日本に期待すること:ヘーグベリ駐日スウェーデン大使に聞く

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今年4月、北大西洋条約機構(NATO)が設立75周年を迎えた。ウクライナ侵攻を続けるロシアへの対応など、加盟国の結束がこれまで以上に必要とされる。こうしたなか、3月に32カ国目の加盟国となったスウェーデンのペールエリック・ヘーグベリ駐日大使に、加盟に至る背景や安全保障のほか、同国の少子化対策、日本の若者への期待などについて語ってもらった。(聞き手はニッポンドットコム理事長の赤阪清隆) 

ペールエリック・ヘーグベリ Pereric HÖGBERG

駐日スウェーデン大使。ウプサラ大学で政治学を専攻した後、スウェーデン国際開発協力庁、スウェーデン外務省に勤務。ナミビア、南アフリカで外交官として勤務しアフリカ局長、駐ベトナム大使を歴任。2019年から現職。

スウェーデンがNATOに加盟

赤阪清隆 まずロシアについて伺いたい。スウェーデン国民はロシアからの軍事脅威を強く感じているのか?

ペールエリック・ヘーグベリ われわれは、とてもリアルに感じている。

スウェーデンとロシアの関係は、日本と近隣大国との関係に少し似ている。スウェーデンとロシアは地理的に非常に近いが、欧州で2年にもわたって続く戦争が起きるとは予期していなかった。ソ連崩壊以降、欧州に限らず世界の平和的発展を望んできた。

平和的発展は、単純なことではない。過去をさかのぼると、ロシアは2008年にジョージア侵攻、2014年にはクリミア併合など、プーチン政権に強い兆候があったことが分かる。われわれとしてもロシアの動向が気になっていたが、常に対話を通して平和的に物事を進めていけると思っていた。

しかし、2021年末のウクライナ侵攻の数カ月前、ロシアは安全保障のバランスが崩れることを理由に、われわれのNATO加盟に反対を表明した。大国による小国への挑発的な行為であり、実際、侵略を起こし、超えてはならない一線を超えてしまった。スウェーデンとフィンランドにとって、あらゆることが変わった。

NATO本部(ベルギー・ブリュッセル)ビルにスウェーデン国旗が掲揚されたとき、スウェーデンのクリステション首相や軍の最高司令官、閣僚だけでなく、ビクトリア皇太子も参加していた。これはスウェーデン国民、同盟国、そしてロシアや世界各国に対して、加盟が単なる政治的な出来事ではないことを示した。スウェーデンがNATOに加盟した理由は2つある。1つは自国を守るため。もう1つは欧州の安定強化のために、防衛や安全保障に貢献するためだ。

安全保障に対する国民意識の変化

赤阪 スウェーデンの防衛費は、NATOが求める国内総生産(GDP)比で2%以上とする目標をすでに超えているのか?

ヘーグベリ それを目指しており、今年もしくは来年には達成できるだろう。ソ連崩壊やベルリンの壁が崩壊した後、必要がないだろうと、軍隊の規模を縮小したが、現在、防衛費を急いで増額している。

そして、NATOに加盟する全32カ国がウクライナ支援の透明性を高め、長く確実に支援していくことを明確にしたい。ロシアが他の欧州の国々に対して勝てないことを知らしめる方法を見つけなければならない。

赤阪 スウェーデンでは数年前に徴兵制を復活させたが、若者は受け入れているか?

ヘーグベリ そのようだ。実際、軍隊への入隊を希望する若者の数は増えている。志願兵の登録者数も劇的に増えており、中には女性もいる。

赤阪 それは驚きだ。昨年、日本人の若者を対象にした日本財団の調査によると、日本と外国の間で戦争・武力衝突などが生じて、自分の身近な人に危害が及ぶ可能性がある場合、戦闘員として志願すると答えた割合は13%だった。

ヘーグベリ 日本人には、侵略されるという概念が薄いのかもしれない。スウェーデンから飛行機で1時間の距離にあるウクライナに対してロシアが全面侵攻したことは、われわれを震撼させた。ロシアの行動はもはや理論的ではなく、これに対してわれわれは、きちんと計画を立てなければならない時に来ている。では、フィンランドやスウェーデンがロシアによる侵略を恐れているかといえば、短期的には恐れていない。しかし、もしもロシアによるウクライナの一部、または全面支配を世界が事実上認めるようなことになれば、その後に何が起きるのかが心配だ。

紛争回避へ「対話」が重要

赤阪 ここ数年、特にシリアや中東からの難民を多く受け入れているが、ガザでの戦闘の行方についてスウェーデン国民はどの程度関心があるのか?

ヘーグベリ 当然、大きな関心を持っている。中東にルーツをもつスウェーデン人が多いだけでなく、この問題は世界秩序のかぎを握るからだ。今はウクライナに世界の注目が集まっているが、多国間の観点から見ると他のどの紛争も重要だ。紛争、不公平、民主主義や人権が尊重されない事案に対して、スウェーデンは常に関わってきた。それはわれわれが長い間、幸運にも平和を享受していたからかもしれない。しかし今は状況が異なる。

2023年10月に起きたイスラム組織ハマスによる恐ろしい犯罪行為を忘れてはいけない。イスラエルには当然、自国防衛する権利がある。しかし応戦は戦争ルールの枠組みの中で行われるべきだ。紛争の拡大は最悪の事態であり、絶対に避けなければいけない。そのためにも対話は極めて重要だ。

紛争がいつ終結するのか分からない。外交官の立場を離れて話をすると、政治学専攻の私はこのような問題に対して常に、自分なりに考えることにしている。歴史から学び、未来を予想するのは、少なくとも将来起こるかもしれぬ大惨事を回避するためだ。しかし、残念ながら、人は常に未来を予測したり、歴史から学んだりすることが下手だというのが私の持論。たとえ、聞きたくないようなつらい現実に対しても誠実に向き合うべきだ。

