「国籍や人種、宗教さえも関係ない!」大相撲力士・大砂嵐金太郎

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「絶対に横綱になる! 最後まであきらめない」そんな信念を胸に、アフリカ・中東地域から初の大相撲力士となった大砂嵐。宗教による違いも乗り越え、慣れない異国の地で奮闘するエジプト人力士の素顔に迫った。

大砂嵐 金太郎 ‏ŌSUNAARASHI Kintar‏ō

大相撲力士。1992年エジプト・マンスーラ市に生まれる。14歳のときに相撲を始め、2008年エジプト相撲大会で優勝。エストニアで開催された世界ジュニア相撲選手権大会では個人で銅メダル、団体でも銀メダルを獲得。2011年大嶽部屋に所属し、2012年3月場所で初土俵を踏んだ。通算成績は、42勝7敗1休(2013年五月場所終了時点、2013年名古屋場所で十両昇進)。

“神事”を担う相撲人に育ってほしい——大嶽親方

遠く離れた異文化の地で頑張る大砂嵐をときに厳しく指導するのが大嶽部屋の大嶽親方(元十両・大竜)だ。イスラム社会からの力士受け入れに不安はなかったのだろうか。

「力士には、絶対に負けないという強いハートが必要」と話す大嶽親方。

「私自身、イスラムという宗教を否定するわけではありませんが、言葉や文化の違いはいろいろあるので、『大丈夫かな?』という部分は正直あります。ただやることは、日本人力士であろうが、外国人力士であろうが関係ない。同じなんです。稽古をして、番付を上げるというのが目標ですし、それを軸として、みんなやっています」

大嶽親方がとりわけ大砂嵐に厳しくなるのは、“礼儀”に関すること。日本で重視される礼儀をもっと学んでほしいと願っている。

世話人である友鵬さんに四股を指導してもらう大砂嵐。

「相撲は、ただ強ければいいという世界ではない。外国人であろうと『日本の文化をしっかり学んでいるし、礼儀も正しい』と思われないといけないし、そういうことで周りの人からも、『大砂嵐、頑張ってるね』と言われるようになるんだと思います。そういった謙虚な気持ちが大事。大砂嵐には礼に始まり、礼に終わるといった部分もしっかりと学んでほしいと思っています」

親方は、思い切りの良い豪快な相撲を取れる大砂嵐の才能を認めている。稽古に対する姿勢も評価している。将来、相撲界を背負ってたつ人材だからこそ厳しくなるのだ。

「中東やアフリカの方をはじめ、海外では『相撲=スポーツ』と見られていますが、相撲はスポーツでありながら“神事”なんです。

例えば相撲では本場所前に “土俵祭”を執り行い、神様に下りてきてもらいます。そして、神様の前で相撲を取る。だからこそ儀式があるんです。他の武道、例えば剣道、柔道にも“礼”というのはありますが、競技を始める前に儀式があるのは相撲だけ。先ほど言った礼儀、マナーなど、相撲のすべてが神事に関係しています。

スポーツなら強ければそれでいいし、強ければ認められる世界でしょうが、我々は神事という部分で、人としてどうあるべきか、相撲人としてどうあるべきか、というのを追求していかなければならないのです。大砂嵐をきっかけに興味を持ってくれた外国の方々には、彼の成長を通して、相撲のそうした魅力を見てほしいと思っています」

聞き手=原野 城治(一般財団法人ニッポンドットコム)
取材協力=大鵬道場 大嶽部屋、財団法人日本相撲協会

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