さよなら、ナルト-世界一愛された忍者
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最初に決めた結末「ナルトとサスケの対決」
『NARUTO -ナルト-』の連載が始まったのは1999年。当時25歳の岸本斉史(まさし)さんは、忍者アカデミーの「落ちこぼれ」として登場する主人公うずまきナルトのキャラクターに、マンガ家を目指し、「周囲に認められたいと強く願っていた当時の自分自身の気持ちを重ねた」と言う。もちろん、初めての連載が15年も続くとは、まったく予想していなかった。
「『週刊少年ジャンプ』の場合、(連載候補の)マンガは3話分作って、連載会議で検討されます。会議に通ったら、通常は2カ月後に連載が始まります」と岸本さんは説明する。「どの作家もほとんど連載の準備、構想を練る時間はなくて、1巻か2巻分くらいの構想があればいいほうだと思います」。
「担当編集者との打ち合わせで、とにかく最初に決めていたのは、ナルトと(少年の頃からのライバル)サスケを対決させて終わるということだけでした」
「忍び五大国」で展開する壮大な忍術合戦
『NARUTO -ナルト-』は11月10日発売の「週刊少年ジャンプ」50号に第699話、第700話が同時に掲載されて完結した。あらためて、忍者たちが繰り広げるこの壮大な物語を振り返ってみよう。
『NARUTO -ナルト-』の舞台は木ノ葉隠れの里を持つ「火の国」他、五つの国から成る忍び五大国。「火の国」に属する隠れ里、「木ノ葉隠れの里」忍者アカデミーで学ぶ少年ナルトは、いつか木ノ葉の里長「火影(ほかげ)」になることを夢見ている。卒業試験に何度か落第するも、なんとか合格して下忍(一番格下の忍者)になり、うちはサスケ、春野サクラと共に、上忍の忍者はたけカカシの班に配属され、数々の苦難を乗り越えて成長していく。
このようにまとめると、ありがちな少年忍者の成長物語のように聞こえるが、登場するキャラクターの数の多さと強い個性、多彩な忍術が織りなす世界は、エピソードを重ねるごとにより複雑に、より深く進化していった。ナルト自身、出生の秘密を抱え、体内には「尾獣(びじゅう)」を宿している。尾獣は一~九本の尾を持つ魔物で、ナルトが宿すのは最強の九尾の尾獣だ。かつて忍び五大国の各国は、軍事力強化のために強大なエネルギーの尾獣を手に入れようと争ったが、やがてそれぞれが尾獣を抱え、パワーバランスを保っている。
尾獣に関しては、「最初は、(妖尾の)キツネを登場させるという程度の設定でした」と岸本さん。「ただゴジラが好きなので、怪獣を描きたい、デカイものを描いて闘わせたいという思いはあった。ですから、『口寄せの術』(印を切ることで別の場所に存在する武器や契約した動物を瞬時に召喚する術)で大きなモノを出すことは決めていました」。
一筋縄ではいかない多彩なキャラクターたち
では、どのように15年にもわたって連載が続き、物語の密度を増していったのか?
