命をいただく、命と向き合う――狩り女子・Nozomiさん

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高橋 郁文 (ニッポンドットコム) 【Profile】

東京から茨城県に移住した2018年に「わな猟」の免許を取り、狩猟に関する情報をコンテンツ化したYouTubeチャンネルで注目されるNozomiさん。ほんの数年前までハイヒールで営業先回りをこなし、コンビニに依存して生活する、どこにでもいる東京の会社員だった。ゲームのように営業成績の数字を追う日々から、動物の命と向き合う生活へと人生を一変させた物語をひもといていく。

Nozomi(のぞみ) NOZOMI

明治大学卒業後、東京にて営業職に従事。2018年、祖父の死をきっかけに10年以上住んだ東京を離れ茨城県に移住。農家とヨガ講師に転身。畑に出没するイノシシに悩まされ狩猟免許取得。自身の成長記録と田舎暮らしの素晴らしさを同じ祖母の孫で仲間の「サイトウさん」、「アニィ」と共にYouTube『Nozomi’s狩チャンネル』で世界に向けて発信中。2020年よりワークマン公式アンバサダーに就任。アウトドア同好会「ランドネたのしみ隊」1期生。
https://www.nonchannozomi.com/

「いだだきます」は「命をいただく」ことへの感謝の気持ちを表す言葉だと、日本人なら一度は聞いたことがあるだろう。しかし、生産地から遠く離れた都会で暮らし、スーパーできれいにパックされて並んでいる肉や野菜を見慣れていると、「命をいただく」感覚は希薄だ。

Nozomiさんは都会での会社員生活を捨て、3年前に茨城県の筑波山にほど近い地に移住、命に向き合う毎日を送っている。

おじいちゃんの畑を守りたい

茨城県への移住を決めたのは、祖父のお葬式の日だった。

大学卒業後は東京で就職。営業担当として、ピンヒールをはいてコツコツとビル街を歩き回っていた。仕事は嫌いではなかった。目標を立て、戦略を練ってひとつずつ関門を突破していくのは、ゲームでステージを上げていくような面白さがあった。早朝に家を出て終電近くまで残業して、頼まれれば、休日出勤も断らない。「売り上げ」を立てることに全精力を注いだ。頑張れば頑張るほど給料が増えるのも気分がよかった。でも、振り返れば、単なる仕事中毒だったのかもしれない。

コンビニとカップ麺ばかりの不規則な食事がたたって学生時代よりも10キロ近く太り、精神的に不安定になることもあった。そんなNozomiさんを心配して、茨城で農業をしている祖父母が送ってくれる野菜を食べると、「生きている」ことを実感した。おじいちゃんの野菜は、体の中に自然とエネルギーが注入してくれる―そんな感覚だった。毎日、こんなおいしい野菜を食べて暮らせたらどんなに幸せだろう。

だから、葬式の後、祖母が「一人では、畑も直売所も続けていけない」と言うのを聞いて、居てもたってもいられなくなった。孫たちで話し合い、しっかり準備をして数年後にみんなでおじいちゃんの畑を引き継いで農業をしようと約束したのだ。

体調を崩したことがきっかけで始めたヨガに興味を持ち、必死になってインストラクターの資格を取った。武者修行のつもりで都内のヨガスタジオでいくつものレッスンを担当し、ヨガ教室の運営と農業との2本立てで暮らしていけると見極めをつけると、学生時代から約10年間暮らした東京を離れ、茨城に移住した。

もちろん、不安がなかったわけではない。東京から突然やってきた「よそ者」が、果たして、地方の小さなコミュニティーで受け入れてもらえるのか。高齢化が進む地域で、年上の人に囲まれて、うまく人付き合いしていけるだろうか。

しかし、そんな心配は杞憂(きゆう)だった。

「畑仕事をしていると、近所の人が、『何やってんでい?』と気軽に話しかけてくるんです。うちの畑ではミズナは作っていないと分かると、自分のところで多くできたからと持ってきてくれる。それが、ごく当たり前のことなんですよね」

東京のマンション暮らしでは、軽く会釈してすれ違う程度で、いわゆる “ご近所付き合い”とは無縁だった。それどころか、無関心・無干渉がよしとされていた。田舎暮らしは180度逆だ。でも、それは、干渉されるというよりも、誰かが自分のことを見守り、心配してくれているという心地よさだった。

農業に携わるようになって、生産者への感謝が生まれ、安心安全な作物を作りたいと思うようになったという。

「東京のスーパーでキレイに並んでいる野菜を見ても、農薬のことなんて考えたこともなかった。でも、農業地帯に住んでいると、農薬を散布する場面に出くわすことも珍しくはない。自分自身が生産者の側になって、少しでも体にいいものを作って、消費者にお届けしたいと強く思うようになりました」

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高橋 郁文 (ニッポンドットコム)TAKAHASHI Ikutomo経歴・執筆一覧を見る

ニッポンドットコム翻訳編集者。大学院でバイリンガリズムを研究後、大手メーカー、出版社などを経て、2011年より現職。台北生まれ台北育ちの台北っ子。

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