世界が注目するムスリム同胞団
政治・外交- English
- 日本語
- 简体字
- 繁體字
- Français
- Español
- العربية
- Русский
エジプトからムスリム同胞団の幹部である、ファリード・イスマーイール博士が、2013年4月、笹川平和財団が主催した「中東イスラム政治変動講演会」へ出席するため来日した。
ムスリム同胞団は、西洋からの独立とイスラム文化の復興を掲げたハサン・アルバンナー(Hassan al Banna, 1906年~1949年)によって1928年にエジプトで結成された。1940年代後半には、同国最大のイスラム主義運動に成長し、ヨルダンやパレスティナなど周辺諸地域へ進出した。現在は、アラブ諸国を中心にイスラム圏に運動を拡大、各地に支部や関係組織を展開している。「アラブの春」以後のエジプトの新体制に大きな影響力を及ぼしている。
しかし、2012年末以降、反対デモが頻発しており、エジプトの政情は安定とは程遠い。現地エジプトでもインタビューが難しいという、ムスリム同胞団幹部のファリード博士に、エジプトの現状や日本とエジプトの関係について話を聞いた。
エジプトの現状を直接伝えたい
——来日の目的は何でしょうか。日本の政府関係者と会われましたか。
「革命から2年経ちましたが、日本国民にエジプトの現状を伝えることが第1の目的です。同時に日本とエジプトの関係について状況を把握するとともに、多くの日本人観光客が訪れるエジプト観光のこれからなどについて話し合いました。
今回は笹川平和財団の招待による来日で、日本政府の方々との話し合いのチャンスも与えられました。厚生労働相、外務省関係者、国土交通審議官などと会談しました。また、日本のメディアにエジプトの現状を説明し、誤解されているイメージを正すことも非常に大切な仕事でした。旧体制派や腐敗した前政権のロビイストが管理している民間テレビによって、エジプト国内は不安定で、暴力が続いているといった非現実的なことばかりが流されています。今回、様々な日本の報道機関にエジプトの本当の現状を伝えることができたと思います」
——具体的には何を訴えたのですか。
「まず、革命後のエジプトの現状について、次に、日本・エジプト両国間の将来の協力についてです。エジプトはアラブ世界、イスラム世界、中東の重要な国であり、日本もエジプトにとっては非常に大切な国です。ですから、エジプトは日本と強力な戦略的な関係を構築したい。一方、日本にとってエジプトはアラブ世界、イスラム世界、さらにはアフリカへの重要なゲートとみなされています。今の段階で日本がエジプトに対してどのように支援できるかについても話しました。投資、経済的支援だけでなく、医療なども日本からサポートして欲しいと思います。
第3は、日本の鉄道の経験から学び、特に新幹線を活用したいと考えています。第4が、日本の国民健康保険システムです。エジプトでは新しい国民健康保険システムを保健省で検討中で、国会の上院保険委員会でも議論が続いています。最後はエジプトへの観光のことです」
無法状態と反革命
——エジプトはまだ、混乱が続いているようですが、その原因は何でしょうか。
「世界史上でもそうですが、革命後、不安定な状況や無法状態になるのは当たり前です。例えば、フランス革命でも落ち着くまで長い時間がかかりました。エジプトは今まで軍事政権が約60年間も続いてきました。ムバラク政権の崩壊後、軍事最高評議会が大統領選挙まで“革命”を守ってきました。エジプト革命は様々な妨害や陰謀に耐え、滅びゆく旧体制の支持者、腐敗したロビーの連中、妨害する国などに対して戦い、国民の意思を解放する新体制を作ったのです。利益を害された連中は暴力、政治資金、宣伝、裁判などを使って、エジプトが不安定であるとアピールし、革命が混乱状態にあることを浮き彫りにしようとしてきました。
しかし、エジプト国民の多くの願いを実現し、革命の目標を達成したのです。国民の自由意志によって、初めて文民のムハンマド・モルシ大統領が選ばれ、就任したわけです。また、70%以上の投票率で革命後の最初の国会議員を選出。憲法も国民投票で65%という圧倒的な賛成で採択、制定された。これは革命目標の一部で、現在は政権の移行過程から民主的構築の仕上げという段階です。現在、エジプトを襲っている偽りの宣伝工作と経済的包囲も失敗に終わるでしょう。われわれは腐敗と戦い、政治的、経済的、社会的に一歩ずつ前進し、透明性の高い政治の実現を進めています」
平等、自由、権利を保障する新憲法
——日本でも、憲法改正問題が話題になり始めていますが、エジプトでも、憲法問題が重要な争点になっていますね。従来よりもイスラム色が強くなるのですか。
「手元にある新憲法は、国会議員から選出されたメンバーが構成する制憲協議会で作成され、国民投票で採択されたものです。しかし、旧体制派や腐敗ロビー派は、テレビで激しく批判し、65時間にもわたり抗議しました。