「それぞれのキャラクターを描ききったなと思った時点で、そのキャラクターは登場しなくなります。でも、描いているとだんだん愛情がわいてきて、そのキャラクターをしっかり描きたいとも思ってしまう。本来は描かなくてもいいところを丁寧に描いてしまう癖はありました。それでどんどん(連載が)伸びていってしまった」
毎回、そのキャラクターならではのリアルさ、自然な心情に沿って描くことを追求するあまりに、ひとつのシーンを描き終えるのに、思った以上の時間がかかったと言う。
とはいうものの、全部で一体何人のキャラクターを登場させたかについては、「まったく把握していない」そうだ。ナルトとサスケ以外で自分にとって印象深いキャラクターとしては、白(ハク・美少年の「抜け忍」)と自来也(じらいや)を挙げた。
「白は、ナルトが自らの『忍道』(忍者としての信念)を決めるときの導き役ともいえます。自来也はナルトの師匠ですが、忍びの『三禁』―お酒と女と金―を全部やらかしているのに、忍の師匠を務めているという、僕にとっては印象の強いキャラです」
反骨精神から生まれた金髪で青い目のポップな忍者
忍者を描くにあたっては、白土三平のアニメ版『サスケ』の影響も多少はあるというが、マンガ家として影響を受けた作品は、少年の頃に読んでいた鳥山明の『ドラゴンボール』だという。そもそも、型にはまった忍者マンガを描くつもりはなかった。
「日本独特の忍者を日本人がやる必要はないだろうという反骨精神みたいな気持ちが最初にありました。主人公が金髪で青い目だし。忍だからといって、別に陰に隠れる必要はないと思った。オレンジ色の服を着て派手にして、表に出て名乗る。いわゆる忍者とは逆のことをする、ポップな忍者マンガにしたかった」
『NARUTO -ナルト-』の欧米での人気は驚異的だ。これまでに30以上の国・地域で翻訳・発売され、フランスでは、コミック作品の人気ランキングで首位の常連を占める。岸本さん自身にとっても、驚きだったという。
「このマンガ、海外にもウケたらいいなと冗談では言いました。でも、こんなに世界の人が受け入れてくれるとは思っていなかった。海外の方にとって、忍者が魅力的な存在なんだということは、連載を始めてから気づきました」
だが、もちろん、『NARUTO -ナルト-』は単なる「忍者マンガ」を超え、欧米のファンタジー小説に通じる世界観があるからこそ海外で強いアピールを持つのだろう。国内外のファンの中には、『NARUTO -ナルト-』を「ハリー・ポッター」シリーズと似ていると指摘する声もある。
「『ハリー・ポッター』を読んだことはないです。ただ、ファンレターの中に、ハリー・ポッターに似ていると書いたものが届き始めたので、何だろうと思っていました。第1作目の映画を見て、ああ、このことかなと思った。ハリーとロン、ハーマイオニーの3人組が魔法学校で学ぶところが、ナルト、サスケ、サクラと似ているところがあるのかなと…」
マンガでは描けなかったロマンスを映画で描く
15年にわたる『NARUTO -ナルト-』の連載を終えて、あらためて作者として読者に伝えたかったことは何だと感じているだろうか。
「読者の捉え方次第なので、作者があまり決めつけたくはないです。あえて言うなら、最初はなかなか周囲に認めてもらえなかった主人公が、最後は、友だちにしっかり認めてもらえたということ。ひとつ思うのは、主人公はもともと認められるべき(資質を持つ)キャラクターだった。だから主人公が(成長して)変わったというよりは、周囲が変わった。ナルトを認めたくない人たちがちゃんと彼を認めていった話だと思っています」
岸本さんによれば、『NARUTO -ナルト-』第1話から第699話までは、「12歳ぐらいから17歳までの6年間」の主人公を描いている。だが、最終回の第700話では、一気に何年かの時が流れ、ナルトもサスケも自分たちの家族を持ち、父親になっている。
この間、何が起こったのか。劇場版『THE LAST -NARUTO THE MOVIE-』(12月6日公開)は、第699話、700話の間に起こった出来事を描く。岸本さんはこの映画の総監修を務めている。
「最初は映画にする予定はありませんでした。でも、(提案された)脚本の初校を見たら、とてもよかったので、自分でも映画を見てみたくなり、それなら、『NARUTO -ナルト-』の読者も見たいのではと思った。僕はロマンスを描くタイプではなかったけれど、マンガで描けなかった部分を映画で語ればいいと思いました」
新たな作品に向けてアイデアを蓄える
連載が完結するのとほぼ同時に、岸本さんは40歳を迎えた。「結婚して10年たつが、新婚旅行にも行けていない。だから、どこかに旅行したいなあと思っています。まだ次の連載を始めようという気持ちにはならないけれど、締め切りのない生活を送っていると、ちょっとそわそわします」。
2015年春には、再び「少年ジャンプ」誌上で『NARUTO -ナルト-』番外編の短期集中連載が予定されている。多彩なキャラクターを思えば、番外編ならいくらでも描けそうだ。でも、岸本さん自身は、機が熟したら、全く新たな作品に挑みたいと考えているようだ。
「アイデアはノートにたくさん書き留めています。描きたい気持ちはある。自分で気持ちを高めれば、一気に(創作に向かう)熱があがる。マンガ家としての情熱は冷めていません」。
(2014年11月17日のインタビューに基づいてニッポンドットコム編集部が構成/撮影:山田愼二)