伝統美のモダニズム “Cool Traditions”

将来の日本人横綱を育てる:元関脇・安芸乃島の高田川親方インタビュー

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ハワイ勢、次いでモンゴル勢と、平成の相撲界は外国出身力士たちの活躍が目立った。これからの新しい時代はどうなるか。竜電、輝、白鷹山といった有望な日本人力士を輩出している高田川部屋の師匠、高田川親方にニッポンドットコムの外国人記者が話を聞いた。

東京・清澄白河にある高田川部屋は2018年11月現在、竜電と輝の2人の幕内力士を擁する相撲部屋だ。師匠の高田川勝巳は現役時代、安芸乃島の四股名を名乗り、歴代最多16個の金星を獲得した上位キラーとして知られる(最高位は関脇)。2003年に引退後は親方として後進の育成に携わっている。

激しい朝稽古の後、私たちをちゃんこの席に誘ってくれた高田川親方。稽古中の厳しい表情は和らぎ、冗談を交えながら弟子たちとにこやかに話している。そうかと思うと、部屋の関係者などからかかってくる電話に次々と応対する。その忙しい合間にも、私たちの質問に答えて、相撲観や親方としての目標、世界でも高まる相撲人気などについて語ってくれた。

部屋に外国人や大卒力士がいない理由

今回、部屋を訪問するにあたって知りたかったことの一つは、外国人が力士になりたい場合どうすればよいかだった。これに対して親方は、「自分としては基本的に外国人は受け入れない」ときっぱり答えた。その背景には、15年以上にわたるモンゴル出身力士たちの圧倒的な存在がありそうだ。

「極端なことを言うとね、今の日本人は何も考えずにボーッとしているから弱いんですよ(笑)。昔の日本は国全体が貧しかった。だから相撲取りも親を助けたい一心で一生懸命に相撲を取ったんです。それと同じで、相撲取りになろうと日本にやってくる外国人は親孝行したいとか、お金を稼ぎたいという強い気持ちがある。現在は1部屋につき外国人力士1人という枠ができましたから、部屋はその中でも特に体格のいい子を誘うじゃないですか。強くなるのは当たり前ですよ。特にモンゴル人ね。そういう強い外国人力士はほかの部屋に大勢いるでしょ。だから自分は、彼らを倒せるような強い日本人力士を育てたいんです」

稽古中、十分に集中していない弟子を容赦なく叱責する高田川親方

相撲取りの特徴は何と言っても立派な体格。相撲部屋が目を付けるのも、まずは体の大きな子供だ。しかし、ただ大きければいいのではなく、相撲に適した体を作り上げるには、毎日の稽古と食事を何年も積み重ねることが必要だ。最近の日本では、少子化もあって弟子を見つけるのに苦労するというが、入門するのに理想の年齢というのはあるのだろうか。

「昔は30歳で引退していたのが、今は40歳まで相撲を取る力士も珍しくなくなりましたね。だから始めるのもそれほど早くなくていいのかもしれませんが、遅くとも20歳までに始める必要はあると思う。この部屋では大体15歳です。昔は稼げるスポーツは野球か相撲しかなかった。今は少子化で、おまけに多様な選択肢があるので取り合いになってしまう。さらに、部屋に入るということは、親子の関係になるわけで、いい縁に巡り合えるのはなかなか難しいんです」

加えて、力士になるには、ストイックな生活を送るための心の準備も必要だ。相撲部屋では稽古で体を鍛え、技を磨くとともに、共同生活で身に付ける礼儀作法も重要と考えられている。特に横綱になるには成績だけでなく人格も求められる。親方は新しい弟子を受け入れるときに、何よりも真面目かどうかを見ると言う。

