サッカーも経済も2014年はブラジルイヤー
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Jリーグに大きな役割果たしたブラジル選手
——日本とブラジルの最近の関係では、サッカーのJリーグの発展に果たしたブラジルの役割は非常に大きいですね。2014年6月にはブラジルでワールドカップが開催されます。
「日伯関係では、まずサッカーについて触れないわけにはいきません。70~80年代にかけて、多くのブラジル人選手が日本に来ました。ネルソン吉村、ジョージ小林、セルジオ越後などです。Jリーグでは、ジーコ、ジョルジーニョ、レオナルド、ドゥンガなど、ワールド・クラスの選手が多く日本にやって来ました。これらの選手は技術のみならずプロとしての心構え、精神性を日本に植え付けてくれました」
「また、草の根レベルでは、セルジオ越後が30年にわたり開いているサッカー教室は大きな役割を果たしました。教え子は累計60万人、子供達はサッカーの楽しさを学びました。また、トゥーリオ、ラモス、ロペスなど、日本国籍を取って日本代表として、日本サッカーを支えてくれた選手がいます。彼らにも感謝すべきです。現在流行しているフットサルも、ブラジル関係者のおかげです」
「6月のワールドカップでの最高の恩返しは、日本がいい成績を収めることだと思います。また、ブラジルの人達にサッカーに関して日本からの感謝の気持ちを伝える機会を是非持てたらと考えています」
英国に並ぶブラジルのGDP
——経済関係ですが、治安悪化などからブラジルへの投資が激減した時期もありました。最近の状況、投資を中心とした人・モノの流れはいかがですか。
「日伯経済関係は、50~70年代にかけて象徴的な国家プロジェクトがいくつかありました。ウジミナス製鉄所、アルミニウム精錬のアルブラス、それからセラード農業開発です。ブラジルは今、農業輸出ではアメリカに並ぶ輸出大国ですが、これは日本が協力してセラードという広大な地域を耕作可能な地域にしたという歴史があります」
「ただ残念なことに、80年代にブラジル債務危機で、多くの日本企業が撤退しました。ブラジルは90年代に立ち直りましたが、日本ではバブルが崩壊。このため、80~90年代は、日伯経済関係でいうと『失われた20年』になってしまいました」
「しかし、21世紀になりブラジルがBRICSの一員として大きく注目され、多くの日本企業が具体的な投資計画を持ち、人員を増強する企業も多くなっています。背景には、ブラジルの持つポテンシャルがあります。世界5位の人口と国土、GDPは世界7位ぐらいで英国と競うほどです。消費は、中間層がこの10年で4000万人ほど増えています。車の販売台数は世界第4位で400万台、家電も世界で販売数4位か5位ですね」
「資源については唯一石油が弱かった。しかし、今ではリオの沖に油田が発掘されて輸出国。従来の天然資源だけでなく、消費市場としても魅力のある国になり、日本企業もブラジルの重要性を認めて、重点地域として乗り出そうとしています」
日本企業進出、まだ600社弱
——今どれくらいの日本企業が進出しているのですか。
「約580社(注:平成25年度海外在留邦人数統計)弱で、まだまだ少ないですね。タイだと1500ぐらい、インドで1000ちょっとぐらい。ブラジル進出は伸びる余地があります」
「ブラジルのGDPは1人当たり12000ドル超。技術面では、造船分野、特に海洋油田開発のための活性化が必要ですね。日本企業との協力が重要です。鉄道や港湾といったインフラ整備も重要です」
——ICT関係、通信インフラ関係はどうですか。
「ブラジルの地上デジタル放送が日本方式になったのは大きいですね。防災やスマートシティ化など、共通のインフラを使って進めていければいいですね」
「私にとって、このタイミングでのブラジル赴任はラッキーです。ただ、理想は理想であって、企業の方々と話していると問題も多く感じます。一つには、やはり治安です。ワールドカップでは安全を強化してほしいですね。それからインフラ、そして税制が非常に複雑。『ブラジルコスト』という言葉があるほどで、ブラジルの税制は非常に複雑です。ブラジルのポテンシャルを生かすという意味で、いろいろな構造改革がもっと必要ではないかと思います」
克服課題は、「ブラジル・コスト」と遠い距離
——通貨も脆弱だといわれていますね。日本との距離も遠いですね。
