東京スカイツリーと周辺散策

ものづくりの心意気:すみだ工房ショップ探訪

文化 暮らし

墨田区には、江戸期以来の職人文化と、明治期の軽工業の発祥の地としての「ものづくり」の伝統が今も受け継がれている。スカイツリー周辺に点在する「工房ショップ」で、ぬくもりあふれる職人の心意気に触れてみよう。

墨田区のものづくり

墨田区の歴史は、「ものづくり」の発展と密接に結びついている。

江戸時代、隅田川の水運を利用した瓦、材木、染色などの地場産業が発達し、豊かな職人文化を花開かせたこの地域は、明治期になると日本の軽工業発祥の地となり、金属加工、ガラス製造、繊維、皮革からセルロイド製おもちゃの製造まで、さまざまな工場が移入してきた。その後も、関東大震災や東京大空襲の被害にあいながら、日用品や各種部品の製造拠点として発展を続け、人々の生活をささえてきたのである。

現在も中小企業によるものづくりで知られる墨田区では、ものづくりを基軸とする地域振興が活発に行われている。区が中心となって、地域ブランド戦略の立ち上げなど、伝統工芸技術の伝承と産業育成を目的に、さまざまな政策を展開しているのである。「すみだ工房ショップ」の設立推進も、その一環。製造を行う「工房」と、販売を行う「店舗」が一体化したスタイルの店づくりをすすめ、消費者にものづくりをより身近に感じてもらうことが意図されている。

東京スカイツリー周辺には、伝統技術に新しいアイディアやデザインを取り入れ、魅力的なものづくりを行う工房ショップが点在している。和紙、屏風(びょうぶ)、箸を扱う工房ショップを訪ねて、今に生きる職人スピリットとその心意気に触れてみよう。

工房ショップ探訪

KAMISM Lab.:モダンな創作和紙の実験場

「KAMISM Lab.(カミズム ラボ)」は、和紙の加工製造を専門とする工房ショップだ。川島企画販売株式会社が、2011年4月にオープンさせた。

伝統的な技術を駆使しながら、現代的なデザインや色彩にアレンジされた和紙は、インテリア和紙として照明や壁紙として活用されている。ショップには、ステーショナリーやアクセサリーなども並ぶ。「お客様は、本当に紙でできているの?と驚かれます」と、スタッフの渡部さんは話す。

工房では、木版や櫛(くし)引き、墨流しといった伝統技術を、熟練の職人に教えてもらい、加工を体験することもできる。渡部さんは、「広がる紙の可能性を感じてもらうことが一番の目的です」という。

作品や道具の展示により、伝統的な加工技術が分かりやすく解説されている(左)。熟練の職人による型彫りの作業を、間近で見ることができる(右)。

木版の体験。スカイツリーがうまく刷り上りました!(左) 櫛引きの体験。櫛引きは、櫛の形をした道具を使って美しいラインを描き出す加工技術で、伝統的な左官の技術を応用したもの(右)。

世界各国語の「ありがとう」を木版で刷った紙。赤いコサージュも同じ紙からできている(左)。刷り損じの紙や、壁紙などに使用して余った紙を、アウトレットとして販売(中央)。はがきやコースターは、手軽なお土産として最適(右)。

 

「私達がご案内します」営業部の渡部真優子さん(左)と制作部の中西勝照さん(右)。

KAMISM Lab.(カミズム ラボ)

http://kamism.co.jp/

東京都墨田区業平3-7-11
(東京メトロ押上駅B2出口から徒歩2分)
03-5637-8571
営業時間/10:00~18:30(ワークショップは16:45まで)
定休日/火曜・祝日(ワークショップは月・火曜・祝日休)
※ただし、祝日が土曜または日曜の場合は営業
ワークショップ:4人以上の場合は要予約。木版や櫛引きなどの加工を体験できます。木版の場合、はがき3枚分の体験で1000円。所要時間約15分。