「最近は大学相撲出身者が多いですよね。でもみんな大学に行くと遊びをおぼえちゃうんだ(笑)。もちろん有望な力士もたくさんいますけど、中学生に比べると素直さがなくなる。若くして親元から離れるのは、親の有難みが分かって、人格形成にとって大切なんです。強くなるのは素直に人の話を聞いて真面目に打ち込む人間であって、素質は二の次だと思っています。どうしても弟子にしてくれというのなら検討はするけれども、基本的には高卒も入れない方針なんです」

食事の間は稽古の緊張感もほぐれ、力士たちは親方と和やかに言葉を交わす。まさに親子と呼ぶにふさわしい関係が築かれているのが感じられる

力士の序列に年齢や出身地は関係なし

親方は大相撲ほど平等なプロスポーツはないと言う。もちろん力士の序列はあるが、それは純粋に成績に基づくものだからだ。

「学生時代は先輩、後輩の関係がありますが、プロになったら年は関係なく釜の飯の順番が決まる。番付が全てです。もちろん、番付が上になったからと言って、年上の力士、経験の長い力士への礼儀を忘れるようでは、立派な力士とは言えません」

同様に出身地による差別もない。横綱の白鵬や鶴竜(ともにモンゴル)、大関の栃ノ心(ジョージア)ら外国出身力士の活躍を見れば、出身地と昇進は関係ないことが分かる。

「どこの国の力士でも相撲道の精神を重んじて強くなれば応援してもらえる。帰化して日本人になり、親方として相撲協会に残った力士は何人もいる。相撲は体質が古いとかいろいろ言われますが、実は昔から差別がないんです。士農工商の時代でも、相撲が強ければ、農民が武士になれた(※1)。女性を土俵に上げないから差別だというが、相撲取りだって女性から生まれたことはよく分かっている。女性への尊敬は忘れませんよ」

時代とともに変化することを意識しながら、伝統の大切さを語る高田川親方

相撲の奥深さに興味を持つ外国人ファン

いまや衛星放送だけでなくインターネットによって全世界で相撲中継を視聴できる時代。相撲人気は海外にますます広がっている。訪日観光客の増加に伴い、大相撲の観戦に訪れる外国人は年間を通じて増える一方だ。しかし、彼らは相撲というスポーツや伝統をどこまで理解しているのだろうか。

「相撲という競技自体は非常に単純です。土俵から出るか、手をつくか、倒れるかで勝敗が決まるわけですから。それ以上の奥深さを知るのは、後からでいいと思います。でもかえって外国の方々のほうがよく勉強していると感じることもありますよ。今の日本人はエエ加減だから(笑)、伝統文化を大切にしない人も増えていますが、外国では古いものを大事にするでしょう。相撲の伝統を深く考えながら見てくれているのは日本人よりも外国人かもしれませんね」

人間道の学び舎

最後に朝の稽古で印象に残ったことを聞いてみた。稽古の最後に親方が弟子たちに言った言葉についてだ。親方は、稽古の意味は、相手と対戦する準備というだけでなく、自分自身と相対することにあると言った。

「相撲哲学と同時に、人間道を伝えたいと思っています。こうあるべきだということを、力士だけでなく、自分にも戒めています。一緒に修行しているつもりですよ。相撲が強くなるのが一番ですけど、ただ強くなればいいというものではない。先輩を敬い、後輩を可愛がり、親を尊敬するという人間味も磨いていかなければいけない。苦しい稽古を通じて人の気持ちを分かっていってほしいですね。弟子たちは、親父また同じこと言ってうるせえなと思うでしょうけど(笑)、人間は学ぶ方も、教える方も忘れるので同じことを何度でも繰り返さないと。相撲部屋というのは、人間道の学び舎なんですよ」

力士たちに向けての一言で毎朝の稽古を締める

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取材協力=相撲専門ウェブマガジン おすもうさん 写真=花井 智子 取材・構成=ニッポンドットコム多言語部

(※1) ^ 江戸時代には、農民や町人出身の力士が大名家に武士の身分で取り立てられることがあった(編集部注)。

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