万国郵便連合(UPU)事務局長に就任する目時政彦氏:歴史ある世界の社会インフラ・郵便を守る

政治・外交

国際郵便サービスのルールを定めて円滑に維持し、郵便業務の国際協力を促進する万国郵便連合(UPU、本部:スイス・ベルン)の事務局長に、日本郵便の目時政彦氏(62)が近く就任する。国連関連機関での日本人トップは、2009年から19年まで国際原子力機関(IAEA)の事務局長を務めた天野之弥(ゆきや)氏以来だ。

目時 政彦 METOKI Masahiko

日本郵便常務執行役員。1958年生まれ。東京大学文学部卒業後、1983年4月に郵政省入省。貯金局国際業務室長、内閣官房郵政民営化推進室参事官。日本郵便国際事業部長、同執行役員などを歴任し、2021年から現職。12年から万国郵便連合(UPU)郵便業務理事会(POC)議長を2期務めた。22年1月、UPU事務局長に就任予定。

中立・公正。透明性のある組織運営を

“世界のどの国からどこにでも、定められた金額の切手を貼れば、国内と同じように郵便物を送ることができる”――。各国の公的な郵便機関が協力し、このような国際郵便サービスの維持・発展を目的としたUPU。1874年の設立から約150年の歴史を誇り、現在192カ国が加盟する。

コートジボワールで8月に開かれた4年に一度の「大会議」(最高議決機関)で、102カ国の支持を得て次期事務局長に決まった。アジア地域からの選出は初めてで、任期は2022年1月から4年間。「広範な国々の支持を得て、緊張感と責任感を感じている」。また、「日本人がトップであることで、中立・公正に透明性を持って組織が運営されていると評価されるように仕事をしていきたい」と抱負を語る。

“新ビジネスの機会を追求”

各国の郵便機関は近年、インターネットの普及により手紙・はがきなどが大きく減少。新たな経営モデルの構築に迫られている。一方で、e-コマースの拡大により小口小包の需要は増大。途上国ではこの変化への対応が追い付かず、民間のサービスに競い負ける例も目立つ。国際郵便事業では特に、航空便が減少して新型コロナ感染拡大の影響が出ている。

こんな状況の中、目時氏が事務局長選挙で掲げた公約の一つが“新ビジネスの機会を追求する”ことだ。「UPUの最大の目的は、(郵便という)世界中の単一のネットワークを守るということ。その手段として、収益の得られる部分に手を付けていく必要がある」

具体的には、UPU本部の中にシンクタンク機能を持つ新たな部署をつくり、e-コマースへの対応、業務のデジタル化など新技術、郵便局ネットワークの活用などについて研究し、加盟国の郵便事業改革を支援する。「新たな分野に投資するのは各国の判断だが、パイロットプロジェクトとしてお手伝いするとか、そういうやり方はあると思う」と意欲を見せる。

目時政彦氏(日本郵便提供)
目時政彦氏(日本郵便提供)

ノートPCをEMSで送れるよう尽力

目時氏は1983年に郵政省に入省。在タイ大使館での勤務経験があるほか、郵政省、日本郵便でも国際事業のポストに多く就いている。UPUでは2012年から2期にわたり、40の理事国で構成する「郵便業務理事会(POC)」の議長を務めている。POCは郵便業務、郵便金融業務などに関わる諸問題を共同して研究するための常設機関。その議長は世界の郵便事業体が抱える課題の解決に取り組むまとめ役だ。

これまでの自身の仕事で思い出深いものの一つとして、「日本としてUPUに働き掛け、ノートパソコンやビデオ機器を国際スピード郵便(EMS)で送れるように制度改正した」ことを挙げる。09年当時、ノートパソコンはリチウム電池の規制で、EMSの対象外。不便だし、公平性の観点からぜひ送れるようにしたいと考えて、ルールの改正を発議した。3分の2の賛成が必要である上、郵便投票では投票国が少ないのではとUPUの事務局は懸念。このため、実現に向けては「選挙活動のような積極的な働き掛けもした」という。

趣味は読書、ネットサーフィン、食べ歩き。このほか「周りからは、アニメをよく見ていると言われる」という。好きな作品は『涼宮ハルヒの憂鬱』。

編集部注:目時氏への取材は2021年9月8日、他のメディアと共同でリモート形式で行った。

バナー写真:コートジボワール・アビジャンで行われた万国郵便連合(UPU)の会議で、エジプトポストのファルーク総裁(左)にあいさつする目時政彦氏=2021年8月(日本郵便提供)

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