
外国人が見た!ねぶた祭が生み出す熱気の渦
Guideto Japan
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私は2003年から2006年まで青森市に住み、北東北の夏がいかに短くはかないものかを味わった。その東北の短い夏を彩る最高のお祭り、青森ねぶた祭に参加するため青森に戻った。
青森県は、周囲を山々に囲まれ、整然とした田園地帯が広がる典型的な地方都市。農村が持つ美しさにあふれている。しかし、ねぶた祭は力強く、農村ののどかさとは対照的だ。激しく打ち鳴らす太鼓の音、鋭い笛の音、心高ぶらせる手振り鉦(てぶりがね)の音。いつもは静かな青森の町が熱気と興奮に包まれる。
青森駅に降り立つと、スピーカーから聞こえる懐かしい祭りのリズムが、私を迎えてくれた。体に眠っていたねぶた祭への思いがあふれてくるのを感じた。ねぶた祭は実に6日間続く。
ハネトの踊りがすべてを発散させる
海沿いを歩くと、「ねぶたの家 ワ・ラッセ」に着く。
ここで、ねぶた祭の重要な2つの役回りを教えてくれる体験教室に参加した。2つの役回りとは、太鼓、手振り鉦、笛を使ってパレードを盛り上げる囃子(はやし)と、跳ねたり踊ったり叫んだりするハネト(跳人)。私は今年、ハネトを務めた。
ハネトとはねぶた祭の踊り手で、毎年何万人もの人々が参加する。踊りはとても簡単だ。一方の足で2回跳び、もう一方の足で2回跳ぶのだが、踊り方はかなり自由だ。うれしいことに、青森ねぶたでは、観光客でも衣装をレンタルするだけで、パレードに参加できる。
ねぶた祭のハネトと踊りは宗教的儀式というより、民間伝承から来ている。ハネトの踊りは、心身にたまったものを発散させる意味があるという。
6日間の大々的なショー
2012年商工会議所会頭賞受賞 ヤマト運輸ねぶた実行委員会 『美盾八競 晴嵐 宮本武蔵』 作:北村 隆 正面から見たねぶた
2012年商工会議所会頭賞受賞 ヤマト運輸ねぶた実行委員会 『美盾八競 晴嵐 宮本武蔵』 作:北村 隆 後ろは正面とは違うデザイン。ねぶたは360度表現されている。
毎夜7時10分。大きな花火の音がパレードの始まりを告げると、ねぶた運行が始まる。パレードは2時間近く続く。
ねぶたは壮麗さを競って輝きながら、多くの曳(ひ)き手によって道路の上を回ったり、沈んだり、あるいは滑るように動いたりする。何もかもが本当に見事だ。穏やかな夏の夜、群集、音楽、繰り返される掛け声、ねぶたの圧倒的な存在が周囲を包み込む。
20基ほどの大きなねぶたと多くの囃子とハネトの集団が通り過ぎるが、あっという間に終わってしまう。ねぶたはねぶた小屋に戻され、翌日まで眠りにつく。
着想にあふれたねぶたの姿
翌日、ねぶた祭の受賞発表が行われた。最優秀制作者賞を受賞したのは竹浪比呂央さん。ねぶた制作に関わった学生や、竹浪さん制作のねぶたを運行していた他団体の関係者も喜んでいた。その竹浪さんが「紙とあかり」の造形としての可能性を追求し、ねぶたの文化継承のため立ち上げた「竹浪比呂央ねぶた研究所」を訪れた。
初心者がねぶたに参加するためのアドバイスを聞くと「ともかく色、形、墨の感じなど、関心あるところから入ってもらえればいい」と語る。ねぶたは神話や歴史を題材にしているが、驚いたのは、信じられないほど多方面から着想を得ていることだ。千夜一夜物語やファッションショー、はては『パイレーツ・オブ・カリビアン』の最新作までがヒントになっている。ねぶたは360度、常に見られる姿をイメージして作られているという。背中の部分は面積が広いので、特に色や模様を大事に表現する。ねぶた制作は苦労が多いが、祭りで回転しているところを見ると、制作中には気がつかなかった意外性を発見すると語る。人物の表情に加えて、場面構成の中に要素を増やす傾向が近年あるようだ。ねぶたの残像として色が残るように、動かし方も打ち合わせするという。
