国債発行は海外の信認失う

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前財務事務次官の丹呉泰健氏は、震災後の復興への取り組みは日本経済の再生の契機となりうると指摘する。海外の投資家の日本に対する信頼を維持し、未来の世代に負担を残さないためにも、国債に頼らない財源確保が必要だと提言する。

ピンチから新しい日本をつくる好機へ

3月11日の東日本大震災は、多くの方が亡くなり、また家を失い、地場産業である農林水産業は壊滅的打撃を受け、福島の原子力発電所が機能を失い放射能の漏洩をもたらした。また各種工場が被災し、東京電力の一時停電もありサプライチェーンの断絶など日本経済・世界経済へも影響を与えている。国民生活、日本経済に未曾有の被害をもたらしている。

この大震災に対して、日本政府は先頭に立ち、国民の協力を得て復旧、復興に取り組んでいる。大変厳しい課題であるが、再び立ち上がるとの強い決意で政府・国民が一体で取り組んでいる。必ずや、日本は再生するとの意気込みが日に日に強くなっている。

明るい知らせもある。第一が、直接の被害に遭われた方々の我慢強さ、秩序だった行動、明日を生き抜く決意など、世界の人々が驚き、日本を東北の人を賞賛している。

第二が、予想外に多くの若者がボランティア、NPO・NGO(民間非営利団体・非政府組織)として被災地に入った。日本人の団結心がよみがえっている。

第三が、世界のいろいろな国、人々から日本に対し協力、暖かい援助の申し出を頂いた。また急激な円高に対応して、G7(先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議)の財務当局が協調介入という協力に迅速に合意し、実行した。世界の協力に感謝を申し上げるばかりである。決して忘れることはない。日本は世界の中にあるのだと実感した。

第四に日本の政治が、これまでの生産的でない与野党の対立をやめ、大震災の復旧・復興のため協力することになった。

このように、大震災の被害は大きいが「ピンチからチャンス」も生まれ始めている。

災害の痛みは現代の世代で分かち合う-米、豪州

復旧・復興対策は、第一段階は、仮設住宅の建設、がれきの撤去、ライフラインの確保、原子力発電所の正常化などの復旧対策、第二段階が被災地の再建、新しい街作り、雇用・経済の回復、電力供給対策、環境・エネルギー対策、耐震対策、さらには東京一極集中対策の見直しなどの復興、再生対策である。

政府は、復旧対策のための2011年度予算の補正予算を4月中に編成することを決定した。予算規模は、この震災が未曾有であるから、これまでになく大きいものとなる。問題の一つが、その財源である。

日本の個人金融資産は約1400兆円ある。また、外国には300兆円を超える資産があり、経常収支は黒字である。しかし、日本は既に財政赤字の残高が、GDP(国内総生産)の約2倍に達している。2011年度予算でも国債の発行が税収を上回る状況である。欧米と同じように、いや本来ならもっと厳しい財政健全化に取り組まなくてはいけない状況にある。

こうした中、震災対策のためとはいえ、新たに多額の国債を発行することは、海外の投資家の日本に対する信認を失わせ、国債金利の上昇を招き、経済、国民生活をかえって悪化させることになる。非常に難しい問題に直面している。

昨年、大洪水に見舞われたオーストラリアは対策の財源に国債を発行しないこととした。ハリケーン・カトリーナに見舞われた米国も同じであったと聞く。痛みは、現在の世代で分かち合い、将来の世代に残さないとの強い覚悟の表れでもある。 

日本でも与党・野党の政治家が、先ず成立したばかりの2011年度予算を見直し、不要不急の予算を大震災の財源とすることで合意し動き出した。税金を上げること、電力料金を上げるなどのアイデアも出始めている。一時的なつなぎの国債はあっても、最終的な財源は国債に頼らないようにしようという姿勢である。

皆で知恵を出すときである。政治家が与党・野党という立場を超え、被災者の方々のため、そして日本の再生のために是非リーダーシップを取り、財源問題を解決し、必要な補正予算を迅速に編成する時である。国民一人として期待している。

地元、官民、外国の英知を投入した再生策を

また、復興対策は4月11日に発足する復興構想会議を中心にこれから議論が始まる。難しい問題は山とある。しかし、東北・関東の被災地を再建し、以前の安定した生活、地域経済を取り戻す。ここは日本経済を再生する機会を得たと積極的にとらえたい。

先ずは、地元の意見をしっかり聞くことである。また、今回の大震災で何がやられ、何が問題なかったか。例えば高速で走行していた東北新幹線、工事中の東京スカイツリーなどに問題はなかったと聞く。これらを冷静に検証する必要がある。その上で、新たな津波対策、最新の耐震技術、最新の省エネルギー・環境対策などを取り入れた街作りを行う。更に東京一極集中をこの機会に見直す。地元、官民の英知や外国の英知をも投入した復興、再生対策をまとめる。新しい日本を作る好機である。

日本は、65年前太平洋戦争の荒廃から立ち上がった。今回は、日本全体が震災に遭ったのでない。「東日本大震災から必ず復活する。新しい日本をつくる」これが我々に課せられた課題である。やらなくてはいけない。

(4月2日 記す) 

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