日本語をマンガで学ぶ:『日本人の知らない日本語』原作者・海野凪子さんに聞く
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日本語教師海野凪子さんが友人の蛇蔵さんと、教室での経験をマンガにしたところ、たちまちベストセラーになった。『日本人の知らない日本語』は、読んで字のごとく、日本人にとっても日本語の再発見が期待できる一冊だ。一方、熱心な多国籍の学生をキャストにした、海野先生と学生たちのコミカルな誤解に満ちた会話や、異文化間のやり取りを描いたマンガでもある。
『日本人の知らない日本語』は、テレビドラマで取り上げられただけでなく、1~4巻とワークブック1冊の売り上げは、併せて200万部を越す勢い。敬語、助数詞、ひらがなやカタカナの歴史などが網羅されている。
学生たちから投げかけられる矢継ぎ早の質問や、日本と母国との言語や文化の違いを鋭く突いてくる質問に、海野先生もタジタジだ。もとはといえば、日本人読者向けに描かれたものだが、マンガ形式なので、外国人の学生たちも十分楽しめる。
標準語なら、まずまず大丈夫
海野さんは、もともと大阪の高校で日本人に国語を教えていた。しかし、日本語に興味を持っている学生を教えるほうが面白いと思い、外国人学生に日本語を教えるようになった。とはいっても、日本語学校に来る生徒みんなが、必ずしも日本語を勉強したくて学校に来るとは限らず、企業や親に無理やり来させられている生徒も沢山いた。それでも、海野さんはすぐに、いろいろな国の人と多言語で会話が飛び出す初級クラスの雰囲気を楽しむようになった。
マンガで繰り返し出てくるテーマの一つは、教科書に出てくる格式ばった表現と、学生たちが日常耳にする会話や一風変わった言い回しとのギャップだ。初級クラスの生徒の中には、普段大阪で見聞きする関西弁を教えてほしい、と頼みに来る学生がいると海野さんは言う。「私は、関西弁が好きだからいいけど、世の中には、関西弁が嫌いな日本人もいるんですよ」と伝えた。できたらフラットで、誰でも受け入れられるような言葉を使っておいた方が無難ではないかと提案している。
一方、学生にとっては、教科書だけでなく、日本の現実もわかっていることが大事なのは言うまでもない。海野さんは、会話を厳しい決まりごとでがんじがらめにしようとは思っていない。「たまにはそういう、いわゆる空気を読んで(笑)、ちょっと関西弁を使ってもいいかなっていうときには、親しみが増す場合もあります。その辺はうまくコミュニケーションをとってほしいです」という。「でも、それがすぐにできちゃう人と、なかなかできない人といると思うので、無理はしないようにして欲しいと思います」
練習、練習、また練習
『日本人の知らない日本語』では、映画、アニメ、マンガなどを含むポップカルチャーからも多くの言葉を取り上げている。空気を読んで、分かっていて使うならいいという。「おそらく、どこの国でも同じじゃないですか?例えば『スター・ウォーズ』を見ていて『スター・ウォーズ』のせりふをそのまま使う時って、ちょうどいいときと、えっ、今?っていうときとあるでしょ(笑)」
さらに、初級の学生には、習った言葉はすぐに使うことを勧めている。「やっぱり口の慣れが必要だと思うんです。外国語って発音し慣れないでしょ。自分の今までの言葉の中にない発音が多いので、まず、そこを訓練しないといけないと思うんです」。また、新しい言葉は、手で書くことが大切だと言う。「見ているだけではなく、きちんと手で書くようにすると覚えられます」
だからといって、長時間猛勉強しなくてはいけないというわけではない。「声に出して読むのも書くのも、5分か10分ぐらいでいい。でも、毎日続けることが大事」。しかし、書き順については、海野さんは特に厳しくはないようだ。「私、学生たちに時々『先生、書き順が違っています~』っていわれるんです(笑)。個人的には書き順はもう別にいいんじゃないかなって、気にしない。でも、書き順がきちんとしている漢字は、出来上がりが美しいっていう人もいます」
新種の「書き言葉」
日本語教師という職業柄、海野さんは、言語の変化により敏感だ。オンライン上での新語の出現の早さには驚かされている。「ツイッターの中だけで使う書き言葉が、たくさんあるけれども、実際の会話ではあんまり使われないのがすごく不思議だなあと思っています」。例えば、「風呂に入りにいく」と言う代わりに「風呂る」。名詞の「風呂」の後に、動詞の「る」をつけたわけだ。ツイートで「風呂ってきます」は、「風呂に入ってきます」という意味だ。
「書き言葉」は、普通かたく、形式的なイメージなので、会話ではあまり使わない。日常では『風呂る』は、まったくといっていいほど聞かない『書き言葉』だ。海野さんは、「『風呂る』はどう考えてもかたい言葉じゃない。それでも、会話には使わないのですよ。それはなぜかなぁって思うのです」という。
「大和言葉」への愛着
『日本人の知らない日本語』シリーズの後、海野さんは、漫画家のゆづか正成さんと『「国際人」はじめました』を執筆した。この本は、日本人がさらに言葉の壁を乗り越えて、もっと気楽に外国人と付き合えるように、との思いで書かれたもの。また、前回同様、マンガに短いエッセーを加えて、習慣や言葉、他のトピックに関する海野さんの豆知識が散りばめられている。
2016年発刊の『大和言葉つかい方図鑑』では、海野さんは、昨今の新語ブームの中でも違和感のない、古くからの言葉を紹介している。昔からの日本古来の言葉―大和言葉(中国大陸からの大量の外来語到来によって日本語が変化する以前の言葉)―の発掘だ。海野さんは、日常では使われなくなってしまっている多くの美しい言葉の数々に光をあて、日々の暮らしの中でどうやって使うかを具体的に示している。
その一つに「気薬(きぐすり)」という言葉がある。海野さんは、気薬とは、“感情”、もしくは“気持ち”への薬のようなものと書いている。「友達が少し落ち込んでいたり、寂しい思いをしたりしているときに、『気薬』は、ちょっと励ましてあげるようなもの。例えば、『元気がない友達へ、気薬にと思って、面白い漫画を何冊か持って行きました』のような使い方をする」
海野さんの日本語への興味は、とどまるところをしらない。日本語は、少しハードルが高い言葉だと思いませんか?と彼女に聞いてみた。「いいえ、そんなことはありません。日本人は、みんな日本語って難しいでしょう?って言うんですけど、そんなに難しくないです、実は。確かに、ある側面、難しくみえるところもあるかもしれませんが、難しくないところの方が多いと思います」。日本語学習者にとっては、励まされる言葉だ。
(原文英語、取材・文=リチャード・メドハースト[ニッポンドットコム編集部]、バナー写真と本文中のマンガ:『日本人の知らない日本語』より©KADOKAWA)