日本のウイスキー

世界が認めた「ジャパニーズ・ウイスキー」:蒸留所の舞台裏を訪ねて

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ヨーロッパで生まれ、スコットランドで「世界の酒」に発展したウイスキー。90年前に製造が始まったジャパニーズ・ウイスキーは、いまや品質で本場と肩を並べ、愛好家の注目を集める存在になった。

ハイボールブームで市場が好転

日本のウイスキー市場は2009年にようやく好転。2013年まで5年連続で課税数量は増加している。サントリーが仕掛けた「ハイボールキャンペーン」が当たり、若者世代が再びウイスキーを認知するようになった。

同社の白州蒸留所から生まれた『シングルモルト白州』も、「爽やかな森の香りがする」とハイボールブームの中で人気となっている。工場長の小野武は「白州ブランドはノンエイジが若葉、12年が新緑、18年が熟したフルーツ、25年が濃厚なジャムと、森の四季を感じられるイメージでラインアップしています」と説明した。

(左)白州蒸留所の小野武工場長(右)サントリーのシングルモルト、白州25年

需要低迷期、生産技術を「一から見直し」―サントリー

小野は1989年の入社。ウイスキー人気が下降していく“逆風”の中、技術者・ブレンダーとして生産にかかわってきた。

サントリーでは1990年ごろ、技術者の“経験と直感の領域”に多くを頼っていたそれまでのやり方から、サイエンスの視点も取り入れた「ウイスキーづくりを一から見直す」全社的なプロジェクトが行われたという。

モルトウイスキーの製造工程を簡単に説明すると、原料の二条大麦を発芽させ、ピートでいぶした麦芽をつくる。それを粉砕し、温水と混ぜて糖化した麦汁をつくるのが第2の工程だ。麦汁は発酵槽に移され、酵母を加えて70時間ほどおくとアルコール分6-7%のウオッシュ(発酵終了醪=もろみ)が出来上がる。

(左)仕込み漕で行われる麦汁づくり(右)白州蒸留所の木桶の発酵漕

これを単式蒸留器(ポットスチル)に2回かけ、アルコール度数70度ほどもある無色の酒(ニューポット)を取り出すのが第4の工程。ニューポットは少量の水を加えてアルコール度数60度にし、樽の中で最低3年、多くは5年、10年、15年と貯蔵・熟成される。

話を戻すと、小野が語るプロジェクトの中身とは次のようなものだ。

「例えば酵母は成長、熟成、枯れていく過程といくつかのフェーズがあるが、どこで最もうまみ成分を出すのかを科学の目でみていった。また発酵初期に出る泡の高さを高い状態で維持すると、うまみ成分を多く引き出せるということが分かった。その時のうまみ成分の評価の仕方だが、もろみの中にある1つのアミノ酸の量がどれぐらい移行しているのかを見たり、そういうことをいろいろやっていった」

泡を立てて発酵が進む麦汁

「ウイスキーの“右肩上がり”の時代は終わり、このままではダメだと。もっといいものをつくらなければという問題意識があった。当社のシングルモルト山崎の発売は1984年のことだが、今後はより個性のあるモルト原酒を出していこうと。そんなマーケティングの転機の時期にもあたっていた」

一方で、小野は「ウイスキーづくりは決まったものをそのままやればできるわけではない」とも語る。仕込み・発酵時の気温や湿度は、一回一回条件が違う。「それらに対応できる現場の細かいチューニング能力、ノウハウの蓄積には時間がかかる。ここの施設は33年前にできたが、長い年月をかけてレベルを上げてきた」と振り返る。

(左)白州蒸留所のポットスチル。さまざまな形状のものが並ぶ(右)白州蒸留所の原酒貯蔵庫

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