伝統美のモダニズム “Cool Traditions”

将来の日本人横綱を育てる:元関脇・安芸乃島の高田川親方インタビュー

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ハワイ勢、次いでモンゴル勢と、平成の相撲界は外国出身力士たちの活躍が目立った。これからの新しい時代はどうなるか。竜電、輝、白鷹山といった有望な日本人力士を輩出している高田川部屋の師匠、高田川親方にニッポンドットコムの外国人記者が話を聞いた。

力士の序列に年齢や出身地は関係なし

親方は大相撲ほど平等なプロスポーツはないと言う。もちろん力士の序列はあるが、それは純粋に成績に基づくものだからだ。

「学生時代は先輩、後輩の関係がありますが、プロになったら年は関係なく釜の飯の順番が決まる。番付が全てです。もちろん、番付が上になったからと言って、年上の力士、経験の長い力士への礼儀を忘れるようでは、立派な力士とは言えません」

同様に出身地による差別もない。横綱の白鵬や鶴竜(ともにモンゴル)、大関の栃ノ心(ジョージア)ら外国出身力士の活躍を見れば、出身地と昇進は関係ないことが分かる。

「どこの国の力士でも相撲道の精神を重んじて強くなれば応援してもらえる。帰化して日本人になり、親方として相撲協会に残った力士は何人もいる。相撲は体質が古いとかいろいろ言われますが、実は昔から差別がないんです。士農工商の時代でも、相撲が強ければ、農民が武士になれた(※1)。女性を土俵に上げないから差別だというが、相撲取りだって女性から生まれたことはよく分かっている。女性への尊敬は忘れませんよ」

時代とともに変化することを意識しながら、伝統の大切さを語る高田川親方

相撲の奥深さに興味を持つ外国人ファン

いまや衛星放送だけでなくインターネットによって全世界で相撲中継を視聴できる時代。相撲人気は海外にますます広がっている。訪日観光客の増加に伴い、大相撲の観戦に訪れる外国人は年間を通じて増える一方だ。しかし、彼らは相撲というスポーツや伝統をどこまで理解しているのだろうか。

「相撲という競技自体は非常に単純です。土俵から出るか、手をつくか、倒れるかで勝敗が決まるわけですから。それ以上の奥深さを知るのは、後からでいいと思います。でもかえって外国の方々のほうがよく勉強していると感じることもありますよ。今の日本人はエエ加減だから(笑)、伝統文化を大切にしない人も増えていますが、外国では古いものを大事にするでしょう。相撲の伝統を深く考えながら見てくれているのは日本人よりも外国人かもしれませんね」

人間道の学び舎

最後に朝の稽古で印象に残ったことを聞いてみた。稽古の最後に親方が弟子たちに言った言葉についてだ。親方は、稽古の意味は、相手と対戦する準備というだけでなく、自分自身と相対することにあると言った。

「相撲哲学と同時に、人間道を伝えたいと思っています。こうあるべきだということを、力士だけでなく、自分にも戒めています。一緒に修行しているつもりですよ。相撲が強くなるのが一番ですけど、ただ強くなればいいというものではない。先輩を敬い、後輩を可愛がり、親を尊敬するという人間味も磨いていかなければいけない。苦しい稽古を通じて人の気持ちを分かっていってほしいですね。弟子たちは、親父また同じこと言ってうるせえなと思うでしょうけど(笑)、人間は学ぶ方も、教える方も忘れるので同じことを何度でも繰り返さないと。相撲部屋というのは、人間道の学び舎なんですよ」

力士たちに向けての一言で毎朝の稽古を締める

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取材協力=相撲専門ウェブマガジン おすもうさん 写真=花井 智子 取材・構成=ニッポンドットコム多言語部

(※1) ^ 江戸時代には、農民や町人出身の力士が大名家に武士の身分で取り立てられることがあった(編集部注)。

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