
「政治は“誰がやるか”よりも“何をやるか”だ」衆議院議員・石破 茂
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北朝鮮は変わらない
——ミサイル発射実験を予告した北朝鮮の情勢についてどう見ていますか。
「北朝鮮という国は、やると言ったことは必ずやります。金正日から金正恩に指導者が代替わりしても方針はまったく変わらない。『29歳と若くて英明な指導者は、今までと違う路線を歩むのではないか』といった希望的な話をする人もいますが、あの体制で父親を否定することがあり得ようもなく、金正日路線を踏襲すると考えるのが常識的だと思います。
北朝鮮では、今年は金日成生誕100年、金正日生誕70年に加えて、国軍創建80年と言っています。そこに新しく金正恩が指導者の座に就いたわけですから、盛大に祝わなければなりません。瀬戸際外交もさらに洗練された形でやるでしょうし、国内においてはなぜこの“若者”でなければならないのかを納得させなければならない。
そのような北朝鮮に対して、『対話と圧力』とおまじないのように言っていても効果はありません。中国、ロシアまで含めるかはともかく、少なくとも日米韓の間で『圧力』の中身は何であるかを精査しなければなりません。圧力をかけるには、法律、協定、装備、運用というそれぞれの分野が整うことが必要で、何が足りないかを具体的に詰めて改善していかなければ、『圧力』と100回唱えても、1000回唱えてもダメ。どんなに勇ましいことを言っても北朝鮮への圧力にはならないと思っています。
今回、北朝鮮は “人工衛星”を打ち上げることで、米国まで届くミサイルを持つという目標に向かってステップを進めることになります。今後もステップを踏んでいく中で、いずれは核を搭載して米国に届く弾道弾を手に入れる日が来ます。その時までに問題を解決しておかなければ、今までとはまったく違う局面が現れます。そんなに時間の余裕はないでしょう」
ホルムズ海峡が封鎖されたら
——同様に核開発の問題で緊迫化しているイランについてはどう見ますか。
「忘れてはならないのは、ホルムズ海峡が日本の生命線であるということです。実際にイランがホルムズ海峡を封鎖したらどうするか。日本は国際社会と共同してその対策を考えておかなければならない。掃海艇派遣も現実的に考えておくべきだと思います。
湾岸戦争の際にも掃海艇を派遣し、『日本の掃海技術は世界一だ』とされていましたが、今回も実際に派遣されたら海上自衛隊はその能力を最大限に発揮し、航行の安全を確保するという任務を全うしなければなりません。
日本国憲法第9条では『武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する』としていますから、例えばホルムズ海峡付近で掃海訓練中にイランと米国との間に紛争が起きたら、いったん後方に下がらざるを得ません。しかし、紛争終結後や、あるいは敷設された機雷がどこのものか分からない場合には、憲法に抵触せずに掃海艇が活動できる余地があります。そこは外務省ともよく協議をしながら、日本の正当性を主張しつつ、憲法には抵触しないような活動を選択していかなければならないと思います」
集団的自衛権と日本の抑止力
——集団的自衛権の行使に関する解釈の変更がカギになるのでしょうか。
「私は、憲法自体を変えなくても、その解釈を変えれば集団的自衛権の行使は可能になる、という立場を取っています。解釈変更と言ってもただ宣言すればいいというわけではないので、議員立法で行使可能となる要件などを定めた安全保障基本法を立法すべきだと考えています。自民党内でも激論が交わされていますが、集団的自衛権を行使可能にしなければならないという点については、ほぼコンセンサスが取れていると思います。私も防衛庁副長官、防衛庁長官、防衛大臣のときに、国会などで質問されて『内閣の一員としては、集団的自衛権の行使は、憲法において認められる必要最小限度の自衛権を超えるものとして、認めることができないとの立場を堅持しております』と舌をかみそうなことを言っていました。与党でいるときに解釈を変えることは極めて難しいが、今、政権は民主党にあります。次の総選挙でわれわれは、『集団的自衛権の行使を可能にする』と訴えて政権を取ればいいのです。自民党内にも、憲法そのものを改正するまでダメだという意見もあります。しかし、憲法改正はそんなにすぐにできるものではありません。
抑止力には報復的抑止、懲罰的抑止、拒否的抑止の3種類があります。日本では報復的抑止はできませんから、残りの2つを組み合わせて対処しなければなりません。懲罰的抑止力とは『そんなことをやったらひどいことになるからやめなさい』、拒否的抑止力とは『そんなことをやっても無駄だからやめておきなさい』ということ。例えば小泉政権以来、整備を進めてきた弾道ミサイル防衛や、国民保護法制がこれにあたります。仮に北朝鮮がミサイルを撃ったとしても撃ち落とす、撃ち落としそこなっても落下点には住民は誰もいない、という状況を作ることが抑止になります」
中国の共産党支配はなぜ続くのか
——脅威という点では、近年の中国の海洋進出もあります。
「中国の歴史においては、いくつもの王朝が交代しています。今思い出せる主な王朝だけでも清、明、元、宋、唐、隋などいろいろありました。その延長線上で現在は中国共産党“王朝”が治め、比較的長く続いています。なぜ、共産党王朝がこれだけ続いているのかを考える必要があります。
建国当初は、マルクスレーニン主義というイデオロギーで『あなたも貧しいが私も貧しい。共産主義とはそういうものだ。同志よ、耐えるのだ』と民衆を抑えて国を維持することができました。しかし、鄧小平氏の改革開放後は、体制が共産主義で経済は資本主義という見たこともない状況になりました。なぜ共産主義の国に貧富の差があるのか、なぜ資本家が存在するのか、なぜ沿岸部は豊かで内陸部は貧しいのか、など多くの矛盾が噴出する中で、この不思議な体制を維持するためには『共産党におまかせあれ。来年はもっと豊かに、5年後、10年後はさらに豊かになります』という夢を国民に見せ続けなければならない。つまり、体制を維持するためには経済発展しかないということになっているのです。
また、体制を維持するための道具として人民解放軍があります。人民解放軍は共産党の軍隊であって、中国国民の軍隊ではありません。共産党の体制維持のために軍事力拡大を選択したと考えることもできます」
中国の空母の実力は
——そういう中国に対して、日本も含めて周辺諸国は警戒を強めています。
「人類の歴史の中でも、中国が地域を支配していた時期は相当長いわけです。それがアヘン戦争(1840-1842年)以降、国際的な地位が低下したと感じ、悔しいと思う部分もあるのでしょう。誇りと劣等感とがないまぜになった中で、『かつての中華帝国をもう一度』と考えていてもおかしくはありません。過去に中国が地域を支配していた事実があり、現在も覇権の復活を望んでいるかのような言動が否定できない以上、周辺諸国が脅威を感じるのは当然です。
しかし、軍事力は金をかけるだけで飛躍的に向上するものではありません。中国はウクライナから航空母艦を購入していますが、空母機動部隊として運用できるかと言えば疑問です。歴史上、空母機動部隊を見事に運用したのは、戦前から戦争初期までの大日本帝国海軍と、現在の米合衆国海軍だけです。冷戦期のソ連ですら有意義な運用はできませんでした。単なる大国主義で空母みたいなものを持ちたいというだけなら、中国の空母は金の無駄遣いで終わるでしょう。しかし、中国がそこまで愚かだとは思いません。私が危惧しているのは、フォークランド紛争の際に英国の空母が果たした役割を考え、機動部隊として運用するのではなく『島を取るには空母だ』と考えている場合です」