犬山紙子対談「この女性(ひと)に会いたい」

米良はるか(READYFOR CEO)「社会問題解決のための仕組みを考えて、作るのが好きなんです」: 犬山紙子対談 第1回

社会

コラムニストの犬山紙子さんが各界で活躍する気になる女性に会いに行く連載がスタート。記念すべき第1回の対談相手は、23歳で日本初・国内最大級のクラウドファンディングサービス「READYFOR」を立ち上げた米良はるかさん。実は旧知の間柄という2人。自身の出産を機に、児童虐待問題に取り組む犬山さんは支援を必要とする子供や親へのクラウドファンディング寄付プログラム「こどもギフト」を2018年に発足。そのプログラムのプラットフォームとして手を組んだのが「READYFOR」だ。さまざまな社会問題や日本におけるクラウドファンディングについて詳しい2人が、今気になる問題について語り合った。

米良 はるか MERA Haruka

1987年生まれ。2010年慶応義塾大学経済学部卒業、12年同大学院メディアデザイン研究科修了。大学院時代にスタンフォード大学に短期留学し、帰国後11年に日本初・国内最大のクラウドファンディングサービス「Readyfor」を立ち上げ、2014年「READYFOR(レディーフォー)」として株式会社化、代表取締役CEO(最高経営責任者)に就任。11年世界経済フォーラムグローバルシェイパーズに選出され、日本人史上最年少でダボス会議に参加。現在は首相官邸「人生100年時代構想会議」議員や内閣官房「歴史的資源を活用した観光まちづくり連携推進室」専門家を務める。

多面的な視点の重要性

犬山 「こどもギフト」ではお世話になっていて、ありがとうございます。

米良 犬山さんたちが想いをしっかりと発信してくれるので、多くの方から支援をいただき、私の方こそ感謝しています。

犬山 このプロジェクトで印象に残っているのは、虐待した親への回復プログラムの活動が成立したこと。「虐待するような親は鬼なのに、支援する必要があるのか」……。親を支援するというと、とかくそういう感情が働きます。ところが、実は子供が親元に戻るケースはすごく多いので、虐待を無くすためには、環境の整備やカウンセリングも必要なわけです。でもそれを誤解なく伝えるのは非常に難しいのですが、READYFORの皆さんが考え抜いて文章を作ってくれたおかげで、成立できました。

米良 当社では各プロジェクトには、目標金額達成のためのページ編集や広報戦略をサポートする担当者(キュレーター)がつきますが、非常にプライドを持ってやっています。例えば虐待をした人も報われるべきだと言い切ると、虐待を受けた立場の人や再犯率などの話が出てくる。一面的に物事を捉えて発信してはいけないと思っているので。社会における選択肢を広げるためにも、多くの人に問題を多面的に見てもらうことにこだわっています。

犬山 その意識はとてもよく伝わってきます。人を傷つけない配慮を感じます。

米良 話題になればいいという方向にいくと、誰かが歯止めをかける。「本質的にこの人達のゴールはそこなのか」「こういう風に見られていいのか」と、一つ一つのプロジェクトに真剣に向き合っています。

がんになって起きた意識の変化

犬山 READYFORは、「資本主義の仕組みではお金が行き届かないところに想いの乗ったお金の流れをつくりたい」ということを掲げています。そこに私も共感しているのですが、いつからそういう視点をお持ちになったのでしょうか?

米良 大学2年までは、就職する以外の選択肢があるとは思っていませんでした。ところが、大学3年の時に東京大学で人工知能の研究をしている松尾豊先生と共同研究をすることになって。スパイシーという人物検索のサービスなどを作っていたんです。

犬山 私、使ってました!