この流れで日本を見ると、ロシアと正式な平和条約は未だ締結されていない。朝鮮戦争は休戦状態が長く続いている。国際社会はこのような膠着(こうちゃく)状態を避け、次の世代に問題を先送りにしないよう注意すべきだ。

高い出生率を維持する3つの政策

赤阪 人口問題について伺いたい。日本が直面する問題の1つが少子化だ。スウェーデンは高い出生率を維持しているようだが。

ヘーグベリ 一番の問題は新生児が減少していることだ。欧州も出生率がかなり低い。しかし、これは自然な経済発展だったのかもしれない。かつては家族があまりに多かったが、経済が発展するにつれ家族の規模も小さくなった。日本も対応に乗り出しているようだが、新生児の減少が社会に脅威を及ぼした時、何をすべきかが問題になる。

スウェーデンでは3つのことを実行してきた。1つ目は、女性の育児と仕事の両立を可能にしたこと。これはかなり前から始めた取り組みだ。リーダーたちがジェンダー平等について考え始めたとき、人権問題の側面だけで考えなかった。より多くの働き手を必要としているスウェーデンでは、この施策により、女性が働きやすくなった。今ではスウェーデン人女性の大半が働いている。地方自治体の条例では、希望する家庭に対して子育て支援をしなければならないと定めている。

2つ目は、家庭を対象にする税を廃止した。スウェーデンで、所得がある人は、家庭ではなく、個人に対して課税される。3つ目は、子どもがいる親への手厚い子育て支援策だ。子ども一人一人に給付金が支払われる。

これらはすべて1970年代に始まり、仕事と子育てが両立できる盤石なシステムを作り上げた。しかし、一方で、スウェーデンは多くの労働力を輸入した。この点は日本とは異なる。現在、スウェーデンの人口は約1000万人で、このうち25%が外国で生まれたか、もしくは両親が外国生まれだ。彼らはスウェーデン市民権を持ち、選挙権もある。当初はフィンランド、トルコ、チリからの移民が多かった。しかし、技術力の高い労働者の獲得から人道主義的な受け入れへと徐々に移行することにより、「アフリカの角」と呼ばれる大陸東部の地域や、イラク、シリア、アフガニスタンからの避難民の受け入れにつながった。

これにより、社会的な統合問題が生まれ、政治的な議論の中心になっている。亡命者の人数は過去に比べると減っているが、一度、スウェーデンに亡命した人々を放り出すわけにはいかない。これがわれわれの人口減少問題を解決する方法だった。

結婚にとらわれない家族の形

赤阪 少子化対策に成功した国といえばフランスもそうだ。スウェーデンも同様だろうが、近年の変化として婚外子や一人親の家庭で生まれる子どもが多い。一方、日本での婚外子はわずか2~3%だ。

ヘーグベリ これは個人の権利を第一に尊重するリベラル主義の考えに基づくと思う。女性の就業をサポートし、女性が自由にやりたいことを実現することとも関係している。

結婚に対する考え方は、大きく変化した。私の祖父母の世代は、結婚は必要な制度だったが、現在のスウェーデンが子どもや失業者のために提供するサポートシステムやその他の社会的支援策は結婚にとらわれないものだ。多くのスウェーデン人は結婚しないけれども一緒に暮らしており、この状況が社会的に認知されるのも比較的早かった。結婚した人の恐らく半分は離婚しているので、結婚制度は劇的に変化している。

外交官の立場で批判はしないが、共同親権について日本で議論されていることは喜ばしい。もし両親が離婚を選択した場合、それは彼らの問題だ。しかし、子どもの親権を父と母のどちらか一方が持つことはすべきではない。スウェーデンでは子どもが父と母の両方に会える権利をしっかり保障している(現在は母と母、父と父の場合もある)。

考えて行動することを恐れずに

赤阪 日本での5年の任期を経て、間もなくスウェーデンに戻られるが、日本の若者に向けてメッセージをお願いしたい。

ヘーグベリ 私の仕事は日本社会に強い影響を与えるものではなく、両国に強固な関係性を築くことだ。最初に伝えたいのは、日本とスウェーデン、日本と北欧諸国との間には、相互関係が存在していることだ。すでに固い絆で結ばれているので、ニュースになることは決してない。貿易・経済連携面では相互利益の関係性が構築されている。

2つ目は、自ら考えることをお勧めしたい。先生の話をうのみにするのではなく、自分で考え、調べ、事実確認をすることが重要だ。幸せのために、勇気をもって挑戦してほしい。人の意見を聞いたり、自分の考えを述べたりすることを恐れないでほしい。

最後に、スウェーデンや欧州の若者にも伝えたいが、日本が何を成し遂げてきたかに注目してほしい。なぜなら、賞賛に値することがたくさんあるからだ。コロナ後にスウェーデン人が行きたい国の1位が日本だ。安全、礼儀正しさ、敬意を持って接することなど、世界の多くが失ってしまったことを日本の大事な要素として残してほしい。

赤阪 多様性がキーワードになっている現在、人と違うことの魅力を理解し、異なる人種や考え方を尊重することなど、日本人は北欧諸国から学ぶことが大いにある。

ヘーグベリ これこそが民主主義そのものだ。日本におけるスウェーデンのイメージは、ばら色過ぎることがよくあるが、私がスウェーデンを高く評価しているのは、タブーがないこと。目の前に置かれた議題について、長期的な進歩と成功を目指して、新たな発想で問題解決する。これが前へ進む道なのだ。

(原文英語。インタビューは2024年4月4日、東京・虎ノ門で行った。写真撮影:ニッポンドットコム)

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