「政治は“誰がやるか”よりも“何をやるか”だ」衆議院議員・石破 茂

政治・外交

北朝鮮がミサイル発射実験を予告し、イランの核開発をめぐる情勢も緊迫化。中国は露骨に海洋進出の動きを見せている。政界きっての安全保障通、石破茂氏は日本をめぐる状況をどう読み解くのか。野党・自民党のキーマンが、これからの日本が進む道を示す。

石破 茂 ISHIBA Shigeru

衆議院議員。1957年鳥取県出身。79年慶大法学部卒業後、三井銀行入行。83年に退行し、86年、第38回総選挙で衆議院議員に初当選。以後連続当選8回。農林水産政務次官、防衛総括政務次官、防衛庁副長官、防衛庁長官、防衛大臣、農林水産大臣などを歴任。主な著書に『職業政治の復権―混迷からの脱出 それは無党派層がめざめるとき』(サンドケー出版局)『国防』(新潮文庫)など。

経済関係が緊密でも、戦争が起きることはある

——日中国交正常化から40年が経ちました。この40年をどのように評価されますか。また、これからの日中関係をどのように予想しますか。

「日本経済は中国なしでは成り立たないし、中国もまたそうです。そういう意味では40年間を肯定的に評価すべきだと思います。しかし、経済的に密接な関係があれば、未来永劫、戦(いくさ)が起こらないかと言えば、そうではありません。第一次世界大戦が起きたときに、ドイツの貿易相手国の圧倒的1位は英国だったそうです。その英国で19世紀中ごろに外相、首相として活躍したパーマストンの『どんな経済関係もナショナリズムの前には木っ端微塵に吹っ飛ぶだろう』という言葉を読んだことがあります。

中国の目的が『共産党“王朝”の維持』であれば、経済状況の変化によっては何が起きても不思議ではないということを“安全保障屋”としては考えておくべきだと思います。中国では経済がピークを迎える前に、一人っ子政策の影響により人口減少に転じる可能性があります。日本の経済発展がサステナブル(持続可能)であったのは分厚い中産階級が作られたからですが、中国では中産階級ができる前にピークアウトするかもしれません。中国で何かが起きたときに、地域の安定の基盤となるのはやはり日米同盟です。アジア諸国を安心させるためにも、中国に妙な野心を抱かせないためにも、この地域におけるバランスオブパワーを保つためにも、日米同盟が常に根本にあるということです。

先ほどの『対話と圧力』と同じで、『日米同盟』と100回唱えても1000回唱えても、唱えるだけでは同盟が強化されることはありません。やはり、集団的自衛権の行使を可能にすべきだと思います。鳩山由紀夫元首相が、普天間飛行場の移設に関して『国外、少なくとも県外』という発言をしたことで日米関係が重大な危機に直面したように、指導者の愚かな行いによって、一瞬のうちに強固な同盟関係もついえてしまうかもしれません。

対米重視かアジア重視かという二者択一はあり得ません。アジアの一員として力を持たない日本に同盟国の価値はないし、アジア重視の基盤として日米同盟があります。集団的自衛権行使を可能にして、現在米国に負わせている役割を日本がどれだけ分担できるか。常に手をつなぎ、肩を組んで歩くことだけが同盟ではありません。この地域、この部分は日本が責任を負うということがあってもいいでしょう」

なぜ消費税率を上げるのか

——日本の経済発展を支えた中産階級が没落する中で、これからの成長と財政の再建についてはどうお考えですか。

「私自身は消費税の果たす役割に肯定的な人間です。消費税という大変な徴税力を持った税金は、高齢化社会での福祉を実現する手段として編み出されたものだと思います。社会保障のレベルが上がるにしたがって消費税率を上げないと、ゆがみが生じるのは当たり前です。日本では消費税率を上げずに社会保障のレベルだけを上げたために、こういう借金状態になりました、ということです。

少子高齢化のピークは2060年です。山に例えれば、現在はまだ二合目、三合目というところ。本番はこれからです。あまり調子の良いことを言っていると、5%上げるくらいではどうにもならなくなります。もちろん、同時に経済全体のパイを大きくしていくことを考えなければなりません。

小沢一郎元代表とそのグループの方々が民主党の中で『景気が良くならなければ消費税は上げない』などと言っているようです。しかし、消費税率を一刻も早く上げなければ、次の世代へのツケが大変なことになる、という方が私には説得力を持って聞こえます。今のゆがんだ税制が経済の足を引っ張っている面も多分にあり、税制を改正する前に景気という議論は、どうも選挙のためというようにしか聞こえません。『国民の生活が第一』と言いながら、困っている人にも困っていない人にも同じようにばらまく子ども手当、高校無償化、高速道路無料化、農家戸別所得補償、というのと変わらない気がします」

政界再編の時期と目的

——膠着した永田町の状況を打破するためには大連立が良いのか、政界再編が必要なのか。これからの政治の流れを動かすキーマンの一人として見解を聞かせてください。

「政界再編は不可避だと思いますが、いつやるかが問題です。税と社会保障の一体改革を考えると分かりやすいですが、自民、民主のどちらが政権を取ったとしてもやらなければならないことは、今のうちにやっておいた方が良いと思います。民主党の足らざるところに自民党ならではの知恵を貸す。税と社会保障の一体改革を成し遂げるチャンスです。その後での解散総選挙でも良いと思います。

実現するには野田佳彦首相が解散を約束するということが不可欠です。彼は鳩山元首相のような嘘つきではないでしょう。税と社会保障の一体改革を成し遂げるために、決断してくれる人だと期待しています」

——その後に本格的な再編になるというわけですね。

「政治というものは誰がやるかより、何をやるかだ、と常に話してきました。25年間も国会議員をやっていると、自分よりも才能の豊かな人、決断力や構想力がある人にもたくさん出会いました。もっともふさわしい人がやるべきだと思います。ただ、一緒にやるのなら、何をやるかを共有できる人を推したいと思います。

では、お前は何をやりたいのだ、ということになれば、先ほどから申し上げているようなこの地域における秩序、安定を維持するために日本の仕組みを変えていくことです。集団的自衛権行使を可能として、安全保障に対して政治家が見識を持って国内を治めて、海外との議論を進める体制を作りたいと考えています。

大阪維新の会の橋下市長も注目されていますが、彼も非常に才能が豊かで、政治的な駆け引きも上手で、一目も二目もおいています。しかし、あやかり商法のようにすべて言うことを聞くというのではダメだし、逆に維新の会を敵視してすべて否定するというのもダメ。維新の会に限らず、政界再編は、国家観をどこまで共有できるか、というところから始めるべきだと考えています」

衆議院議員会館内の石破氏の事務所には、支持者から贈られたという飛行機、艦船などの模型や、大ファンだというキャンディーズのフィギュア等が飾られている。

聞き手=原野 城治(一般財団法人ニッポンドットコム代表理事)
撮影=大久保 惠造

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