東京スカイツリー、伝統美と最新技術の融合
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東京日本の新しい電波塔、東京スカイツリー(R)が2012年2月29日、竣工した。高さ634m、自立式電波塔としては世界一の高さを誇る。約4年に及ぶ設計期間と3年8ヵ月にわたる建設期間を費やし、延べ約58万5千人もが関わって完成した。
1958年に竣工した東京タワー(333m)が、裾広がりの形をしているのに対し、スカイツリーは実にスリムな直線型。特に、見る位置によって形が違って見えるという不思議なシルエットを描いている。こうしたフォルムはどのように生まれたのだろうか。
細長い建設用地が生んだ世界に例のないフォルム
タワーは足元のスタンス幅がどっしり長いほど構造的に安定し、有利だ。つまり、東京タワーのように下部が広がって底面の一辺が長いほど安定する。333mの高さに対して足元の幅は約95m、この比率をスカイツリーに当てはめると、高さ634mに対して181mが必要になる。
だがスカイツリー建設のために充てられた土地は、細長い元貨物列車ヤード。ここに四角形の足元を作ろうとすると一辺は60m、円でも直径は60mしかとれない。ではどうしたか? その答えが正三角形だった。正三角形にすれば、一辺の長さが約68mもとれる。しかも、三点で立つ構造は、カメラの三脚や古代中国の儀礼に用いられた鼎(かなえ)のように、狭い場所で安定して立つのに優れている。
その一方、上部に設置する展望ロビーは、景観を360度均等に見渡せることが求められた。そこで三角形の足元から、上にあがるにつれて円形へと形が変わる、世界に例のないトランスフォームするタワーが生まれることとなった。
設計の段階で作られた模型は約40個。その中で構造的に最も無理が少なく、かつ強度が得られる「そり」と「むくり」を併せ持つ形状が採用された。「そり」とは、線や面がなだらかに凹んだラインを描いているもので、日本で独自に発達した剣である日本刀にも見られるもの。「むくり」は奈良時代に建築された法隆寺や平安時代の寺院建築の列柱が持つ、やわらかくふくらんだ円弧のことだ。
スカイツリーでは、三角形の頂点から頂上へ向かってのびるタワーの稜線に「そり」を持たせ、三角形の辺の中央部から伸びるラインに、円形へと変化させるための「むくり」の曲線を持たせた。この「そり」と「むくり」によって、タワーのシルエットが見る方向によって異なるという面白さを生んだ。
五重塔の優れた構造を生かした耐震設計
さらに大きな特徴は、日本古来の建築物に見られる構造がスカイツリーに用いられていることだ。それが、伝統的木造建築物である「五重塔」に見られる「心柱」と呼ばれる構造だ。
五重塔は木造建築であるにも関わらず、地震による倒壊の記録がほとんど見られない優れた建築で、その理由のひとつが「心柱」だ。塔体から構造的に独立した中空構造で、振り子となって制振効果をもたらしている。
この構造を模してつくられたのが世界初となる「心柱制振」だ。タワーの中央部に高さ375m、重さ1万1千トン、直径8mの鉄筋コンクリート製の筒を配置。この筒の1/3(125mの高さ)までを塔体に固定している。しかし、そこから上部(125m〜375m)の部分では、心柱自体を塔体から離して独立させた。いざ地震が起きた場合には、心柱が塔体と異なる周期で揺れることで互いの揺れを打ち消し合い、地震の揺れを最大で50%低減することができる。実際、2011年の3月11日に起きた東日本大震災の際、スカイツリーはまだ工事中だったが、作業員は全員無事。構造体ももちろん無事で、一週間後の3月18日には、最長部に避雷針を設置して、高さ634mに到達した。
イルミネーションにも日本の伝統色を
東日本大震災とその余震のために、当初予定の2011年12月から遅れること約2ヵ月、東京スカイツリーは完成した。開業初日の5月22日はあいにくの雨模様となったが、約22万人もが来場。スカイツリーのイルミネーションには、江戸時代からこの地で育まれて来た潔さの精神と隅田川をイメージしたブルーの「粋」と、美意識を表現した淡い紫色の「雅」の2種類あるが、初日を祝して両方ともに点灯された。翌日は一転して広がった青空の下、日本の伝統色の中でも、最も薄い藍色である「藍白」に染められたタワーの鉄骨部分が、白磁のように空に輝いた。
東京スカイツリーの施工主である東武鉄道がプロジェクトのスタート時から考えていたのは「時空を超えたランドスケープをこの地に創る」こと。日本古来の技術を受け継いで建てられた東京スカイツリーは、古の技から新しい技術を構築したことで、まさに時空を超えたランドマークとなったようだ。
取材・文=柳澤 美帆