竹浪さんによると、子どものころのねぶた祭は大きな商店の前ではだれでもふるまい酒が飲め、ハネトは浴衣が破れるぐらい激しかった。しかし近年、祭りが大規模かつ観光的になって、やり方やルールを厳しくしなければならなくなっているという。
初めてねぶた祭を体験した2003年以降、ねぶたはかなり変化している。今年の祭りは、ファミリー向きだった。アルコールは敬遠され、パレードの猥雑な道化師、「化人(ばけと)」ははるかにおとなしかった。
ハネトになって花笠をかぶる
ねぶた祭が始まると青森は一年で最も慌しくなる。私はまず着付けのために地元の着物店(神戸屋)に出かけた。
一般的なハネトの衣装は、お腰(おこし)をつけ、次に鈴をぶら下げた古典的な浴衣を着て、腰にシゴキ帯を巻く。次に袖をまくりあげ、たすきを肩から後ろに回して袖を固定し、背中でたすきがけに結ぶ。足袋と草履(ぞうり)を履き、最後はハネトの衣装で最も華やかな花笠をかぶるだけだ。
花笠は両端がつばまれている伝統的な麦わら帽子。派手な色のプラスチックの花々が飾ってあって、てっぺんに鳥が止まっているが、花笠をかぶると踊りにくいことが分かった。
パレード開始の時刻には青森市の東西に延びる大通りが封鎖され、ねぶたが曳かれて来る。参加する団体「サンロード青森」のリーダー、櫛引淳治さんを見つけ、お祝いの言葉を伝えることができた。実力通りサンロード青森は総合1位の「ねぶた大賞」と運行・跳人賞を受賞した。
進行出発地点に着いた途端、背後の空が明るく光り、パンパンパンと音がする。4日目の審査日が過ぎると、残り2日間はより一層お祭りムードが高まる。この花火が進めの合図だ。
サンロード青森の囃子が音楽を鳴らし始めると、先頭を行くハネトの先導者が聞き慣れた「ラッセラー、ラッセーラー」の掛け声を始めた。周囲の百人ほどのハネトが跳ねて踊り、声を揃えて「ラッセ、ラッセ、ラッセーラー」と応える。この掛け声が、人々の心を高ぶらせる。
気持ちが高揚し、大勢の人々の熱気に包まれているともう、踊らずにはいられない。パレードの途中で踊り疲れて、もうだめだと幾度か思ったが、「ラッセラー」の掛け声がかかると、再び力が湧いてくる。運行ルートの最後のほうでは、不思議にも先頭に立って掛け声を上げていた。
約2時間、2キロ近く歩いて、出発地点まで戻った。みんな疲れていたが、勝ち誇ったように、がらがら声で「ラッセ、ラッセ、ラッセーラー」と叫び続けていた。
進化し続けるねぶた祭
青森ねぶた祭の最終日。審査結果で上位に選ばれた5台のねぶたがクレーンで上部の平坦な船に載せられ、陸奥湾の海上運行に参加した。
これらのねぶたは、祭りの最後を彩る花火の下をパレードする。興奮を締めくくるにふさわしい演出だ。
だが、翌日になると、町は何事もなかったかのようにすっかりかつての姿を取り戻していた。数日以内に、「ワ・ラッセ」等の施設に展示される受賞作などを除いてねぶたは解体される。ねぶたの熱気を見られるのに、また1年待つことになる。
ねぶた祭は地域の行事を守り続けようとする市民の思いとねぶた制作者の情熱に支えられ、進化をつづけてきた。地元の人にとって祭りの余韻が後を引くことはない。ねぶたは祭りが終わると壊される。しかし常に次の祭りを目指して前に進む。自ら作ったねぶたを自ら解体していたねぶた師の一人は、「来年があるから。悲しむような気持ちはないですよ」ともくもくと作業を行っていた。
囃子に参加していた高校生は「お祭りは始まるとすぐに終わってしまうから。練習が一番楽しい」と話していた。だから、この祭りは無くなることなく継承されてきたのだろう。カタチに残らないからこそ追い続ける人々の情熱が、この町と人々の原動力になっている。
取材=ネイザン・ムーア
撮影=コデラケイ