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片岡屏風店:どんなモチーフも屏風に仕立てる職人技

「片岡屏風店」では、屏風(びょうぶ)職人の伝統的な技術により、新たな屏風の世界が作り出されている。「書画を貼り付けた屏風や、金屏風だけが屏風ではありません。大切な着物や帯を屏風にして残したいというお客さんの希望があれば、それに応えたいと思うんです」と語るのは、2代目代表・片岡恭一さん。思い出深い家族のネクタイや、お坊さんの袈裟(けさ)を屏風に仕立てたこともあれば、七宝焼きの屏風や3D屏風をてがけたこともある。「できませんと断ってしまったら、それでおしまいですからね」。

「片岡屏風店」に併設する「屏風博物館」(1996年に墨田区「小さな博物館」に認定)でも、常時、さまざまな作品を見ることができる。また、和紙と板を使って、絵柄が変わる「からくり屏風」作りを体験することもできる(要予約)。

屏風の世界に新風を吹き込む、オリジナリティ高い作品を展示中(左)。海外の方のお土産として人気が高い屏風はこの2点(右)。

「屏風博物館」では、屏風を作る道具や屏風作りの工程を展示。

大きな屏風の模型を使って、からくり屏風の構造を説明する片岡さん(左)。体験教室では、2枚の板をパタンパタンと動かすと、4つの絵柄が現れるからくり屏風を製作できる(右)。

 

「私達がご案内します」2代目代表・片岡さん御一家(左から光子さん、恭一さん、由衣さん、彩衣さん)。

片岡屏風店

http://www.byoubu.co.jp/

東京都墨田区向島1-31-6
(東武線東京スカイツリー駅正面改札口から徒歩1分、都営地下鉄本所吾妻橋駅A4出口から徒歩5分、東京メトロ押上駅A3出口から徒歩6分)
03-3622-4470
営業時間/10:00~17:00
定休日/年末年始
※やむを得ず臨時休業する場合あり。
体験教室:10人以上(最大50名まで)要予約。料金3000円。所要時間約2時間。

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江戸木箸 大黒屋:手になじむ納得の一膳が見つかる店

「江戸木箸 大黒屋」の主人・竹田勝彦さんは、もともと食器問屋のセールスマン。仕入れた箸(はし)の使いにくさが気になっていたが、職人に相談して作り直しても、理想どおりの箸ができ上がってこない。ならば、自分で作ろうと決意したのが20年前のこと。今では、全国にその名が知られる箸職人だ。

オリジナル作品の中でも、とくに、大黒屋の“七角削り箸”は、他では手に入らない名作といわれている。箸は親指、人差し指、中指ではさんで使う道具。この3本の指の角度にしっくりとおさまるのが七角形や五角形の箸であり、竹田さんはこれを「奇数の美学」と呼ぶ。本来、360度の丸い棒を、割り切れない「7」で均等に削るのは不可能だ。しかし、竹田さんが長年の技を駆使すると、一本の棒から美しい七角がみごとに切り出されていく。

良い箸は、おいしいものを、より一層おいしく感じさせる。竹田さんは、食べ物を口に運ぶ箸(はし)を、「命の橋(はし)渡しをする道具」と呼んでいる。

七角削り箸。断面の四角い胴張り型よりも持ちやすく、丸型よりも滑りにくい構造になっている(左)。お客さんが遠慮なく握って、使い心地を確かめられるように、箸は袋に入れずに店頭に並べられている(右)。

作業場と店舗は離れているが、運がよければ、仕上げのカンナがけを見ることができる(左)。東京スカイツリーの高さ634メートルにあやかって、箸先に向かって六角、三角、四角に削られた箸の芸術品。指が当たる部分は持ちやすい三角形。東京スカイツリーの展望レストランでも使われている(右)。

 

「私がご案内します」ご主人・竹田勝彦さん。

江戸木箸 大黒屋

http://www.edokibashi.com/

東京都墨田区東向島2-3-6
(東武線曳舟駅から徒歩3分、京成線京成曳舟駅から徒歩7分) 03-3611-0163
営業時間/10:00~17:00
定休日/第2・3土曜・日曜・祝日

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取材・文=佐々木 香織
撮影=山田 愼二

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