もちろん、憲法には追加したいこともありますが、制定された憲法には、世界の憲法にないような『権利と自由』について約20カ所もの条文が入っています。例えば、第3条では『エジプト国民におけるキリスト教徒とユダヤ教徒については、彼らの法の諸原則が、彼らの身分法、宗教的な事柄、精神的指導者の選出を規定する法の制定における主要な法源となる』と規定。また、第43条では、『信教の自由は、保障される。国家は、宗教的儀礼の実践と、啓示宗教のための礼拝施設の設置の自由を保障する。これらは法律の規定に従う』と明記しています。つまり、キリスト教徒を含めたエジプト全国民の平等、自由、権利が憲法によって守られているということです。この憲法は革命の多くの願望を実現するものです。
イスラムは1500年前から、キリスト教徒を守っています。彼らへの暴力などは犯罪であり、キリスト教徒に対する“思いやり”についてもイスラム教徒の聖典であるコーランに書かれています。その考えは、ムスリム同胞団と自由公正党も同じであり、自由公正党の元副党首はコプト教徒でした」
エジプト経済と米国との関係
——デモ隊の要求は、経済的なものと政治的なもののどちらが強いのですか。
「動機は経済的要因ではありません。エジプト革命以降、すべての給与が約200%増加。同様に社会保険も大統領の最初の指示で300%増加しました。この社会保険で恩恵を受ける家族は約100万人です。でも、一切問題がないとは言えません。ドルの減少で流動性不足が顕在化し、ガソリンや燃料などが不足している状態です」
——米国は、中東平和のために長い間、ムバラク政権を支援・援助してきました。モルシ政権は米国に対してどのように対処しようとしているのですか。
「これは重要な質問ですね。打倒された前政権が米国に支持されていたことは、誰でも知っています。前政権は、米国にとって戦略的な宝物でした。しかし、自由を求めてデモを起こした国民の圧力に応じ、米国は最終的に国民側に舵を切りました。それが、アラブの春でありエジプト革命です。今現在は、米国とも、全世界の他の国々ともいい関係です。革命後のエジプトは全世界へ開放されています。
モルシ大統領は海外を歴訪しましたが、その中のひとつはナイル川源流各国への訪問であり、エチオピアへは1994年以来の訪問でした。国連訪問の際には野田佳彦前首相など各国の首脳と会談しました。イランでは非同盟諸国の首脳会議に参加し、議長役をイラン大統領に引き継ぎました。また、イスラム世界の首脳会議[イスラム協力機構=OIC、56カ国とパレスチナ自治政府が加盟]の代表が参加して、エジプトで開催されました。アラブ湾岸諸国へも行きました。それが、革命後のエジプトの外交関係です」
エジプトの治安は98%確保
——エジプト内の混乱で日本人観光客が激減しましたね。日・エジプトの文化交流のこれからをどう見ていますか。
「日本はエジプトのみならず、世界中の国々にとって重要な国です。両国民の相互の愛情と尊重、さらには道徳も共通しています。エジプトは多くの日本人観光客の訪問に感謝しています。
メディアで言われているエジプトの騒乱や治安の乱れの話は間違っています。エジプトの観光地の治安は98%確保されています。次の国会議員選挙と新内閣発足後、エジプト全土の治安が完全に回復すると思います。治安の面で大きな改革を実感できるように、日本国民をエジプトへ招待しています。
文化交流に関しては、ブルジュ・アル・アラブにあるエジプト日本科学技術大学など、日本には感謝しています。一流大学のひとつであり、両国の関係向上の成果のひとつだと思います。また、エジプトは東京の2020年のオリンピック開催招致を支持しています。その他、巨大なプロジェクトも多数ありますし、日本からの投資をもっと受け入れたいと考えています。その実現へ向けて様々な条件整備が行われており、日本もその中で参加できると感じます。日本から見て、エジプトはアラブ、イスラム、アフリカ、中東諸国への入り口であると感じてもらいたいと願っています」
中国よりも日本の投資を期待
——中国は、近年、アフリカや中東地域で存在感を強めています。エジプト大統領は、最初の外国訪問地として中国に行かれたようですが、中国をどのように受け止められていますか。
「中国や欧米に比べて日本のいいところは無条件の経済協力と投資です。エジプトの政治や内政に介入しないことです。一般的に、エジプト国民、政府、自由公正党とムスリム同胞団は日本国民がとても好きです。これは真実で、お世辞ではありません。中国は4.8億ドルの投資をエジプトに提案しましたが、われわれとしては日本が投資することを期待していますし、日・エジプト間のあらゆる協力を望んでいます」
(2013年4月11日インタビュー。原文アラビア語)
聞き手=一般財団法人ニッポンドットコム代表理事・原野 城治(政治ジャーナリスト)
協力=公益財団法人 笹川平和財団