梅の魅力① 梅干しが持つ健康パワー
Guideto Japan
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梅干しは海外でも受け入れられるはず
「初めて海外の食品見本市に参加したのはトルコでした。そこで、梅干しを口に入れた途端に吐き出す人たちを見たのです。とても大きなショックを受けました」
そう語るのは、和歌山県和歌山市に本社を置く株式会社勝僖梅(しょうきばい)の鈴木崇文(たかふみ)専務だ。勝僖梅は梅農家の集まる同県みなべ町に工場を構え、高級ブランドの紀州南高梅(なんこううめ)を製造・販売している。厳しい品質検査を通った特級の大粒梅干しを、一つ一つ個包装で箱詰めにした商品は、お中元やお歳暮などの贈答用として、また結婚式の引き出物にも利用されるなど話題を呼んでいる。自社の梅干しに自信を持っていただけに、トルコでの「こんなもの食べ物じゃない」という反応は衝撃的だった。
しかし、鈴木さんはめげることなく、今も積極的に海外進出を狙う。おいしさはもちろん、健康食品としての梅干しの実力が、海外でも受け入れられると信じているからだ。
「一昔前は、ワサビやガリも外国人が苦手な日本の食べ物でした。それが、世界中ですしが流行したことにより、今では日本人以上にワサビを付け、ガリを食べる外国の方が大勢います。梅干しも、一緒に食べる料理やレシピを工夫することで、世界中に一気に浸透していくと考えています。海外での和食人気はヘルシーなことが大きな要因です。梅干しの持つ多くの効能が広く知られるようになれば、きっと人気に火が付くはずです」(鈴木さん)
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酸っぱさが健康に効く
日本人は古くから疲労回復、防腐作用、風邪の予防など、経験的に梅干しを健康食品として利用してきた。平安時代には薬として用いられ、戦国時代には梅干しと米の粉、氷砂糖を練った「梅干丸(うめぼしがん)」が兵士の保存食として重宝された。
しかし、その正確な効能や成分については、今もあまり知られていない。そのため、みなべ町は町役場に「うめ課」を設置して、梅の魅力を伝えるイベント開催や、体に与える効能を解説した漫画本を発行するなど、梅の普及活動に努めている。
梅干しの酸っぱさの原因はクエン酸だ。梅は果実の中でクエン酸の含有量が最も多く、小さな1粒にレモン1個の2~3倍とされる。
クエン酸は血液をサラサラにし、血流を改善して免疫力を高め、風邪やインフルエンザにかかりにくくするという。胃炎や胃潰瘍、胃がんの原因となるピロリ菌の活動を抑制する効果も認められている。さらに、疲労回復にも効く。体内のエネルギー代謝を活性化させると同時に、疲れの原因となる乳酸を分解して体外へ放出するのだ。
防腐作用は、梅干しの香りに含まれる安息香酸(あんそくこうさん)によるものだ。これは、カビなどの繁殖を抑える抗菌・静菌効果を持っている。梅干しおにぎりや白いご飯の真ん中に赤い梅干しを置いた「日の丸弁当」が携行食として親しまれてきたのは、この効果を経験から学んだためだという。
梅干しの酸っぱさは唾液分泌を刺激する。唾液には食欲増進や殺菌の効果があるだけでなく、赤ちゃんのよだれと同じ成分、パロチンという若返りホルモンも一緒に分泌する。その他に、ポリフェノール類による糖尿病の予防作用、血圧上昇を抑えて動脈硬化を予防する効果、カルシウムの吸収を助ける働きがあるとされる。最近は、梅干しを熱することで生ずるバニリン成分が、脂肪細胞の肥大化を抑え、ダイエットに効果があることも分かってきた。
一つ気になるのが、高い塩分だ。そのおかげで熱中症の予防などにも効果があるのだが、日常的に摂取し過ぎるのは控えたいところ。鈴木さんは、しょっぱさの必要性をこう説明する。
「塩漬けしたベーシックな白干し梅は塩分20%が決まり。これ以下だと、塩漬け中に梅の実の表面に白カビが発生してしまうのです。でも、白干し梅から塩分を抜いて、蜂蜜やしそ、かつお節などで食べやすく味付けをした調味梅干しは、塩分7~17%と控えめです。梅になじみのある中国や台湾からの観光客のお土産として、蜂蜜味は少しずつ人気が出てきました」
食事にアクセントを加える梅干し
この塩分は、味にも大きな影響を与える。梅干しの特徴は「酸っぱく」、そして「しょっぱい」こと。酸っぱさだけなら好む人も多いが、塩辛さが加わるために強烈な味となるのだ。そんな梅干しを、あまり予備知識がないまま、無造作に丸ごとかじれば驚くのは当然。子供や外国人に対して、いきなり「食べてみて」と面白がって勧める人がいることが、梅干し嫌いを作る一因にもなっているだろう。
近年は国内でも、若者の梅干し離れが進んでいる。総務省統計局が発表する家計調査によれば、一世帯あたりの年間梅干し購入量は、2002~16年までの15年間で1050グラムから730グラムへと30%も減少した。
日本人の梅干し愛好者でも、初めて食べた時から、すぐに「おいしい」と感じる人は少ない。子どもの頃から、親に「体に良いから食べろ」と言われたり、防腐作用があるからと弁当に入れられたりすることで、だんだんと慣れ、おいしく感じるようになる場合が多い。好きになれば単体で食べてもおいしいが、通常は食事に添えられることで料理全体の味をひきしめ、アクセントを加えてくれる存在、それが梅干しなのだ。
もし、梅干しを単体で食べたために苦手になってしまった人は、梅干しの多様なおいしさを味わっていないと言える。鈴木さんは、「トルコでも2日目からは現地で購入したチーズと合わせて試食してもらいました。そうしたら、これはうまいと評価してくれる声が聞けるようになったのです」と経験談を語る。
世界へ向けた勝僖梅の挑戦
勝僖梅では海外市場を強く意識し、2017年4月に新しい梅の楽しみ方を提案する「プラムコンシェルジュ」を立ち上げた。鈴木さんは、このブランドによって「梅干しを日本独特の調味料として捉え、マヨネーズやドレッシングのように愛用してもらうことで可能性を広げたい」と語る。
現在発売中の商品は、梅の果肉に「冷燻(れいくん)」という手法で薫製の味わいを加えた「燻(いぶ)し梅ピューレ」と、ペースト状の梅干しと細かく削ったフランス産のコンテチーズを練り合わせた「梅チーズトリュフ仕立て」。梅ピューレはステーキ、魚料理、サラダに合わせて、また梅チーズはワインやシャンパンのつまみとして、外国人でも食べやすくした製品だ。
「プラムコンシェルジュは、梅干し体験のない欧米の方にも、無理なく梅干しの味に触れてもらうための入り口です。これらの商品から、本来の梅干しの魅力や効能に興味を持っていただければと思っています」(鈴木さん)
取材・文=鈴木 尚人撮影=ニッポンドットコム編集部