米良 本当ですか? そのときにインターネットのフラットな社会作りって面白いなと思ったんです。個人のエンパワーメント(個々のパフォーマンスを最大限に引き出すために権限を委譲すること)であったり、光が当たらなかったような人に光を当てることをこの技術を使って実現してみたい、これで社会の構造が変わるかもしれないとすごくワクワクした。そう考えたら、就職することがその後の自分の人生にとって必要なのだろうか、と思うようになりました。

犬山 その先に起業があったんですね。

米良はるかさん 撮影:上平庸文
米良はるかさん

米良 もうひとつ、3年前にがんになったことも大きいです。約7カ月の治療期間でいろいろなことを考えるうちに、死生観みたいなものが生まれてきて、自分の残された人生をどう役に立てるかと考えるようになりました。それまでのクラウドファンディングで本当はお金が必要なのに、今の仕組みやシステムではお金が流れていない領域がたくさんあることを見てきました。お金が流れない領域が積み重なることは、社会全体にとってマイナスなことが大きい。何とかしたいと思いました。

お金を必要なところに回すことが使命

犬山 新型コロナウイルスでも、今まで顕在化しなかったような問題に気づいたことが多いですね。

米良 例えばがんの場合はいろいろな治療法がありますけど、患者数が少ない病気には予算がつかなくて研究が進まないケースもある。コロナにしても、感染症のリスクはこれまでも課題になっていたのに、見過ごされてきたことがあった。現状をより良くしていくための支えを社会全体でできればと思っています。

犬山 それは本来、国がやるべき事とも思いますが、個人や企業が社会のために動くこと、その流れを作ることは、とても大切だと感じます。私が「こどもギフト」で取り組んでいるのもまさにそれで、社会的養護が必要な子どもを支えるたくさんの団体が資金不足で、できることができないでいる。せっかくの理念や知見があるのに難しい現状がある。そこにお金を流すことのお手伝いができれば、という考えだったので。

米良 お金を必要なところに流していくことは、社会を前向きに進めるためにとても大事なこと。だから、私はそういうことに残りの人生を使っていくことが、幸せだと思っているんです。

犬山 私も自分が死ぬ時に悔いを残したくないというのが原動力にあります。子供に見られた時に、「お母さん、なにやってるの?」って言われたくない(笑)。そう考えると、環境って本当に大事ですよね。米良さんは大学でワクワクすることに出会いましたけど、環境によってハードルがある子供たちもいて。そういう障壁を取り除く作業は必須ではないかと。

批判するよりも、楽しくやる

犬山 私はある程度の力を持つ人は、その力を社会に循環させることがほぼ義務、というか、やるべきことだとも思うようになりました。生まれた環境や資本主義に馴染みやすい才能など、実力だけでない運の要素で集まった力もあるので、それを還元していく。

米良 そうですね、でも自分は義務感でやっているかというと、全然そうではない。私の場合は、社会の仕組みに違和感があるのに、もやもやしたまま放置するのが嫌い。だけど、声を上げて主張するのは得意ではなくて。社会問題解決のための仕組みを考えて、作るのが好きなんです。

犬山 その仕組みでとても助かる人がたくさん生まれていて……。好きなことが誰かの役に立つって最高ですね。私も今偉そうに義務だと言いましたが、私も動機は「このまま何も動かないと自分を嫌いになる」でした。

米良 当社が取り扱うのは社会性の高いトピックが多い。私は批判するよりも楽しくやる方が好きなので、READYFORでは、支援をしてくださった方々が「応援コメント」というポジティブなコメントを投稿できるページを用意しています。このページでは支援をした人しかコメントできないようになっているので、本当に皆さんポジティブな気持ちで応援したいと思ってくださっているような内容ばかりが並びます。そういう社会の方がいいなと思っているので。

犬山 READYFORは寄付に対するハードルも下げてくれたと思います。私の場合、以前はこれはちゃんとした団体なのかな……と半信半疑で小銭を入れるぐらいで留まっていたり、テレビ番組を見て心が揺れ動いても、どこに何を支援すればいいか分からないから、「私には何もできない」と思いこんでいた。それを「あなたも簡単に参加できるよ」と教えてくれて、使われた先も透明で、しかもリターンがあるから、支援する方も楽しめる。

米良 ハードルを下げるというのは大事なことですね。日本では寄付を崇高なことと捉えて、「私が参加していいのだろうか」みたいに思ってしまう人が多いのです。

犬山 自分なんかがって意識、私も思うことがあります!