「ブラジルへの直行便はありません。ブラジルまで30時間かかります。JALやANAには、直行便を作るようお願いしています」
「やはりブラジルの共通の話題は、「ブラジル・コスト」と遠いことですね。大使としてできることは限られているかもしれませんが、日本から行く人々が安心して仕事がしてもらえるよう協力していきたい。距離的な遠さだけでなく、心理的な距離感を少しでも縮めていけるよう、広報に努めたいですね」
「ブラジルはまさしく今、飛躍のチャンスを迎えています。ワールドカップにオリンピック。私は北京でオリンピックを経験していますが、あれだけのイベントを成功させた国のエネルギーはすごい。ブラジルがこうしたイベントを2つ成功させた暁には、必ずや経済的発展や団結心が育まれるでしょう。ブラジルはイベントを成功させることによって間違いなく飛躍します。ワールドカップについては、ぜひ成功に向けて一致団結して協力していただければと思います。日本はできるだけの協力をします」
——日伯修好通商航海条約から来年で120年。日系ブラジル人は約160万人に上りますが、彼らも5~6世となり、両国関係の希薄化が言われ始めています。
「私のブラジルでの最も重要な仕事は日系社会に関するものです。ブラジルは非常に親日的です。背景には日系ブラジル人が勤勉で正直で、ブラジル国内で信頼を勝ち得ていることがあります。そうした積み重ねは、日本・ブラジルにとって大きな財産です」
「同時に、日系人の方にとって日本は誇れるものでなければなりません。その観点からいうと、安倍晋三首相の『アベノミクス』により日本が再興し、ブラジルの日系社会が日本をもっと誇りに思い元気になってほしいですね」
「安倍首相と菅官房長官にご挨拶した際、日本再興戦略の中でも、企業との連携を強化しインフラ輸出に力を入れて欲しいという話がありました。ブラジル経済の弱点の一つは、港湾・道路などのインフラ不足です。日本が協力できる部分がたくさんあります。ブラジル経済にとっても、日本企業にとっても重要です。先頭に立って日伯両国にメリットがある協力をしていきたいと考えています」
日ブラジル外交関係樹立120周年、姉妹都市は57の多さ
——サンパウロの日系人社会の活性化も重要な課題ですね。
「日本とブラジルには姉妹都市が57あるんですよ。サンパウロは最大ですが、サンパウロ州は日本の3分の2ほどの大きさもあります。日本は2年前から日本の中小企業の海外展開を支援しています。日本の中小企業は素晴らしい技術を持っており、日系企業とブラジルを結び付けることで新たなビジネスチャンスが生まれたらいいと思います」
「一方で、日系5世、6世の世代は、日本語を話せない人も多くいます。日本語教育も含めて、日本文化を継承してもらえるように努力を続けていかなければなりません。そのため、若い日系人たちへの日本紹介を強化することも必要です」
——日本の対外発信の流れでいうと、中南米に対するアプローチは今までかなり弱かったですね。
「オリンピックやワールドカップを通して、ブラジルへの世界の注目は間違いなく増えます。日本人がブラジルに親近感を覚える助けになることでしょう。報道の貢献も期待しています」
「赴任後は、日本の試合が行われるすべての都市に行き、知事や市長、日系団体の代表らと会って確実に両国の結び付きを強めます」
拡充すべき日本語教育
——日本では、愛知県や静岡県にブラジル人が多く在住し、ブラジリアンタウンができています。定住問題にはなかなか難しいものがあるようですが…。
「先日、群馬県太田市へ行ってきました。群馬ゆかりの福田康夫元首相からは、日本におけるブラジルについて勉強するように言われました。現場の人と話をしていて感じるのは、日本語教育問題で、以前は日系人の子供さんたちへの政府や地方公共団体からのサポートが十分でなかったが、現在は大きく改善されています。日系人は現在約19万人、最盛期は30万人でしたが、2008年のリーマンショック以降10万人以上が帰国しました。しかし、日本在住の日系人、特にその子供たちはバイリンガルとして日本・ブラジルの両国を深く理解できる、将来に向けての財産になる可能性があります。彼らを大切にしていかなければなりません」
——中南米との文化的つながりの弱さも課題ですね。
