取り出し、熟成状況を確かめる技術者=2014年6月20日

文:石井雅仁(編集部)
ニッカ余市蒸留所・取材撮影:山田 愼二 

この記事につけられたキーワード

観光 北海道 ウイスキー 山梨 洋酒 サントリー ニッカウヰスキー 余市町

このシリーズの他の記事