犬山紙子さん 撮影:上平庸文
犬山紙子さん

米良 大きな問題だからではなく、自分の気持ちが動くトピックでいいと思うんです。最近はコロナでスポーツ、飲食、芸術とあらゆるところが大変な状況です。その中からアートが大事ならアート、劇団好きなら劇団、大好きなラーメン店を応援したいならラーメン店を支援するのでもいい。自分が大事なものって人それぞれですから。むしろ何を支援するかが自己表現になるぐらいハードルが下がるといいなと思っています。

社会に対してインパクトを出していく

犬山 もう一つお聞きしたかったのは、米良さんが紹介される時、「女性起業家」と言われることがあると思います。

米良 言われますね。

犬山 「女子アナ」「女流作家」という言葉もあったりしますが、それはやはり、男性がメインであるという意識のもとに生まれた言葉だなと感じます。呼ばれることについてはどう感じますか?

米良 呼ばないでと言ったら、呼ばなくなると思うので、表面的な問題は解決するでしょう。セミナーなどに女性枠として呼ばれているんだろうなと思うこともありますが、もっと成果をあげて、米良さんを呼ばないといけないと言われるぐらいまで、社会に対してインパクトを出していかないとと思っていますね。

犬山 「女性枠」と思わされてしまうこと自体悲しい。例えば実力で選ばれているにもかかわらず、「女性枠だ」と言われて、自己評価を下げさせられることもあるのかなとも思います。こういった属性で判断をされることは、この先どうなっていくように思いますか?

米良 女性枠というのは旧来の価値観の中で作られた枠、それこそ仕組みです。でも、自分たちの世代で起業している人たちは、男女や年齢で分けている人って見たことがなくて。有能ならば若くても女性でもどんどん活躍させているし、結果が全てだと思っています。

犬山 それは勇気がもらえます!

米良 もちろん、そうではない人もいるかもしれないですけど(笑)。あとは企業などの価値観自体も変わってきているように思います。例えば「売り上げを一番上げた人が神様」ではなくて、「成功するためにはチームワークが大事」という心理的安定性みたいなことが重視されるような経営を実践しているところも多い。弱いところも強いところもお互い補い合って、会社が目指すミッションやビジョンに向けて、みんなで頑張っていこう、という雰囲気になってきているのではないかと思います。

今いる環境が全てではない

犬山 米良さんから感銘を受けた言葉があるんです。「人は全員優秀、活躍できるかどうかは自分に合う環境を見つけられていないだけ」という言葉。人間はみんなどこかの環境では活躍できる。その環境をどう構成するのか。今のお話はそこにつながりますよね。

米良 ただ、そういう価値観が一般的になっていくには、そう思える環境で育ったかが大事だとも思います。信頼されない環境で育ってしまうと、人を信じたり、任せたりすることが難しい。人を信じられるのは、結局、環境なんですね。だからこそ社会はいろいろな環境の選択肢を子供達に提供できるようにしないといけない。

犬山 一度人を信じられなくなると、その回復もとても難しいですし。自分が信頼される場所もあるよ、他の環境があるよと知らせることも大事ですね。

米良 今いる自分の環境が全てでは絶対にない。それをどれだけの人に感じてもらえるかですね。

犬山 自分のいる環境が選べないことは、もやもやとした閉塞感に苛(さいな)まれ、幸せを感じられないことにつながるんですよね。ご飯は食べられているし、学校にも行っているけど、毎日が嫌だ、退屈だって、私も学生時代に感じていました。さて、最後に、米良さんの将来の夢を伺いたいのですが。

米良 誰もがやりたいことを実現できる世の中を作ることです。今、自分がトピックとして掲げていることはあまりにも壮大なので、人生が終わっても解決しないと思っています。それでもいろいろな所で課題を見つけて、それを解決するための仕組みを作っていくことはできる。今、それができている自分はすごく幸せだし、同じ感覚を一人でも多くの人に感じてもらえたら、社会が幸せになる可能性は高いと思っています。

犬山 米良さん自身がその活動を通して幸せだと言えること、本当にかっこいいです。自分で選んでいくためにも、選択肢を広げるというのは本当に大事ですよね。子供たちにその機会が与えられるように、今後もよろしくお願いします!

対談まとめ: 林田順子
写真:上平庸文

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