伝統美のモダニズム “Cool Traditions”

力士を強くする稽古とちゃんこ

文化

相撲部屋は力士が稽古に励みながら、共同生活をする場。東京・清澄白河にある高田川部屋を訪れ、早朝から始まる厳しい稽古の様子と、それを終えてリラックスした力士たちの姿を追った。

親方登場から熱い稽古へ

8時を回り、力士の全身にびっしりと玉の汗が浮かぶ頃、師匠の高田川親方(元関脇・安芸乃島)が稽古場に現れる。場の空気が一段と引き締まるのが分かる。親方が見守る中、番付下位の力士たちから土俵に入り、相手を変えて対戦する「申し合い」を始める。勝った力士が次の相手を指名し、何番か取り続ける。

時折、親方から指導の言葉が飛ぶ。特にけがにつながりかねない不用意な身体の使い方に対しては厳しい。

「稽古は勝ち負けじゃないんだ。自分との戦いなんだよ。相手に負けても明日につながればいい。けがをしたら相撲人生終わりなんだぞ」

自身もまわし姿になり、指導も熱を帯びる。

それぞれの相撲部屋は「一門」と呼ばれる系列に属しており、同門の部屋同士には交流がある。

この日は同じ二所ノ関一門の峰崎部屋から三段目の力士2人が「出稽古」に来ていた。高田川親方は出稽古の力士にも弟子と同じように熱血指導を行う。相撲の基本運動である四股の見本を自ら示し、口うるさく指導する。「ただ数をこなせばいいんじゃない。こう腰をしっかり下ろして、きつくても正しいやり方でやる。自分のためになるからやるんだ。自分には嘘がつけないだろ?」

ぶつかり稽古

実力の近い力士同士が申し合いを何番も繰り返した後、最後は「ぶつかり稽古」で締めることが多い。受け手と攻め手に分かれ、攻め手の力士が受け手の胸に全力でぶつかり、土俵際まで押し込んだ後、土俵に転がり、受け身をとる。多くの場合、上位の力士が受け手を務め、これを「胸を出す」という。5分も続ければ、攻め手からは悲鳴にも似た荒い息がもれ、立ち上がるのもやっとになる。

力士のランクは、大きく6つの階級に分かれる。最高位の幕内は定員わずか42人(全力士の約6%)で、その下の十両(28人)と合わせた1割足らずの力士だけが関取と呼ばれる。稽古の最後に土俵に上がるのは、この関取たちだ。ぶつかり合いの迫力が格段に違う。

親方からの一言で一日の稽古終了。蹲踞(そんきょ)の姿勢から柏手を打って締める

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