「文化は相当違います。中南米はヨーロッパ的なもので、アジア的なものとはずいぶん違います。ただ、我々は、日系社会という大きな財産を持っており、中南米諸国は総じて親日的です。ブラジルに日本のよい面を積極的に紹介する事業が必要です。特に和食やアニメも人気ですね。また、ブラジルにはコスプレのファンが20万人いるそうで、世界コスプレ大会の優勝者もいます。稲盛和夫氏の盛和塾が海外展開した第一号はブラジルです。こうしたつながりをフォローしていきたいですね」
「日ブラジル外交関係樹立120周年では、日本を総合的に紹介できるイベントを継続して一年間行っていきたいと考えています」
女性の活躍支援に期待
——ブラジルは女性のルセーフ大統領です。2013年の米国経済誌フォーブスでは「世界で最もパワフルな女性第2位」に選ばれました。中南米では女性の活躍が目立ちますね。
「ブラジルで活躍されている女性の方を探そうと思っています。特に日本人女性で活躍されている方にスポットライトを集めることによって、日本の人々に『頑張って』というメッセージを発していければと思います」
——安倍首相のブラジル訪問もありますか。
「十分あり得ると思います。今後も両国が緊密に連携を取り合って、互いに信頼関係を築いていきたいですね」
(インタビュー日=2014年3月25日、聞き手・構成=原野城治・一般財団法人ニッポンドットコム代表理事、写真撮影=コデラケイ)
【ブラジルの基礎データ】
元首 ジルマ・ヴァナ・ルセーフ大統領
首都 ブラジリア
最大都市 サンパウロ
公用語 ポルトガル語 (ブラジルポルトガル語)
国土 851.2万平方キロメートル。うち93%は熱帯地域。
人口 約1.98億人(白人系48%、混血43%、その他)で世界第5位
GDP 約2兆3960億ドル
通貨 レアル(1レアル=44円)*2014年3月6日現在
※外務省提供のデータを元にnippon.com編集部作成
ブラジルの主要産業
生産量が世界上位の主要品目:
1位:砂糖、コーヒー、オレンジジュース
2位:エタノール、大豆、牛肉、鶏肉、タバコ
3位:トウモロコシ、豚肉
鉱物・エネルギー資源:
鉄鉱石(生産量第3位)
ボーキサイト(生産量第4位)、マンガン(同第5位)
レアメタル:ニオブ(埋蔵・生産量第1位)、タンタル(埋蔵第1位・生産量第2位)
ウラン(確認埋蔵量第6位)
エタノール(輸出量第1位、生産量第2位)、大規模な深海油田の発見
自動車:
生産台数:2012年 ⇒ 334万台
販売台数:2012年 ⇒ 380万台
※外務省提供のデータを元にnippon.com編集部作成
日伯経済交流
1950年代 | 第一次ブーム | トヨタ(最初の海外工場)、造船(イシブラス)、製鉄(ウジミナス)、繊維、銀行など。 |
---|---|---|
1960~70年代 | 第二次ブーム | セラード農業開発、カラジャス鉄鉱山開発、ツバロン製鉄所建設、アマゾン・アルミ工場、セニブラ紙バルプ開発。 70年代末まで、日本企業が500社以上ブラジルで活躍。 |
1980年代 | 中南米の対外債務危機 | 日伯関係「失われた20年」 |
1990年代半ば | 第三次ブーム(日本のバブル後の不況) | |
2000年代 | BRICSブーム | 日本企業が再び進出。 食糧・資源高騰。 |
※外務省提供のデータを元にnippon.com編集部作成
ブラジルへの日本企業進出数
日本との関係
日伯交流
在日ブラジル人:185,644人(※1)。
ブラジルの在留邦人:55,927人(※2)。
2015年は日本ブラジル外交関係樹立120周年。
日系社会
1908年、日本人の移民船「笠戸丸」がサントス港に到着。
戦前・戦後合わせ、移住した日本人が約25万人。
現在、世界最大の日系人社会:約150万人。
(※1) http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000017472.pdf
(※2) http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001116310
※外務省提供のデータを元にnippon.com編集部作成
ブラジルにおける女性の活躍
労働人口の男女間比率:
ブラジル 男性 56.3% 女性 43.7%
人口に占める男女別労働人口の割合、(15歳以上、2012年)(※1):
ブラジル 男性 80.9% 女性 59.5%
日本 男性 70.4% 女性 48.1%
管理職女性比率:
ブラジル 36.0%
日本 11.9%